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教訓のスペイン(3)

スペイン先生は、甘くない。
まだまだ私たちへのレッスンは続く。

2日目の午後は、オプショナルツアーでトレド観光。
トレドは城塞都市で、街全体が遺産。素晴らしかった。トレドまでのバスの車窓から見えた景色にも感動した。長野県の高い山に囲まれて育ったため、なだらかな丘が続く地平線は、見たことがなかった。
この時のみずみずしい感動が、私が海外旅行を好きになった一端を担っていることは間違いない。

3日目は、マドリッドからバルセロナへの移動日。
空港でまさかのトラブルが待っていた。航空会社のストライキの影響で、乗る予定の便が大幅に遅延したのだ。遅延だけでなく、度々搭乗ゲートが変更され、それにも振り回された。何時間待っても搭乗開始のアナウンスはなく、焦りだした。ヤバイ。このままだと、バルセロナへ行けないぞ。

そこで、意を決して、航空会社の係員に問い合わせた。これは、慣れない海外旅行で言葉も分からない私たちには、かなり勇気がいることだったのだ。
すると、あっさり別の便に振り替えてくれ、すぐに搭乗できた。今まで待っていた時間はなんだったのか。もっと早く聞いていれば良かった。結局、飛行機で1時間ほどの国内移動に、1日近く費やしてしまったのだ。しかも、空港で。もったいなさすぎる。

バルセロナの空港で待っていた現地のガイドさんにも、こちらに早く電話してくれれば良かったのに、と言われた。慣れない私たちは、旅程表に記載されていた現地の連絡先に電話することすら思いつかなかったのだ。
「何かトラブルが発生したら、旅行会社にすぐ連絡しろ」
ここで得た教訓だ。

苦労してやってきたバルセロナは、とても素敵な街だった。
サグラダファミリア、グエル公園、ガウディの作った数々の邸宅。細工が細かく、かわいくて、ちょっと奇妙なデザインが大好きだ。自分の目で見られて、本当に良かった。

そんな素敵な街を心から楽しめなかった女がいる。シホだ。
彼女は旅行前半から胃腸の調子が悪くなり、バルセロナに着く頃には猛烈な下痢と闘っていた。空港送迎をしてくれたスペイン人のガイドさんが言うには、スペイン料理は調理の過程でたくさん油を使っているため、見た目より脂分が多く、胃腸を壊す日本人が多い、とのこと。
2日目の夜に早くも日本料理店に入った時、私とシホが食べたトンカツ定食。あのトンカツが良くなかったのかもしれない、と反省した。
シホはスペイン語を習ってもいなかったのに、トイレの単語だけは覚えた。どこのレストランでも、真っ先にトイレの位置を確認するためだ。最終的には、単語だけでなく、「トイレはどこですか?」というスペイン語も操り、一人でトイレに駆け込んでいた。ピンチが彼女を急成長させたのだった。
ピンチはチャンス、ってやつだ。

食事、という点でも教訓は多かった。
「格安ツアーに付いた食事には期待するな」
参加したH.I.S.の格安ツアーに1回だけ付いていた食事が、パエリアだったが、全然美味しくなかった。その時初めて食べたので、パエリアはただしょっぱいだけで美味しくない、とインプットされてしまった。もちろん今は美味しいパエリアにも出会い、あの時のアレは違うんだ、と思っているが。

「よく意味が分からないメニューは頼むな」
夕食のために入ったたまたまレストランには、英語のメニューがなく、すべてがちんぷんかんぷんのスペイン語。習った単語を思い出そうとするも、全く分からない。もういいや、と適当に指をさしてコース料理を頼んだ。そのメイン料理のことは全く覚えていないが、デザートのことは今でも忘れらない。
紫色のムース状のもので、味はただただ甘い。何で作られているのか、なぜ紫色なのか、全然分からない。とにかくまずい。衝撃のまずさ。
真面目な日本人気質を捨てられない私たちは、残したら失礼だ、とせめて半分くらいは食べたように見せようと努力した。しかし、かなり柔らかいムース状なので、スプーンですくって空けたスペースに、残りのムースがなだれこみ、全然減ったように見えない。最後には諦めて、ほぼ全量を残した。
その時、シホが「私、次にこのデザートが出てきたら、絶対“I hate it"って言う!」と名言を吐き、3人で笑った。hateって、相当嫌いじゃん。

そう、数々のトラブルに見舞われたスペイン旅行だったが、いつも笑いで乗り越えた。鍵を忘れても、スリに遭っても、1日空港で待たされても、3人でそれをネタに変えて、笑い飛ばしたのだ。だから、本当に楽しかった。
写真を見ると、そんなトラブルに見舞われたことなど微塵も感じさせないくらい、楽しそうに笑ってる20歳の私たちがいる。

そして、スペインで得た教訓が、今の私にも生きている。
あれ以来一度もスリには遭っていないし、スーツケースの鍵も真っ先にカバンに入れるようにしている。今では、トラブルにも対処できる力がついてきたと自負している。
教訓だけでなく、海外旅行の醍醐味、楽しさを教えてくれたあの旅が、私には宝物だ。

スペイン先生、ありがとう。

終わり。



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