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「日本でN分N乗方式は可能か?」(第5章関連)(2023/5/24ディベート)

2023年2月、国会でも話題になったN分N乗方式。少子化対策として期待されたフランス発の税制ですが、日本の税制とは何が違うのでしょうか。今回は、日本の政策や税制を考えなおす上でN分N乗方式についてディベートを行いました。

そもそもN分N乗方式とは?

N分N乗方式とは、世帯ごとに所得税を算出するフランスの税制になります。日本の所得税は、個人ごとに計算されるので、課税単位という点で違いがあります。また所得税の計算方法も特徴的で、世帯全体の所得を世帯の人数(N人)で割って課税所得を求めたのち、ふたたび世帯人数(N人)をかけて所得税を求めています。ややこしくて分かりづらい仕組みですが、式にすると以下のようになります。

(世帯全体の所得)÷(世帯の人数N)×(税率)=(課税所得)
(課税所得)×(世帯の人数N)=(所得税)

 Nの値が大きいほど課税所得が小さくなるので、世帯人数が多いと所得税も少なくなるわけです。そして、Nには子どもの人数も含まれるので、子どもの多い世帯ほど税負担が小さくなり、少子化対策にもつながるのではないかと期待されていました。

日本でN分N乗方式は可能か?


 N分N乗方式は、世帯人数が多いほど税負担が小さくなりますが、しかし日本に導入した場合、どれほど税負担が変わるのでしょうか。また、フランスの税制を日本に導入することで、新たな課題が生まれることはないのでしょうか。今回、私たちのゼミは2つのグループに分かれて、日本へのN分N乗方式導入について賛成意見と反対意見を競わせました。

グループA

賛成
・子どもが多いほど税負担が小さくなる➡ひとり親世帯の負担減。
・国民感情の面から、増税して児童手当などを給付するのは難しい。しかし、減税ならば国民の反感は比較的小さい。
・N分N乗方式導入後、フランスでは出生率が回復。日本の課税制度全体を改革することで効果を得られる。

反対
・財務省の試算によると、高所得者層の負担減・低中所得者層の負担増➡格差を助長
・税収減少
・現行の累進課税制度と税額が変わらない人も多い。
・日本とフランスではジェンダーギャップ指数に違い➡女性の社会進出・働きやすさが違うので一律に比較できない。

グループB

賛成
・現行の累進課税制度では、6割が最低税率5%、8割が10%以下であり、税負担はほとんど変わらない➡収入が多いほど税負担減の恩恵を受けられる➡労働のインセンティブになる

反対
・賃金は簡単に上がらない➡収入を増やして税負担減の恩恵を受けるのは難しい
・高所得者層は40代以上が多い➡N分N乗方式で税負担を減らしても、生物学的に子どもを産むのは簡単ではない➡少子化対策にならない
・税収が減る➡減少した分をほかの税金を増税することでまかなう➡低所得者層の生活が一層苦しくなり、ますます子どもを持てなくなる

まとめ


 各グループで賛成意見と反対意見を出し合いましたが、全体的に反対意見が優勢となりました。N分N乗方式を導入したとしても、現行の累進課税制度と税率がほとんど変わらない世帯が多く、恩恵を受けられるのは高所得者層に限られるというのが決定的でした。低所得者層や多子家庭などの負担はそのままに、格差だけが広がるのでは意味のない税制改革となってしまいます。子育て支援の進んでいるフランスの税制だけを真似しても、少子化や格差の解決にはつながらないようです。

参考文献

『脱少子化、フランスの税制 産めば産むほど安くなる. 読売新聞.』 2008-01-03, 東京朝刊,p.3, ヨミダス歴史館, https://database.yomiuri.co.jp/rekishikan/

『自民党:子多いほど税軽減 有志「世帯方式」検討へ』 毎日新聞. 2017-02-19, 東京朝刊, p.3, 毎索,

小渕高志『やさしい社会保障のはなし, Journal of Sociology & Social Work』, 2023, 頁77~83[PDF] nii.ac.jp

『フランスは少子化対策の財源をどう確保したか』大岡頼光、2017
2017_1002_03ohoka.pdf
 
『少子化対策で注目される「N分N乗方式」って?』東京新聞Web,2023.2.4
https://www.tokyo-np.co.jp/article/229218

『「N分N乗」政府慎重 多子世帯 税負担軽減策 高所得者ほど恩恵 課題』、読売新聞朝刊 4頁 ヨミダス歴史館 https://database.yomiuri.co.jp/rekishikan/ 2023/5/22閲覧

『子育てへの現金給付、海外は 予算割合低い日本どうする 米は給付なく税優遇』、朝日新聞朝刊 4頁 朝日新聞クロスサーチ
https://xsearch.asahi.com/kiji/detail/?1684750422204 2023/5/22閲覧

『「N分N乗方式」導入なら少子化対策に?子ども多い世帯ほど税負担軽く』、朝日新聞クロスリサーチ、2023年2月4日朝刊6phttps://xsearch.asahi.com/kiji/detail/?1684839202770

『(社説)子育て支援 効果と要望、見極めて』、朝日新聞クロスリサーチ、2023年2月17日朝刊14p https://xsearch.asahi.com/kiji/detail/?1684837026636

『「N分N乗」案、導入に課題 少子化対策、財務省が税負担試算』2023/02/14 日本経済新聞朝刊5ページ

『「N分N乗」案、導入に課題 少子化対策、財務省が税負担試算.』日本経済新聞. 2023-2-14, 朝刊, 5ページ, 日経テレコンhttps://t21.nikkei.co.jp/g3/CMNDF11.do
 
木内登英,『 少子化対策としての所得税「N分N乗方式」導入には大きな課題』, NRI 野村総合研究所https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/fis/kiuchi/0207 (参照 2023-5-23)
 
新井美佐子『フランス福祉政策に関するジェンダー的考察』
https://okazaki.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=41&item_no=1&page_id=13&block_id=21

厚生労働省 『専業主婦世帯と共働き世帯の推移』https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000118655.pdf

『個人所得課税に関する論点整理、H17 税制調査会 3(2)ハ』https://www.cao.go.jp/zei-cho/history/1996-2009/etc/2005/170621.html
『所得税改革の論点(4)世帯課税の採用検討 大家族の負担軽減』、日本経済新聞 2014 05 22


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