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帰宅するとケージの中で激しく吠えるのでオスワリさせていますのご質問に、それはやめた方がいいと回答した理由

とてもよいお題をいただいたので、それについてのお話を書いていきます。

飼い主さんが帰宅したら、子犬がケージの中で大騒ぎをする。
右へ左へバタバタ、飛び跳ねたりと動きまわり、激しく吠える。
飼い主さんとしては「吠えたらケージから出してもらえる」という学習はしてほしくない。
なのでケージの前で子犬の前で「オスワリ」と声をかける。

もちろんなかなかオスワリしない。
それでも何度もオスワリと連呼し、ようやく子犬がオスワリしたらケージから出してあげる。

毎日こうしたやりとりが行われるが、帰宅時に子犬が落ち着く気配はない。
それどころか別の場面でも吠えるようになっている。

このお話に対して私の答えは

「とりあえずオスワリさせるのはやめて、帰宅したらさっさとケージから出してあげましょうか」

さて、このアドバイスに対してとても違和感を感じた方も多いのではないでしょうか?
その違和感とは飼い主さんも言っていた
「吠えたらケージから出してもらえる学習が進むのでは??」

おそらくこの部分ではないかと。
そうです。飼い主さんが言っていることも正しいのです。
しかしながら多くの方が見落としている部分が2つあります。

ひとつは
「この状況では子犬に別の学習が進んでいる」
そして
「学習の優先順位が違う」

それはどういうことか?
これから考察していきましょう。



①飼い主さんの主張は正しい

「吠えたらケージから出してもらえる」
この状況で子犬にとって得たいものは何でしょうか?

⚫︎ケージから出る
⚫︎飼い主さんの側へ行く

ケージから出られると、自由に動き回ることができます。
留守番していた孤独から飼い主さんの側へ行くと、撫でられる・遊びが始まる・食べ物がもらえる。こうしたことが得られる可能性も高まります。

これは
『行動の直後に強化子が得られると、その行動の頻度が高まる』

正の強化

オペラント条件づけ正の強化の学習となります。
飼い主さんが言っていることは正しいのです。
そして飼い主さんが子犬に学習してほしいことも正しい。

正の強化

吠えたらケージから出してもらえるのではなく、オスワリしたら出してもらえる。
分化強化です。
そうなんです。この部分だけを切り取ると全くもって正しいのです。

問題は
このやり取りを続けて子犬は、飼い主さんが帰宅時にオスワリをしてジッと待ってくれるようになるでしょうか?

この部分ですよね。
もしかしたらそうなる可能性もある。理論的には正しいのと、飼い主さんが一貫してこのやり取りを続けていれば。あくまで可能性です。

しかし私のアドバイスは違いました。
『焦らさずにさっさとケージから出してあげよう』

吠えたら出してもらえる学習はほったらかしでいいのか!?
無責任なアドバイスじゃないのか!?

もちろん無責任に言っているわけではありません。
このやり取りには大きな落とし穴があるのです。


②木を見て森を見ず

「木を見て森を見ず」ということわざがあります。
この場合、目の前の対処はしているが全体は見通せていない。ということになります。

まず飼い主さんが求めているのは何か?それは
「帰宅時に落ち着いていてほしい」

具体的には、ケージから出すまで
「吠えず、飛び跳ねたりバタバタしたりせず待っててもらいたい」

飼い主さんが求めているのは「動きが緩やかでリラックスした状態」
現時点の子犬は「動きも吠えも激しい興奮した状態」

だから飼い主さんはオスワリと声かけして行動を促すわけですよね。
ところがこのとき、子犬の中で何が起きているのか?

『子犬自身が持っているボキャブラリーの中で行動しても、望む結果が得られないため、強いフラストレーションを感じている』

なぜそう断言できるのか、これから説明します。


③消去バースト

飼い主さんが帰宅時、子犬はケージの中でいろんな行動をしているはずです。
考えられる行動としては

⚫︎左右へウロウロ
⚫︎ぐるぐる回る
⚫︎飛び跳ねる
⚫︎ケージを手でガリガリする・柵を噛む
⚫︎吠える

こんな感じではないでしょうか。
ところが子犬はどんな行動をしても「ケージから出る」という自分が望む結果が得られない。

行動しても結果に何の変化もないことを『消去』といいます。
消去の手続きにはフラストレーションが伴います。

そして消去の手続きは、一時的に反応が大きくなることがあり、行動変動性と攻撃性が増大します。
つまり結果が得られない行動は別の行動へと変化していって、やがて激しい行動へと変化していく。このことを「消去バースト」といいます。


いろんな行動をしても出たいのに出られない。
葛藤状態でフラストレーションが高まり、それにより興奮がどんどん高まり、やがて激しい吠えという行動に発展していく。

激しく吠えるという大きな行動をすると
飼い主さんが自分を見てくれた・ケージから出してもらえた。
こうした経験が一度でもあれば行動は強化される。

また、吠えるという自己刺激が、吠える行動を維持する可能性もある。

そしてもうひとつ。
「興奮が高まっている」というのも問題で
興奮はアドレナリンが高まり心拍数が上がり、葛藤によりストレスを感じているとコルチゾールをはじめとするストレスホルモンの排出が増え、交感神経が刺激されて血圧や脈拍が上がる。

体の変化も行動なので学習され、同じ状況でより興奮しやすくなり、また似たような場面でも興奮が高まりやすくなる可能性がある。
というか興奮しやすくなるでしょう。

簡単にいうと
落ち着いてもらうために我慢させようとするほど、より興奮しやすくなる

つまり消去バーストで行動が激しくなり、その状態を長く続けている状況で落ち着かさせようとしても無理があるどころか、あまりいい精神状態に置かれていないので学習が進まないどころか、逆に副作用が怖い。

葛藤した状態が長く続くとこうした危険性があることを知ってもらえたら幸いです。


④いつでも望むものが手に入るとあせる必要がない

それでは例え話で復習です。

もしトイレでトイレットペーパーが切れていたらと想像して見ましょう。
めっちゃ焦りますよね。
どこかにトイレットペーパーの補充がないかキョロキョロしたり、いろんなところを探したり(消去バースト)
大きな声を出して誰かに助けを求めたり(消去バースト)
切らす前に使った人や補充を置いていないことに苛立ちを感じたり(攻撃性の増大)

このように、いつも得られる結果が得られなくなると途端に行動は変化します。

それでは飼い主さんが帰宅時に興奮して激しく吠えないようにするためにはどうすればいいでしょうか?

普段からケージから出られる経験を積んでおく必要があります。
つまりハウストレーニングです。

まずは子犬が自発的にケージに入る練習から始める。
ケージに入っても扉が閉められない。自由は失われない学習を進めて、ケージ自体を閉じ込める道具ではなくリラックスして休める場所としておく必要もあります。

ケージから出ることができるきっかけもたくさん用意します。
子犬がベッドでリラックスしているときにケージの扉が開く。
飼い主さんと目が合うと扉が開く。
吠えたり興奮した時の行動以外で、なにかしら特定の行動をすると扉が開く。

今回の場合でいうと「オスワリ」するとケージの扉が開くことを教えていくのであれば、飼い主さんが帰宅時にその練習をするのではなく、飼い主さんが在宅しているとき、子犬が興奮していない状態で『頻繁にその練習をする』必要があります。

吠えや飛び跳ねはメッセージとしてエネルギーを使う大きな行動です。
だから「小さな行動でケージから出ることができる」という学習を進めておくのです。
事前にしっかりしておくことで「いつでもケージから出ることができる」
安心を感じられるように進めていき、焦る必要もなくなっていけばいいですね。

飼い主さんが帰宅時は「本番」です。
本番は練習ありきで成功するものなので、事前にしっかりと子犬が冷静な状態で練習しておく必要があるわけですね。

これが「学習の優先順位が違う」という意味です。


⑤行動には優先順位がある

行動は繰り返すほど熟練度が上がります。
スポーツでも趣味でもそうですよね。
練習するほど上達します。

犬たちも同じです。
特定の状況で繰り返される行動は、その状況下で上達した行動であるといえます。
その行動が問題である場合、それ以外の行動を上達させる必要があります。

そのために普段から熟練した行動のレパートリーを増やしておくと、本番(問題となる場面)でその行動が選択されるきっかけや可能性が高まります。

そして問題となる行動以外の行動を強化していくと、問題行動を減らすことができる。こうしたことを「分化強化」といいます。

「興奮や葛藤でストレスを感じる時間を短く」して
「吠えたら扉が開く」学習は
「普段からの練習」で別の行動に置き換える。

こうした結論が
「帰宅時にはとりあえずオスワリさせるのはやめて、さっさとケージから出してあげましょう」
につながるのです。

今回のケースでは、飼い主さんが帰宅時にオスワリを求めていました。
しかしオスワリの行動は「優先順位の低い行動」であるため、興奮時にはなかなか発現しないわけです。
いろんな環境設定を想定して、事前に練習が必要となります。

もっと突っ込むと、落ち着いていればオスワリでなくともいいわけですよね。

最後までお読みいただきありがとうございました。
メンバーシップではこうした内容や、もっと深掘りしたことも書いていますのでぜひご参加お待ちしております。


※『補足』


必ずしも留守中にケージに入っていなければならないわけではありません。
今回の件で、留守中に子犬はケージに入っているのは事情があるので、話をそのまま進めさせていただきました。

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