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『働く母親と階層化』~仕事・家庭教育・食事をめぐるジレンマ~額賀美紗子・藤田結子著

「働く母親と階層化」の第1章から第3章までを要約した。
以下、要約内容である。

第1章:母親意識と時間負債


・Hochschildが「時間負債」という概念を用いている
時間負債とは→子どもは母親ともっと一緒に過ごす時間が欲しいと願い、たいていの母親もそう願っている一方で、仕事や家事時間との兼ね合いでその時間を十分に取れていないことに罪悪感を感じること。

・インタビュー調査によると、母親だけに見られる「父親とは異なる母親の特殊性」を強調する母性イデオロギーのもとで、大半の女性は大きな疑問を抱かず子ども中心主義を受け入れ、母親意識を強く持っていた。

・三歳児神話に関しては、懐疑的あるいは否定的な見解が多かった。

・母親業と仕事を織り合わせるために、「子ども優先・仕事セーブ」の戦略が多くとられていた。一方で、キャリア志向のある正規社員の女性たちからは、責任ある仕事がもらえないことや昇進の機会が来ないことなどマミートラックにも思える状況に、不満が漏れていた。さらに、非正規雇用だったり、正規雇用でも低賃金だったりする女性たちからは、仕事セーブの戦略が経済的不安につながるという声があがった。特に、夫も低賃金の場合この不安は増大する。

・そこで、2つ目の戦略として、子どもと過ごす限られた時間のクオリティを意識することが行われていた。この戦略を取る場合は、まとまった時間が取れなくても、親子に与えられた時間の中で最大限愛情を伝えようとしていた。
特に、この戦略をとる女性たちは学歴や職業によらず、しつけに気を配る意識が共通して見られた。どこに重点をおくかは人によるが、共通していたのは子どもが自分で自分のことをできるように「自立」を促す姿勢である。

・手抜きをすることで、育児のハードルを下げ、仕事と子育ての間の軋轢を緩和しようとしていた。

・保育園に行きたくない、もっと一緒に過ごしたいなどの子どもの抵抗に対して、女性たちの中には働く理由や姿を子どもに伝え、「「働く母親」を受け入れてもらおうとする試みがみられた」。

・働く母親を支えるのが保育制度だ。「女性たちは保育所に子どもを預けることがむしろ子どものウェルビーイングを保障しているというロジックを立てて、時間負債の感情を軽くし」ている。

・一方で、保育所利用が時間負債の軽減にあまり貢献していないと感じる者もいた。理由の1つ目は、保育所で「母親が育児の主な責任者であるという性別役割分業規範と母性イデオロギーが強く維持されて」いることだ。
2つ目は、「保育所が子どもにクオリティの高い時間を十分に提供していないのではという迷いと不安」があることだ。

第2章:家庭教育への関わり方と就業意欲


・2つの子育てタイプがある
①「親が導く子育て」
=教育的働きかけの大切さを強く意識し、積極的に子どもの教育環境を整え、小さいころから子どもの知的好奇心や学習態度を培って、多様な子どもの能力を開花させることが親の役割であると考えるタイプ。
②「子どもに任せる子育て」
=親が積極的に教育的な働きかけを行うことに対して否定的で、むしろ「本人がやりたいこと」を重視し、親は後方から応援するという考え方を支持するタイプ。

・「親が導く子育て」
勉強的な意味で学習習慣を身につけさせたり、習いごとや体験活動を通じて様々な経験をさせたりすることを重視する。
外出先も、子どもの知的好奇心や感性を刺激するような場所を選ぶ。
このタイプを選ぶ親の学歴の内訳を見ると、大卒女性が14名、非大卒女性が9名となっていた。

・「子どもに任せる子育て」
子どもをのびのび自由に遊ばせることが重視され、親は子どもがやりたいと言ったことに対して支援をする形を取る。親子それぞれの自由時間を確保することに重きが置かれる傾向にあった。
外出先は、親子どちらものんびり過ごせる近所の公園やショッピングモールが選ばれることが多かった。
このタイプを選ぶ親の学歴の内訳は、大卒女性が9名、非大卒女性が14名であった。

・子育てタイプと親の学歴に相関性が見られることは、先行研究と重なる。

・子育てタイプと就業意欲にも関連性が見られた。
「親が導く子育て」を取る場合、女性の就業意欲にブレーキをかけやすいことがインタビューから明らかになった。
子どもに学びになる活動をしてあげられることが、親としての役目を果たしていると感じられると言う女性がいた。そこから、子どもに勉強を教えるなどの学習時間が取れないと時間負債を感じることにつながり、仕事より子どもとの時間を優先したいと思う女性が多いようだ。
一方で、「子どもに任せる子育て」を行う場合、それが時間負債の緩和に繋がっている。子どもの自由にさせるため、親が積極的に時間を割く必要がなく、子どものための時間を取れていないという罪悪感を感じることが少ないからだ。しかし、現代の日本社会でも「親が導く子育て」の規範が強く、著者としては「子どもに任せる子育て」を選ぶことの将来的なリスクを認識しているのは、大卒女性の方が多いとの見方であった。

第3章:家庭教育における父母の役割分担


・共働き家族における子育てタイプの4類型
①父母協働志向の「親が導く子育て」
②母親に偏った「親が導く子育て」
③父母協働志向の「子どもに任せる子育て」
④母親に偏った「子どもに任せる子育て」

・父母協働志向の「親が導く子育て」
このタイプでは、父母が子どものしつけや教育について頻繁に相談をし、父親もしつけ、読み聞かせ、学習、習い事の検討と送迎、園のイベントや保護者会などによく関わる様子が見られる。
「親が導く子育て」には、親の時間と労力が必要だが、それを父母で相談し行っているのだ。
事例を見ると、夫が関わる範囲は家庭それぞれだ。家事、子どもの世話、遊び、教育などに参加する夫もいれば、家事や子どもの世話は行わないが教育に関することには積極的な夫もいた。後者の家庭の場合、いわゆる教育熱心な夫であるが、家事・育児の労働時間を多く捻出しているのは妻の方であった。

・母親に偏った「親が導く子育て」
このタイプは、夫が子どものしつけや教育にほとんど関わらないタイプである。子どもの教育についての相談をもちかけてもそっけない返事が返ってくるだけで、「母親だけが導く」ことが常態化している。
ある事例では、夫に子どもの習い事や教育方針について相談を持ちかけるも、反応が薄いと述べられていた。育児に対する価値観をアップデートしてもらおうと、育児本を勧めても聞く耳を持たないようであった。
他の事例でも、このタイプは夫が教育に無関心であることが指摘されている。

・父母協働志向の「子どもに任せる子育て」
このタイプは、子どもの「やりたいこと」を支える環境を父母で協力して作っていくタイプだ。教育的なはたらきかけを意識して行うことは少ないが、父親は母親と一緒に子どもの教育やしつけや将来について話し合い、子どもの生活リズムを整え、遊びに付き合い、保育所の保護者会や行事に参加している。
このタイプには、2つのパターンが存在した。
1つは、父母の教育的関心が比較的高く、明確な意図を持って「子どもに任せる」ことを選択するパターンだ。
もう1つは、父母の意見が「親が導く子育て」と「子どもに任せる子育て」で一致していないが、相談の中で子どもの成長に合わせて子育ての方法を変えようとするパターンだ。

・母親に偏った「子どもに任せる子育て」
このタイプは、父母それぞれが可能な範囲で子どもの「やりたいこと」を尊重する。
父母の間には、子どもの意志を尊重し自由に育てようという意見で緩やかに合意が生まれていた。しかし、母親がしつけの重要性や習い事への関心を示す一方で、父親のしつけの関与や子どもの教育、進路に関する父母の会話は多くなかった。
第2章であったように、「子どもに任せる子育て」では、母親としては時間負債の緩和に繋がる。そのため、2つの事例があったが、どちらも学習習慣などよりも、子どもが自立するように働きかけることを重要視している。しかし、その働きかけを行うのは主に母親であり、父親は仕事中心であった。

・階層の影響と格差の形成
母親の時間負債は、父親の育児参加によって緩和されているようだった。
一方で、子どもの教育について無関心な父親の場合、母親たちからは不満が上がっていた。また、母親自身が性別役割分業意識を持っていると、不満が潜在化する傾向があった。
こうした状況には、階層の影響が見られる。父母協働志向に該当するのは、「父母共に大卒」が最も多く、母親に偏る家庭は「父母共に非大卒」が最も多かった。

・子どもの教育格差
母親の育児負担の大小のほかに、親の階層が子どもの教育機会に影響を与えている可能性が示唆される。
例えば、「父母共に大卒」であれば協働志向が多く、「父母共に非大卒」であれば、母親に偏る場合が多い。
つまり、大卒・高収入の家庭では、家庭内の教育を経済的以外にも文化資本・社会関係資本的にもより充実しやすく、家庭によって子どもの学力レベルに差が出てくることが考えられる。

コメント

今回、卒業論文に関連して、女性のWLBを達成するために立ちはだかる障害を調べるために、この本を読んだ。子育てタイプを分けて考察しており、今まで学んできた体感を言語化していたため、とても興味深かった。
また、父親の育児参加が階層によって異なるというデータによって、他の文献と合わせて考えを深めやすくなった。

作成者:4年 原田

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