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親子の最終(結)戦・2話

~いつか来るその日の前に
  幸せなお別れの準備を始めよう〜


【母の運転】

空港に着くと、搭乗出口に母の姿があった。
けれどいつも近くの椅子に座ってるはずの父の姿はない。
そりゃそうかと思い『お迎えありがとー』と言った。

『お父さんね、車の中』
『あ、そうなんだ』
『足が痛くて歩けんとよ』
『もう全然歩けんと?』
『う〜ん。家の中ではひょこひょこ歩きよるけど、歩くときはトイレくらいで、他はなーんもせんくなったよ』
『たまには外出らんともっと悪くなるよ?って言ってもずーっとテレビの前でじーっとしとるよ』

『だいたいさ、どこが折れたと?何ていう骨か聞いた?軟骨?それとも膝のお皿?』

私は『膝を骨折した』とだけしか聞いていなかったので専門家としては早く詳しく知りたかった。
だが、素人かつ高齢者はよく分かってないことが多い。

『知らん』

…まぁこんな感じだ。
滞在中にいっしょに整形外科について行って、先生から直接話を聞くのが一番だな、と思った。

駐車していた車へつくと、中で居眠りをしている父が待っていた。
ドアが開くとはっと目を覚ましてこっちを見る父。

『いやいやいやいや、悪かねぇ。わざわざ帰ってきてもらって〜』

後部座席の真ん中から右奥につめようとするが、片足に力を入れられないためか、腰を浮かすことすら難しそうだった。

『それでくさ、何日おるとね?』
『3泊4日にした』
『そーね』

私は持ってきたスーツケースを後ろのトランクに載せてお土産の紙袋と手荷物だけを父の横に置いて助手席に乗りこんだ。

運転手は77歳の母親。

最近、妹からこのような話があった。
『お母さんヤバいよ?この前、自分がどこの駐車場に停めたか分からんくなって、みんなで何時間も探したんよ!』

駐車場のどこに停めたか分からなくなることはよくある話だが、どこの駐車場に、というのは確かにヤバい。

『それに、最近まじで運転が危ない!フラフラしよるし、曲がりたいところで曲がり損ねたり、私たちには黙っとるけど、ちょこちょこぶつけとるみたい』

車のあちこちにぶつけたり擦ったりした痕跡があるそうだ。

そんな話を聞いていたので、母に運転を任せるのはちょっと怖い。もうそろそろ免許返納を促したほうがいいのかもしれない。

私が運転できればいいのだが、なんせ8年のブランクがあるペーパードライバー。
しかも運転が下手くそなのだ。

自慢にはならないが、鮫洲の運転免許試験場で20回以上落ちて、ついには仮免の期限切れですべてがパーになった経験の持ち主なのだ。

そんな私が『私が運転するよ』なんて言えるわけもなく、ドキドキしながら母に運転してもらう。
心配でスマホなんていじってる余裕はない。

横でソワソワしている娘に母が気付く
『なんね。私の運転がそんなに心配なんね』

『だって、聞いたもん真美から。お母さんの運転がヤバいって』

『そーなんよ。お母さん危ないっちゃが』
腕組みして目を閉じていた父も会話に入ってきた。

『この前くさ、スーパーの駐車場でアクセルとブレーキ踏み間違えたんばい』

『えー!それよくニュースで見るやつ!ヤバいやん』

『あれはたまたまよ〜』
ケラケラ笑いながら言っているが、そのたまたまがヤバいんだってば!

そろそろ免許返納させたほうがいいのは分かってるけど…
通勤に、買い物に、温泉に、とお出かけしている母にとって車は大事な足なのだ。

でももし事故を起こしたらと思うと、まだ無事故の今の段階で返納したほうがいいだろう。

この滞在中に少し話してみようか。
でも…どう切り出す?
どう説得する?
たしか車の代わりにタクシーを使った方が、経済的にも軽くなると聞いたことがある。

しかも免許返納した人はタクシー代が安くなるとか自治体によって何か特典があるはずだ。
よし、調べてみることにしよう。



つづく


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