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手作り食は歯石がつきやすい!?

歯科衛生士として30年以上勤務してきていますが、犬の歯石のことを考えると湧いてくる疑問があります。

人の場合は、歯石になるメカニズムと歯石になりやすい人も説明がつく。
が、犬の場合はそもそも歯磨きをするという習慣がない飼い主さんが多いせいか、同じ疑問にたどり着いてしまう。

手作り食の方が歯石になりやすい、という論文があるようだが、それは果たして本当なのであろうか?
いつまでも解決できない疑問をnoteに綴ってみました。

人の歯石

人の場合、炭水化物(糖質)をとることによって口の中にいる細菌がそれらをエサにして歯垢(プラーク)というネバネバしたものを作り出します。

当然、炭水化物(糖質)をとる機会や量が多ければ歯垢(プラーク)がつきやすいという状況にもなります。

歯垢(プラーク)は、唾液の成分であるリンやカルシウムと結合して、歯石という存在に変化していきます。

歯石になってしまうと、残念ながら歯ブラシでは取れない。
これはもう歯医者さんに行って取ってもらわなければならない、ということです。

が、しかし、歯石というのは、実は細菌の死骸の塊であり、それ自体が悪さをするものではなのに、なぜ歯石を取りましょう!となるのでしょうか。

それは、歯石自体は細菌の死骸であるが、歯石の表面はザラザラ凸凹しているので、ツルツルの歯の表面と比べると、そこに歯垢(プラーク)がつきやすい。

歯垢(プラーク)は生きた細菌の塊である。
歯周病の予防に熱心な歯科医院には、位相差顕微鏡というものがあり、実際に歯垢(プラーク)中の動く細菌をみることもできます。
それらの細菌が歯石の表面に溜まっていくことにより、さらに歯周病が悪化をしていくのです。

炭水化物(糖質)を多くとると歯垢(プラーク)を作りやすく、さらに唾液の成分により歯石になりやすい人とそうでない人がいる、そして歯ブラシの状況(回数や落としたいところの歯垢をきちんと落とせているか)などにより歯石のできやすさは変わってくる。

歯磨きが改善されるだけでも、その効果は感じられるはずで、さらに歯科医院にてきちんとしたメンテナンスを受けていれば、その効果は明らかに違ってきます。

犬の歯石

では、犬の場合どうだろうか?

海外の論文では、ドッグフードを食べている犬よりも手作り食の犬の方が歯石がつきやすいというものがあるようです。(これは獣医さんから聞いた話で私が直接その論文を目にしたわけではない)

それは、手作り食は柔らかく歯に付着しやすい、ドッグフードは丸飲みだから歯石になりにくいというものらしい。

その説にも一理あるかもしれない。
頷ける点は、噛まずに丸飲みをしていれば、確かに歯の表面に汚れは付きにくいかもしれない。

でもそう考えると、ドライフードを食べている犬には歯石の付着はほとんどの犬において見られないのではないだろうか。
ではなぜ、世間では犬の歯石について無麻酔歯石除去やお水に入れるだけで歯石が取れる!的なものが流行るのだろうか。

そういうものが流行るというのは、それだけ歯石で悩んでいる飼い主も多く、需要があるということ。
手作り食派はドライフード派に比べて圧倒的に少ないはずなので、手作り食の方が歯石になりやすいと言われても、素直にそうなのか、とは納得がいかないのです笑

そして、手作り食と一言で言っても様々なものがあります。

生肉や生骨をメインにしたものや、穀類を使用したもの。
加熱食、生食の違いもある。

逆に、ドライフードの場合、そうでないものもあるが、ほとんどの場合は炭水化物メイン。
炭水化物の量はパッケージには記載義務がないが、タンパク質、脂質などの表示されているものから計算すれば、ほぼ半分ぐらいは炭水化物のものが多い。

人に例えれば、毎食炭水化物メインの食事をしているので、歯石になってもおかしくはないという感じだ。

そして犬の唾液は人と違いアルカリ性なので、そこでも歯石になりやすいということはうかがえる。

炭水化物をたくさんとって、歯石になりやすい唾液で歯磨きをしていなければ、それは歯石になって当然とも思える。
そこに噛むことと噛まないことの違いがどれぐらいあるのだろうか、とまた悩まされることに笑

研究した獣医さんがいました

そんなことを考えていたら、やっぱり同じことを疑問に思う獣医さんもいるのですね!笑

ペット栄養学会の学会誌はネットでも見ることができるものもあります。
その中に、自然食とドライフードでの歯周病のなりやすさを比較した論文がありました。
2002年のものでしたので、私がペット栄養学会の勉強を始めるずっと前のものでした。

ポイントは手作り食ではなく自然食というところ。
研究では、本来犬が食べていたであろう食事=自然食となっているので、そこには穀類や加熱されたものは含まれていないという事です。

その研究結果は、私の考えと同じく、ドライフードの犬の方が、自然食を食べている犬よりも歯周病が悪化しやすいというものでした。

被験犬に歯磨きの有無などは書いていなかったので、おそらく歯磨きはされていないものだと思われ、自然食での歯磨き効果についても触れられていた。

私の疑問が少し晴れた瞬間でした。

最後に

最後に付け加えると、人の場合、食事をしたしないに関わらずプラークは付着していきます。
口からものを食べていない、胃瘻や経管栄養の方でも、口の中は汚れます。(もちろんケアしないと歯石もたまります)

それは、歯肉からの浸出液や口の中の細菌との関連もあります。
そう考えると、実は丸飲みであろうがなかろうが、歯石の付着にはあまり関係ないのではないだろうか?とも思うのでした。

ということで、私の中ではやはり手作り食(自然食)を食べている犬たちは、ドライフードを食べている犬たちと比べて歯石が付きにくいというのは、あながち間違いではないのではないだろうか。





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