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ゴーン元会長にみる「自身の功績に対する奢り」

#NIKKEI

2019年4月9日(水)、特別背任容疑のかかる日産自動車元会長、カルロス・ゴーン容疑者(65)が再逮捕前日の3日に撮影したという動画が、日本外国特派員協会(東京・千代田)にて、弁護団を通して公開されました。

ゴーン元会長、動画で無実主張 名指し批判はカット:日本経済新聞 

( https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43513500Z00C19A4MM8000/ )

以下一部転載。
…公開された動画は7分37秒間。…
元会長は「今起きていることは『陰謀』だ」と強調。日産と仏ルノー、三菱自動車との3社連合が「統合、合併に向けて進むことが、ある人たちに脅威を与え、日産の独立性を脅かすと恐れた」と指摘した。
さらに「数名の幹部が自分勝手な恐れを抱き、会社の価値を毀損している」と非難。「汚いたくらみを仕掛けた(人物の)多くの名前を挙げることができる」と述べたが、幹部の氏名は名指しした場面はなかった。弁護団は「ゴーン元会長の同意を得て、我々の判断でカットした」と説明している。…

更には、続く2019年4月11日(木)付。

ゴーン元会長妻を証人尋問、東京地裁 不正関与を否定:日本経済新聞 

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43618260R10C19A4MM8000/ )

以下一部転載。
日産自動車元会長、カルロス・ゴーン容疑者(65)の特別背任事件で、東京地裁は11日、ゴーン元会長の妻、キャロルさんの証人尋問を開いた。キャロルさんは証言を拒否することなく、日産が支出した資金の流れや使途について、検察側の質問に答えたという。不正への関与は否定したもようだ。…

という、これまでの逮捕容疑に関しての無実を主張する動画に加え、今回のオマーンルートでの逮捕容疑では、妻、キャロルさんを含めた不正容疑がかかっている訳ですが、私はカルロス・ゴーン容疑者の「自身の功績に対する奢り」というものにとても関心が向いています。


僭越ながら私はこれまでゴーンさんを企業再生手腕のある非常に優れた「プロ経営者」の一人として、とても高く評価していました。更には、その具体的な経営手法にも注目していました。

ゴーンさんは、1999年(平成11年)6月にCOOとして日産に入社。その後、2000年(平成12年)3月期には、特別損失を7,496.34億円計上し純損益を6,843.63億円の赤字とした上で、翌年の2001年(平成13年)3月期には、純利益を3,310.75億円の黒字化へと導き、約1兆円近いV字回復を成し遂げています。

この期間における売上は、5兆9,770.75億円から、6兆896.20億円と、売上比からすると多少の増加となる1125.45億円に対して、
売上総利益は、1兆4,088.42億円から、1兆4,558.40億円と、469.98億円へと多少増加。
販管費は、1兆3,262.77億円から、1兆1,655.26億円へと、1607.51億円の大幅削減。

つまりは、約7,500億円近い特別損失を計上するというビッグバス・アカウンティングを実施した上で、約1,600億円に及ぶ販管費の大幅削減により、約1年で1兆円近い見事なV字回復を実現した訳です。


このビッグバス・アカウンティングという手法を用いて、同時期に同様のV字回復を実現させた経営者として、伊藤忠商事の丹羽宇一郎さんがいらっしゃいます。丹羽さんは、1998年(平成10年)にCEOとして就任し、2000年(平成12年)3月期に3,950億円の特損処理を行い、2001年(平成13年)3月期決算では過去最高の705億円の黒字を計上しました。つまりは、4,700億円近いV字回復を実現しました。伊藤忠商事の場合は、日産と比較しますと売上高にあたる収益が約半分の規模ですので、ビッグバス・アカウンティングに関しては同等の規模で行ったと言えます。

このように企業の苦境時においてビッグバス・アカウンティングという手法を用いて見事にV字回復を実現させた両者は、ある時点までは類似していましたが、その後の人生の晩節においては大きな違いというものが生じています。ゴーンさんが日頃どのような暮らしをされていたのかという事実については、既に多くの報道等を通して目にするところとなりました。他方で、僭越ながら丹羽宇一郎さんの暮らしぶりを拝見いたしますと、社長の立場になろうともそれまでの地下鉄通勤を変えることなく、20年以上も同じカローラに乗り続ける、更には、いつ社長を辞めることになっても良いよう、或いは、転勤となっても良いように、都内から離れた郊外の一軒家に居を構えた暮らしをされていた。丹羽さんは、若い時から多くの書籍を好み、論語や中国古典を含む哲学書を人生の規矩されてきました。それ故に、「これだけのことをやったのだから、自分へのご褒美としてこれくらいまでは良いだろう」などというような、自身への奢りや甘さが生じなかったのではないでしょうか。

更には、人というものは自発的に生じる自身への奢りや甘さよりも、周囲からの「あなたはこんな凄いことをやったのだから、自分へのご褒美としてこれくらいは当然ですよ」という甘い誘惑の声に負けやすいものですが、当然と思えるようなものを当然として思ってしまってはゴーンさんのようになってしまい、内心では当然と思うようなところがあったとしても、それを積極的に断ることが出来るようでなければ、人間としての完成には至らないのではないでしょうか。

ゴーンさんの妻、キャロルさんを通した大型クルーザー(約16億円)の購入の話を耳にした際に、稲盛和夫さんが著書「生き方」にて述べていた次の一節がふと思い浮かびました。

「…人間はもともと弱い存在であり、よほど意識して自分を戒めていないと、つい欲望や誘惑に負けてしまう。これもまた事実です。

かなり以前のことですが、卑近な例として、こんなことがありました。京セラがある程度大きくなって、役員が仕事で外出する際に、社用車が運転手つきで使えるようになったころのことです。

ある役員が定時に帰ろうとしたところ、社用車が使えない。役員は遅くまで仕事をするだろうと考えた総務の担当者が、その日、忙しくて車を必要としていたある営業部長にその車を回していたのです。

それを知った役員は、営業部長ごときが会社の車を使うとは何事かとすごい剣幕で怒り出し、そのいきさつが私の耳にも入ってきました。・・・(中略)・・・

役員に優先権があったとしても、それはあくまでも会社の車であって「自分の車」ではない。それが、原則であり道理です。しかし組織の中にあって、高い地位に上りつめると、その当たり前のことがなかなか見えなくなってくるのです。かくいう私にも、同じような経験がありました。

創業期、京セラの社用車はスクーターでした。しかも、二輪車ですから私は自分でそれを運転していました。そのうちスバル360という小型車を買うことができた。これも当初は自分で運転していたのですが、運転中もずっと仕事のこと、会社のことばかり考えていて危ないので、運転手を雇うことにしたのです。

やがて、もっと大きな車に買い替え、運転手つきで会社への行き帰りを送迎してもらうこともできるようになったころ。ある朝、車で家に迎えにきてもらった際に、妻も所用で出かけるということがありました。私は気軽に、ついでだから途中まで乗っていけと声をかけたところ、妻はそれはできませんと断ってきたのです。

「あなたの車なら乗せてももらいますが、それは会社の車でしょう。ついでだからといって社用車を私用で使ってはならないと、以前、あなた自身がおっしゃっていましたよ。公私のけじめは厳しくつけろって・・・ですから私は歩いていきます」

一本取られたかたちで、これは家内のいうことのほうが正しい。私はおおいに反省しました。

これらはささやかな例ですが、何事も「言うは易く行うは難し」で、実行していくのは容易なことではありません。それだけに原理原則は、それを強い意志で貫かなくては意味がないのです。

つまり、原理原則というものは正しさや強さの源泉である一方、絶えず戒めていないと、つい忘れがちなもろいものでもあります。だからこそ、いつも反省する心を忘れず、自分の行いを自省自戒すること。また、そのことさえも生きる原理原則に組み入れていくことが大切なのです。…」
(稲盛和夫さん著「生き方」より)

上記の稲盛さんのお話は、人間の中にある欲望や誘惑に負けてしまう弱さというものが如実に描写されているのと同時に、それを戒める自制心の大切さや、自らを戒めてくれる身近な人々の存在の大切さについて考えさせられます。仮に稲盛さんの奥さんがゴーンさんの妻、キャロルさんのような人だったならば、例え稲盛さんであったとしても易きに流れてしまったかもしれません。改めて、日々の反省を怠ることなく、自分自身の周りはどんな人達にいて欲しいのかということを明確に伝えいくことも重要であると私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

記事:MBAデザイナーnakayanさんのアメブロ 2019年4月11日付


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