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自分を戒め血肉化するために

松下幸之助 一日一話
11月14日 自分を戒めるために

松下電器では、昭和八年に“遵奉すべき五大精神”を定め発表して以来、毎日の朝会で唱和している(十二年に二精神を加え七精神)。これはもちろん、社員としての心がまえを説いたものであるが、それと同時に私自身を鞭撻するためのものである。みんなで確認しあった使命であっても、何もなければついつい忘れていきがちになる。だから毎日の仕事のスタート時にかみしめる。言ってみれば自分への戒めである。

人間は頼りないものである。いかに強い決意をしても、時間がたてばやがてそれが弱まってくる。だからそれを防ぐためには、常に自分自身に言い聞かせる。自分に対する説得、戒めを続けなければならない。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

「自分を戒める」という行動は、「自らのあるべき姿を血肉化する」ために行うことであるとも言えます。人間というものは何事においても、「言うは易く行うは難し」であり、自分には甘くなりがちです。加えて、「知っていること」と「出来ること」は異なり、中途半端に知っている為に頭でっかちになってしまい、かえって行動の邪魔になっているということも多くあると言えます。

フレックスタイム制や労働裁量制が普及してきた昨今においては、毎日の朝会や朝礼の必要性については諸説が飛び交っていますが、私は松下翁同様に必要であると考える一人です。では、なぜ必要と考えるのか?松下翁の場合は、

「人間というものは、一面において熱しやすくまた反面においてさめやすい。いくら固い誓いを立てても、月日の経過とともに、しだいにその固さはとけて弱くなっていく。しかも、ともすれば自分を甘やかしがちなのがお互い人間である。…」
(松下幸之助著「人を動かす経営」)

と仰っていますが、私の場合は、

「組織という共同体を、個性や価値観の異なる自立した人間たちで形成していくためには、お互いに共通する中心軸を持つ必要がある。その中心軸があることで、外枠は不要になり自由度や多様性を維持しながらも、同じ方向を目指し、協調した行動を取ることが出来るようになるのだ。」
(中山兮智是)

と考えています。この中心軸とは、企業が社会の中で存続していくために必要となる普遍的な使命や存在理由のことであり、一般的には経営理念、或いは、MissionやPhilosophyとも言い換えられます。

更には、MissionをベースとしたVisionまたはObjectives。社会とは一定ではなく常に変化し続けていますので、企業もまた変化する世の中に合わせて中期的に進むべき方向性をその都度変化させ定めていく必要があります。

加えて、Visionを時間や事業レベルで細分化させたStrategy。Strategyを更に現場レベルに細分化したTactcs。

これらの共有すべき中心軸を、毎日の仕事のスタート時にかみしめなおすことで、日に新たな決意となるだけではなく、繰り返すことで次第に血肉化されていくことになります。血肉化されていけばいくほど、迷うことが少なくなり目の前の業務にど真剣に向き合うことが可能になります。

例えば、業務を行う中で前例のない問題に直面した場合、中心軸が同じ人間の判断ならば、社長の判断でも新入社員の判断でも答えは同じということになります。実際には、社長と新入社員では違いが出るのでしょうが、中心軸が同じならば大きくズレることはなく許容範囲内で収まることになりますので、新入社員でも判断が可能ということになります。つまりは、共通する中心軸を持つということは、社員一人ひとりが社長であり、組織の代表者になるということでもあります。

これまで日本企業の多くは、共通する中心軸を持つのではなく、外枠だけを共通のものにしようとしてきた傾向が強くありました。最初に外枠をつくってしまうことで、外枠以上のことをしない扱いやすい単なる労働力としての構成員を多く増やすことになっていました。

加えて、共通する中心軸のある組織では、個人で意思決定が出来ない際は、その判断を経験豊富な人間に仰ぐために上へ上へと上がってきますが、外枠を共通のものとする組織では、個人で意思決定することはなく、上の出した意思決定が下へ下へと下がってくることになります。

かつては、外枠以上のことしない構成員を多く持つ企業が強さを持っていた時代もありましたが、昨今のグローバル化した世の中において、企業が生き残りのために求めている人材は、主体的な行動力と自立した思考力を持つ人材であることは申し上げるまでもありません。

更に、中国古典において来る者拒まずで様々な異なる才能を持つ食客を3000人以上養っていたと言われる孟嘗君(もうしょうくん)は、食客を上手に使うことで窮地を脱したという逸話にあるように、組織というものは、異なる才能を持つ人材が集まる多様性のある組織の方がいざという時の強さを持つことになります。

同様に、稲盛和夫さんもまた、組織における多様な人材の必要性について、言葉を換えて著書の「人生の王道」にて次のように述べておられます。

「...私は、組織をつくるのは、城を築くようなものだと考えています。素晴らしい城をつくろうとすれば、まず、しっかりした石垣を組まなければなりません。しかし、巨石つまり優秀な人材だけでは石垣は組めません。巨石と巨石のあいだを埋める小さな石が必要になるのです。要所要所に巨石の間隙(かんげき)を埋めるような小さな石がなければ、石垣は脆く、衝撃があればすぐに崩れてしまいます。つまり、巨石として優秀で功を立ててくれるような人材を外部も含め登用する一方、古くから会社のために献身的に努力してくれた人材には、巨石と巨石のあいだを埋める貴重な石として働いてもらうべきなのです。小さいけれどイブシ銀の働きをする小さな石を捨て去ってはいけません。縁の下の力持ちのような古い人たちが残ってくれてはじめて会社は強くなるのです。...」 (稲盛和夫さん著『人生の王道』より)

強固な石垣を築くためには、巨石と貴重な石がそれぞれの異なる強みを生かすことが必要であり、異なる者たちが同じ方向を目指し、協調した行動を取るためには、共通した中心軸を持つことが必要になります。つまりは、毎日の朝会や朝礼などを通した、共通する中心軸の構築は企業の生き残りにとって不可欠な要素であると私は考えます。



中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp



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