弱み

「こういうギャップがモテるんですよ。」
男は歯を見せて笑いながら、そう言った。

Mくんである。
私の周りで、こんなことを堂々と言っても、まったく嫌味にならない男なんて、この人しかいない。

昨日、彼と私を含めた四人の社員で打合せをした。
Mくんとは席が近いから、毎日話す。仕事のことも、くだらない話も、何から何まで話す。
でも、きちんとした会議とか打合せで、話し合う、ということはしたことがなかった。

始まる前に、「こういうの初めてですねー。」と声をかけられた。確かにそうだ。
そういう場でどんな立ち振舞いをするのか、お互い知らないのだ。

その打合せは、問題点があった事案について、関係者で改善方法を考えよう、というもの。
Mくんは当事者ではなかったが、私がその問題についてワーワー騒いでいたら、当事者との間にたってくれたのだ。

打合せの最後。改善方法も無事決まって、いくつか顧客への確認事項もはっきりした。それを、Mくんが当事者に対して、まとめて再確認した。これでいいですね?と念押しした感じだった。

その姿を見ていて、私は感心した。
わー、すごいな、いい意味で会議慣れしてるなー。
さりげなくリーダーシップを発揮して、会議を効果的に締めくくる様はカッコよかった。
初めて見るその姿は、まったく期待を裏切らないものだった。

その打合せから一夜空けて、今朝のこと。
Mくんが自分の車の車検証を見ながら、書類を記入していた。会社に提出する通勤費支給申請の書類だ。
自賠責保険の期間、任意保険の補償内容、などを書く欄がある。

あれ?どれ書けばいいんだ?
とか、つぶやいている。私はすでに提出済みだったため、教えてあげようと、彼の手元を見た。
自賠責保険の証書は車検証のファイルに入っていたが、任意保険の証書は入っていなさそうだ。

「任意保険の証書はそこにないんじゃない?」
と聞くと、
「えー、ないのかな?うちかな?」と首をかしげている。
「いや、なんで知らんの?そもそも任意保険、どこの会社のに入ってるか知ってる?」
「うん。知ってる。嫁に聞けば分かる。」
「知らないじゃん!それは知ってるって言わないの!」

思わず笑ってしまった。
その後も、次々とポンコツ発言を重ねていた。

・通勤距離を知るために、毎朝メーター見ようとするんだけど、いつも忘れちゃう。
←そもそも距離の欄は、会社記入欄って書いてあるから必要ないけど、積算じゃない方のメーターを0にして計ればいいじゃん。

・え?でも、メーターリセットしたら、思い出が消えちゃう。
←は?消えないわ!てか、給油する時に燃費とか計算しないの?

・あー、全然しない!燃費、興味ない!
←はぁ、そうですか。じゃ、もういいよ……

この通り、ツッコミどころ満載である。
そして、前日の打合せでのキレ者っぷりを思い出し、
「昨日とギャップありすぎなんですけどー。」
と言ったところ、冒頭の発言が返ってきたのだ。

脱力した。
確かに、仕事がバリバリできる男の、弱みをさらす発言は、女にとっては「萌え」の最たるものだ。
こんなダメなところもあるんだ、カワイイー。と。

悔しい。悔しいけど、Mくんは実際モテるのだから、まさしくそのギャップが効果があると、身をもって証明しているのだ。

やはり、モテる男に「弱み」なんて存在しない。
だって、弱みが強みになってるんだもん。
まぁ、もちろん、仕事ができる前提があってこそ、なんだけど。

ならば、女のギャップは、どういうのが効果的なんだろう。これは、今後の研究課題だな。

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