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日本の近代化

 「日本の近代化はどのように行われたのか。」とは「今の日本はどのように作られたのか。」「今の日本はどうなっているのか。」に繋がる大変大きなテーマです。
 私の学生時代(政治学専攻)のゼミのテーマもそれに近かったのですが、当時は知識があまりにも不足していて、真髄や様々な事例、事象の関係性がほとんど理解出来ませんでした。
 その後社会人となり、だいぶ過ぎてから個人的に昭和史、特に大戦前後の実態や経緯について関心を持ったので、半藤一利さんや保坂正康さんのの著書を中心に少しずつ知識を増やしていったところ、すべてが明治維新以降の近代化の流れの一環であることが分かり、維新についてもまた少しずつ知識を足してきたのですが、なかなか全体感を明確には捉えられないでいました。
 この度、退職して少し時間が出来、書店で保坂正康さんの「近代日本の地下水脈1」(文春新書)を発見、また図書館で半藤一利さんと出口治明さんの対談本「明治維新とは何だったのか」(祥伝社刊)を発見しましたので早速その2冊を読んで見ると、詳しい方には周知の内容かも知れませんが、私にとっては目から鱗の解説が多々あり、だいぶスッキリと理解出来ましたので簡単にポイントを整理したいと思います。
 まずもって明治維新というと日本の近代化に向けた体制改革を、薩長を中心とする若い、新しい人材が力を結集して、総合的に成し遂げた画期的なムーブメントであるというイメージがありますが、明治維新という言葉は後付けで、黒船来航の外圧であたふたし、いくつかの選択肢の中で模索しながら進行したドタバタの結集であったことが指摘されます。
 英仏に世界戦略で出遅れたアメリカが中国、インドを中心とする大市場であるアジアでの残された突破拠点として日本にフォーカスし、当時の最新鋭艦4隻で来航した際、日本は国際情勢に関する多少の情報は得ていたものの、起きて困ることは「起こらない」と思い込む日本人の思考特性(大戦の際にも大いに発揮されるが・・)により、起こった時から対応を考える訳ですが、当時35歳の若き老中筆頭であった阿部正弘という人物が傑物で、腹を決めていち早く「開国」を決断、今後の日本の立て直し(近代化)はそれによって産業を興し、交易を行なって「富国」を実現し、そのお金で「強兵」を養う。この三本柱でやっていくしかない。と200年以上続いた海禁政策から大転換させます。この人はその後早逝され、そこまで知名度はありませんが、半藤一利さんによると日本の近代化のグランドデザインを描いた貢献者として、大久保利通に匹敵する2大トップの一人であるとのことです。
 その後、軍事力で薩長が幕府を倒し、江戸城無血開城や戊辰戦争、西南戦争等を経て、実権のなかった天皇をトップとしたプロイセン型の立憲君主制を確立させていきます。天皇は軍のトップとして統帥権を持ち、軍部がそれを輔弼するという体制になるのですが、その過程で大久保利通の暗殺、西郷隆盛の自刃、木戸孝允の病死があり維新三傑がいなくなってしまいます。このことは幅広い視野を持ち、世界の中で日本がどういう立ち位置、時間感覚であれば最も発展出来るかという先見性と求心力のあるトップリーダーを不幸にも失ってしまったことになります。(西郷隆盛は毛沢東の様な永久革命家で、更なる革命を目指した理想家で、新体制に馴染まなかったのは必然という解釈)
 その後実権は伊藤博文、山縣有朋という長州の二人に移り、伊藤は大久保利通の弟子として大久保のプランを忠実に実行していきますが、大村益次郎の後継として軍体制を一手に握った山縣は、西南戦争でシビリアンコントロールの制約によって、現場の軍事行動がやりにくかったことを踏まえて、天皇の統帥権と輔弼をバックにシビリアンコントロールを外し、「軍人勅諭」を発令し、大陸の利益線を主張するなど軍部主導の軍事国家建設を一気に推進していきます。
 その路線で日清戦争が起こり、戦勝して当時の国家予算の4倍もの賠償金を獲得したことから、軍事が国家ビジネスとなり、その後の日露戦争、第一次、第二次世界大戦への参戦となっていくというのが保坂さんのご指摘です。統帥権を盾にした暴走も問題ですが、本来クラウゼヴィッツの戦争論にあるように、戦争は政治の延長の一手段であるのに、戦争自体が目的化したことが誤りであり、最終的に大戦での悲劇に結びついてしまったとのことです。その思考が「人間性喪失」、「人命軽視」を生み、兵站の軽視や「特攻」、「玉砕」といった発想に結びついたのは歴史的事実と言えます。
 そしてこの問題の本質は、戦後日本が平和国家に変わって進んできた今、新安保法制や安保関連3文書の閣議決定等、再び軍事国家に戻ろうとする動きが顕著になってきていることにあります。
 明治維新時や戦後と同じく日本の近代化のあり方について、再度国民としても考えるタイミングになってきていると感じます。

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