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教訓のスペイン(2)

成田からイギリスヒースローを経由して、マドリッドの空港に到着。
いよいよスペインの旅が始まる。

1日目、この日はずっとフリータイムで、私たちはマドリッド市内を散策することにした。まず行きたいのは、プラド美術館。日本では美術のびの字もかじっていないが、海外旅行ではなぜか行きたくなる美術館。せっかくだから行っとかなきゃ、みたいな強迫観念もある。

ゴヤやらベラスケスやら、素人でもさすがに知っている名画を鑑賞し、朝から芸術を堪能したぞという充実感で、美術館を後にする。
プラド美術館の周りは広く、公園のようになっているため、そこをただ歩くのも楽しかった。すると、ウキウキ浮かれて歩く私たちの元に、数人の女性がやってきて声をかけてきた。スペイン語を習っていたジュンと私は、これはナマでコミュニケーションできるチャンスではないかと思った。

彼女たちがスペイン語で何かを訴えている。なんとか聞き取れた単語が、「フィエスタ」と「フラメンコ」。身振り手振りもあって、あっちでフラメンコを踊るから見に来いと言っているようだと分かった。でも、「No!No time!」とか言って断って、行こうとした。
すると今度は、手に持っていたカーネーションを私たちに手渡し、「1ペセタ!」と言ってきた。なんだよ、その強引な商売は、と不信感を持ったが、気分も良かったこともあり、1ペセタくらいならいいか、と財布を開けた。しかし、旅行初日で、両替したばかりなので、どれがその硬貨なのかよく分からなかった。彼女らの目の前で硬貨をジャラジャラ探っていると、「これだ」とか何とか言って、1枚軽そうなコインを持っていった。
そして、「グラシアース!」と機嫌良さげに去っていく彼女たち。なんのことやらよく分からんが、まぁいい。気を取り直して、ランチに行こう。

再度歩き出し、その近くのレストランに入った。食事を終え、支払いをしようと各々が財布を開いた。すると、なんと1枚もお札がないのだ。プラド美術館で入場券を買った以外には、まだ何も購入していない。お札を使い切った、なんてことは断じてあり得ない。困惑して、他の2人にそのことを告げようと顔を上げると、彼女たちも同じ表情。

「え!?みんなも、お札ないの??」

そこで、気づいたのだ。
「あ!!あいつらだ!!!」
そう、プラド美術館の外で会った、カーネーション売りの女たち。あいつらに、盗まれたに違いない。愕然とした。まったく気づかなかった。

慣れない海外旅行だからと、財布には今日使う分くらいしかお金を入れず、念のためお腹に巻いたケースやカバンの別の場所などにもお金を小分けして入れていた。そのため、レストランでの支払いはできた。
しかし、3人ともものすごいショックを受けた。茫然自失状態。とりあえず、被害金額を計算して、なぜ簡単にすられたのか話し合おう、と近くの公園に入った。
計算してみると、被害額はみんな1万円以下だったが、学生の私たちからすればもちろん大金。スリの女たちは貧しそうな身なりだったし、3人分を合わせてたら、そこそこの稼ぎになっただろう。今頃、「あのバカなアジア人のおかげで、今日の分はもう稼げたわね。さっ、飲みに行きましょう」とか言って喜んでいるに違いない。想像して、3人で地団駄を踏んだ。くそー!あいつらー!!

では、この失敗の原因は何か。それは、やつらの前で安易に財布を広げたこと。硬貨に気を取られているうちに、お札をさっと抜かれたのだ。その瞬間には全く気付かなかったのだから、よほど見事な手さばきだったのだろう。よくよく思い返してみると、財布を開けようとした時、3人とも別々の女たちに周りを囲まれていた。私たち3人をバラバラにし、お互いの様子が分からないようにした。その時点で、急にやつらの人数が増えていたことも思い出した。それは、確実にスリを行うために、必要な手はずだったのだ。実に巧妙。

ここは日本じゃない。気を張って、十分注意していたつもりだった。
それでも、スリに遭ってしまったのは、私たちが甘かったからだ。
「今後は絶対他人は信用しない、財布も簡単に開かない。」
と、お互いに固く誓い合った。
そして、実際、その後は旅行の間ずっと細心の注意を払い続けた。道を尋ねた際、親切に教えてくれたスペイン人のおじさんと話す時でさえ、3人ともバッグをしっかり胸にかき抱いていた。
それについては「私たち、ひどいよね。」と笑ったが。

スリに遭った日の夜、ホテルで「地球の歩き方」を読んでいると、現地でのトラブル例のページに「ジプシーの花売りはスリ集団。見かけたら、近づかないこと。」との注意喚起が載っていた。
これじゃん!まさしくあいつらじゃん!!
いわゆる典型的なスリに遭っていたことに、もはや笑うしかなかった。

スペイン旅行1個目の教訓は、「スーツケースの鍵は忘れるな」
そして、このスリ体験から得た教訓は多い。
「人前で財布を開けるな」
「ジプシーを見たら、盗人だと思え」
そして、何より、
「ガイドブックの犯罪情報のページは必ず読んでおけ」

初日からガツンとやられたこの旅は、まだ始まったばかり。
意気消沈した女3人、果たして楽しい旅ができるのか!?

つづく。

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