各国の非正規労働の形態・実態

濱口桂一郎著『ジョブ型雇用社会とは何か―正社員体制の矛盾と転機―』(岩波新書)の第三章を読み、世界各国の非正規労働の形態について調べ、その特徴をまとめていきました。

《ドイツ》
◯非正規労働=パートタイム労働、有期契約労働、派遣労働←ほぼ日本と同様
◯特徴
・ミニジョブ(僅少労働)
収入が月 450 ユーロ 以下である場合に、所得税及び社会保険料の労働者負担分が免除される就労形態。パートタイム労働の一種とされる
・派遣労働について:
労働者派遣法上は 派遣元企業と派遣労働者は有期労働契約を締結することも可能であるが、約80%が期間の定めのない労働契約(日本でいう常用型派遣)

◯ミニジョブについて
・「ミニジョブは、特に女性にとって、貧困高齢者という末路をたどる労働市場政策上の袋小路だ」→2013年からは年金保険への加入が原則として義務付け⇔使用者に文書で適用除外を申請すると免除される特例あり→加入割合はそれほど伸びず
・雇用の調整弁
コロナ危機には100万人ほど減少(ミニジョブは雇用維持政策の主柱である「操業短縮手当」の保護対象外)
・労使の見解
使用者:「闇労働(社会保険料負担から逃れる目的で届出なしに行われる労働)の防止に重要な役割を果たしている」
労働者:「社会保険義務のある雇用を空洞化させ、低賃金セクターを固定させる要因になっている」

◯格差是正規制
・パート・有期→「パートタイム・有期労働契約法(TzBfG)」
不利益に取り扱うことを禁止
パート→賃金等の給付について比較可能なフルタイム労働者の労働時間の割合に応じた給付が与えられなければならない(時間比例原則)
有期→算定期間における就業期間の割合に応じて支給されなければならない(期間比例原則)
・派遣→「労働者派遣法(AÜG)」
比較可能な労働者との均等待遇原則
・規制の例外
パート・有期→不利益取扱い禁止規制の例外は認められていない
派遣→均等待遇規制は労働協約によって逸脱することが認められている
→派遣労働者は産業別協約による均等待遇規制の適用が除外されている場合が多い

◯非正規労働者の割合
・2014年で21%
・男女比
パート→男15%・女85%
ミニジョブ→男23%・女77%
有期→男50%・女50%
派遣→男67%・女33%

◯実情
・パート・有期
産業別労働協約の存在がある
労働協約によってカバーされている場合→パート・有期でも、職務や職業資格・能力・学歴等がフルタイム労働者・無期契約労働者と同一であれば、同一の賃金等級に格付け
→時間単位の基本給に格差は生じない
裁判で争われる内容は、基本給自体ではなく、手当や給付に関する異別取扱い関連が多い。
(ミニ・ジョブ :主婦や学生、年金生活者等が多く、職業資格・能力が低い→補助業務が多い+労働協約によりカバーされない場合がほとんど→低賃金)

派遣
労働協約によって均等待遇原則を適用しない措置が認められている
産業別労働組合と派遣元使用者団体との間で、労働条件を派遣先労働者の水準より低く定める労働協約(派遣協約)が締結されている
派遣労働者は直前まで失業者だった人、若者のように高い職業能力や資格を持たない人が多く、協約上の格付け自体が低位
→低水準の賃金(43%の格差)


《オランダ》
概観
・世界初、世界唯一「パートタイム経済」「パートタイム社会」
・パートタイム労働者=週労働時間35時間未満
・2016 年のパートタイム労働者の割合は男女計 48.5%、男性 26.0%、女性 74.7%
=男女の半数近く、女性の4分の3がパートタイム労働者

↓日本パートタイム労働者数 22年男女計26.6%、男性14.6%、女性43.0%
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001orbi-att/2r9852000001orfa.pdf
(厚生労働省)

・子供がまだ小さいパパやママ、55~64歳のミドル~シニア層、若者が多い
→短時間勤務からスタートし、徐々に労働時間を増やす場合も
→労働市場への参入を柔軟なものにする効果
・管理的職業の2割、専門的職業の4割がパートタイム
・「非自発的パート」の割合が低い

法整備
・1973年、結婚・妊娠を理由とする女性解雇禁止
→しかし、保育施設不足・「女性は子育て」規範意識から、女性就業率増加の大部分はパートタイム雇用

・1982年「ワッセナー合意」 政労使間で締結
労使:賃金抑制、労働時間の短縮(週40時間→週38時間)に合意
政府:社会保障の抑制→財政再建&労使の負担減

・1993年 労働財団「ニュー・コースの合意」以降
・労働時間短縮(週38時間→週36時間)
・高齢者の就業促進、55歳以上の就業率が急速に上昇
・女性就業率も急激に増加
  ↑今までキリスト教民主主義の影響が強く、母親=子育て
  ↑パートタイム労働活用
・4歳未満児の保育所利用率 1990年 5.7%→2008年 34.0%
・1991年男女双方が利用できる育児休暇制度導入
※育児休業や保育所をフルタイムで(毎日)利用するというよりは、保育所を週 2,3 日程度利用したり、育児休業を部分的に取得したりしながら、パートタイム労働と組み合わせる場合が多い。

・1996年「労働時間差別禁止法」整備
→パートタイム労働者も、フルタイム労働者と同等の権利が保障される
→賃金・手当・福利厚生・職場訓練・企業年金など
・実際賃金格差は比較的小さい(ただし所定内給与)

・2000年「労働時間調整法」
時間当たり賃金を維持したまま、労働時間を短縮・延長する権利が認められる
=「労働時間選択の自由」が保障
・ライフ・ステージの変化に応じて仕事と仕事以外 の生活の重点を変えながら,継続して労働市場に 参加しやすくなっている

・2015年「フレキシブル・ワーク法」(改名)
労働時間の長さだけでなく「働く時間帯」「就業場所」の変更を申請する権利も認められた

賃金
・フルタイム雇用の8割の時間給
・長時間働いた人ほど時間給が高い
(長時間労働者ほど、管理的地位に就く割合が高くなるためか)

課題
・パートタイム労働者らの、労働に対する満足度は高い
・少子高齢化、グローバル化による人材不足
→労働供給を増やすために、パートタイム労働者の労働時間を増やすことが求められる
・職務レベルは下位のものが多い


・オランダのパートタイム労働者=正規雇用扱い
(ただし、週4日・32時間以上勤務でないと、責任ある仕事には就けないとの意識がある)
・日本の非正規雇用と同等に当たるのは、「有期雇用」「派遣労働」「オンコール」。
有期雇用契約
(臨時雇用契約)
「3・3・3ルール」
3回契約更新済み、または全体の雇用期間が3年以上である場合、
(契約と契約の間が3か月以上空いていなければ)
期間の定めのない契約に切り替わる
派遣契約
派遣労働者と経剣事業主との雇用契約
契約期間が26週間を超えると、上の臨時雇用契約と同じ扱いになる
オンコール契約
一回の呼び出しで、3時間労働する権利がある。
3時間労働しなくても、3時間の賃金が保障される。
ただし、労働時間が固定されておらず、週15時間未満の契約、または週ベースで何時間働くかわからない契約の場合。

・これらは、「フレックス・ワーク」と呼ばれる。
・従来オランダの労働法では、望ましくない働き方として、非常に制限されていた。
・長所:フレキシビリティ、短所:安定性
・パートタイム労働(短時間勤務正社員)の制度が充実しているため、フレックスワークの普及が限定的


・フレックスワーク就業者数
 2000年:53万人
 全体の7.7%
 男女比は同じくらい

  •  15~24歳の若年層が多い

 フレックスワーカーの25%は非自発的

・1990年代後半、経済好況
→人材不足を補うため多くのフレックスワーカーが正規雇用に転換
・1999年「雇用の柔軟性と安定のための法律」
→正規雇用の解雇を厳しく制限する、労働市場の硬直性を緩和
→フレックスワークの不安定な地位を法的に強化

フランス
1)概要
(1)種類(労働政策研究H28)
・正規雇用=無期雇用(CDI)(期間の定めない労働者)
↕︎
・非正規雇用=「非典型」あるいは「不安定」雇用
 ex.有期雇用(CDD)、派遣労働、見習い
 
 ※パートタイム労働者について:
  フランスでは、多くが無期雇用で就労=×非正規

 ※参考(労働政策研究H22)

 
(2)規模、内訳(労働政策研究R4)
・非正規は約1割、増加傾向にある←サービス産業など産業構造の変化
・公共サービスでの有期雇用の比率が最も高い
・有期雇用は若年層が比較的多い:15−24歳の27%が有期雇用
 ※25−49歳では8%
・短期(1ヶ月以内)有期雇用の増加:
 ※1998 有期雇用の57%→2017 83%
 ←理由は産業によって様々
 ←失業保険制度の乱用との関連性 cf.Malus制度(乱用防ぐ)

(3)関連する基本情報、法律(労働政策研究H28、R4)
・SMIC(全産業一律スライド制最低賃金):
 ・法定最低賃金を定める
 ・物価スライド制と賃金スライド制に基づく指標によって改定率決定
 ・フランスの最低賃金 全労働者の平均賃金の約50%に相当
 ・2021年3月時点で1時間あたり10.25ユーロ
・オブリ法:法定労働時間を定める 週35時間
・労働法典L.1242-2条:有機労働契約の利用事由を限定列挙
 ・無期雇用の労働者が欠勤した際の代替要因 ex.長期病気治療、育児休暇
 ・経済活動の一時的増加 しかし、、判断が難しい
 ・季節労働 ex.農業、観光業
 ・無期雇用を用いないことが慣習化している産業での利用
  ex.ホテル・レストラン労働者、興行・映画関係の労働者
・労働法典L.1242-14、15条:
 無期雇用と有期雇用での平等取り扱い、賃上げの有期雇用適用、福利厚生・交通費支給など、無期雇用と同等の権利の受給
 ※有期雇用以外の非正規雇用も、同様の法律がある

2)非正規を取り巻く環境
(1)課題(労働政策研究R4)
・労働市場の分断化:労働市場に参入困難な労働者(職業資格や技術を有しない人)を疎外?
・有期雇用の短期化

(2)日本との類似点(労働政策研究R4)
・有期雇用は教育水準・職業資格の低い若年層が多い
 ←日本で非正規雇用から正規雇用への転換が難しい点と似ている
・パートタイム労働で働く女性労働者は約3割、女性の大半はフルタイム・無期雇用
(3)その他
・高い失業率 背景:年金受給年齢引き上げに伴う高齢労働者の増加など
・公共部門の雇用が大きい
 →いわゆる非正規公務員も存在するが、処遇に大差なし(自治総研2023)
  ↔︎日本の「官製ワーキングプア」との違い

3)まとめ
・あくまで無期雇用が標準であるため、有期雇用含めた非正規雇用は例外的であり、規模も限定される
・雇用制度において、法制度の観点から日本と違う点が多く、単純な比較は難しい

※若者の失業率、アラブ系の失業率?なぜ正規雇用を多くできる?社会保障予算関係する?

※参考文献
参考資料
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
(2016)「諸外国における非正規労働者の処遇の実態に関する研究会報告書 」
https://www.jil.go.jp/foreign/report/2016/pdf/0715_03.pdf
「ミニジョブの雇用代替効果―IAB分析」
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2022/05/germany_01.html
「半数近くのミニジョブが最低賃金未満―WSI分析」
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2017/05/germany_01.html
正木祐司、前田信彦(2003)『オランダにおける働き方の多様化とパートタイム労働』大原社会問題研究所雑誌
https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/535-01.pdf
善積京子(2020)『オランダのワーク・ファミリー・バランスの実践』追手門学院大学地域創造学部紀要
権丈英子(2018)『オランダの労働市場』日本労働研究雑誌
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/04/pdf/048-060.pdf
善積京子(2019)『オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス』追手門学院大学地域創造学部紀要
https://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/601/601200307.pdf
独立行政法人労働政策研究・研修機構「欧米における非正規雇用の現状と課題ー独仏英米をとりあげてー」、平成22年11月5日(2023年11月27日閲覧)
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2010/079.html
独立行政法人労働政策研究・研修機構「諸外国における非正規労働者の処遇の実態に関する研究会報告書」、平成28年8月(2023年11月27日閲覧)
https://www.jil.go.jp/foreign/report/2016/pdf/0715_03.pdf
独立行政法人労働政策研究・研修機構「諸外国の最低賃金ーコロナ禍における引き上げ状況(イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、韓国)、令和4年4月(2023年11月27日閲覧)
https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2022/special/no.239.html
独立行政法人労働政策研究・研修機構「フランスの有期雇用:日本の非正規雇用」、令和4年4月(2023年11月27日閲覧)
https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2022/04/france.html
薬師院はるみ「フランスの非公務員:日本型非正規公務員との対比という観点から」、自治総研通巻536号2023年6月号(2023年11月27日閲覧)
http://jichisoken.jp/publication/monthly/JILGO/2023/06/hyakushiin2306.pdf



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