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地図に載らない入江 【ショートショート】

入江の出会いは偶然だけど必然だったのかもしれない。
踝の高さの波打ち際で見た三角の波。
その間に揺れる哺乳類の背鰭。
海獣と会った初めての初夏。

触れると、鉄琴みたいな鳴き声がした。
生まれる前のような、懐かしい熱。

入江の出会いは必然みたいな偶然だったのかもしれない。
ぎりぎり浅瀬で気づいた砂紋の乱れ。
そこに立ち尽くす毛のない脚。
少年と会ったはじめての夏。

見上げると、やわらかな知性の宿る目があった。
進化と未来を思わせる、瑞々しい眼差し。

大岩は嵐を遮り彼らを護るだろう。
海でもない陸でもない地図にもない幻の地形。
イメージしたときにだけ立ち上がり湧き起こる世界。
舞台のように、音楽のように、現実のように。


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