まどろむひと 【ショートショート】
洗いたてのベッドカバーが気持ちよかった3度寝の朝。
イヤホンから聴こえる曲とは別の音、
通りかかったワンボックスカーのからは重低音のワルツ。
満月の午後、
窓から拡散していきそうな、見えないものをかき集めた。
目を閉じて音に乗って滑空したら、いつものとこにひとっ飛び。
通り道。
なんときも、朝焼けか夕暮れの空。
空と海と風だけの通路。
いつも見る人、前に会った人、初めて来た人。
向かう人、帰る人、走り抜ける人。
漂う人と目が合うと、鈴の音がした。
儀式でも行事でもない、可愛気のあるノンバーバルの合図。
開いたフタから思考が流れて、繰り返される真面目な主題。
叫ぶ代わりに書き留めて画面の文字に閉じ込めて、
餞別に渡したグラスはお蔵入り。
「こわれやすいもの」お墨付き。
メタファーに修飾されすぎて本質見えないデコイが並ぶ。
見送って、見送って、見送って、
過去に、未来に、行き交う人々の後ろ姿。
現実に、幻想に、旅する人たちの話し声。
ここでしか会えない、ここでしか聴こえない。
羽根を繕う勘違いの大馬鹿者。
どことなくチャーミング、それとなくハミング、いつになくグッドタイミング。
新月の晩、
吸い込まれそうな夜の黒を、引き寄せて取り込んだ。
すうっと溶けた濃紺も、氷と一緒に飲み干した。
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