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雄弁家 【ショートエッセイ】

印象的な言葉も、知的な論破も、説得力のある交渉も圧巻。
だけれども、ひと味ちがった言葉の力もあるみたいだ。
記事の行間に、声の途切れる数秒に、アイコンタクトの瞬間に、
するりと流れて伝わる思考と、ふわりと舞って届く感情。
辿り着くのは言語野の宝箱。

深い部分でエネルギーをやりとりする生業の傍、極めて静かな空間で着実に進行する別の世界。
そんなふうに言いながら、浸る世界に登場するのは生きた人間と、その関わりが生む感動だったりする。
自然界の事象にも、人工物の造形にも、交錯する情報が織り混ざり厚みを増して住処となる。

煌々と照らす満月、その光が作る雲の影、引き立てる夜の黒。
短髪を梳かす海風、しなやかにうねる水面と、堂々たる白亜の灯台。
受け止めて撮影すれば作品になる。1枚に物語を描く。オブジェクトの距離に、奥行きに、色味に、明るさに。
楽譜に託されたメッセージも、意志を載せたコーディングも、資料に漂うストーリーも、琴線に触れる熱源となる。

アートとも名付けられず、クリエイティブとも呼ばれない作業にも、創造性はいたるところに散りばめられている。服を選ぶとき、メールの返信を綴るとき、グラスと器の組み合わせを決めるとき、日常。

黙々と働く人も、こつこつと続ける人も、究めながら突き進む人も、その横顔は雄弁だ。いつでも誰でもどなたでも。
五感をわずかに強めてみれば、とてつもなく。

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