七戸健太郎

1977年生まれ、横浜在住。読むこと、見ること、影響を受けることが好き。どこにたどりつ…

七戸健太郎

1977年生まれ、横浜在住。読むこと、見ること、影響を受けることが好き。どこにたどりつくのか、たとりついてのお楽しみ。

マガジン

  • 超短編小説「疲れたマン」

    疲れたマンは地球の平和を守る使者。「疲れた疲れた」が口癖です。

  • 超短編小説 「途中」

    140字くらいの小説が入っています。よろしくお願いします。

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ゼツボウと私のみちたりた暮らし/小説

私は今ゼツボウという名の猫と暮らしている。 ゼツボウはピアノ音楽が好きだ。最近はクラシックが好きで、グレン・グールドをかけると満足気な顔で体を丸めて眠っている。 まだ私が会社員だったころ、音楽を止めるのを忘れて仕事に出かけたことがあって、それ以来、ゼツボウはピアノ音楽がお気に入りになった。何もかかってないときなど、自分よりも二回りほども大きい古いケンウッドのスピーカーの前で、じっとスピーカーを見つめているときがある。音楽を流すと、また満足気にゼツボウは眠りにつく。 二年

    • 幸運と興奮

      幸運と興奮について。 ついさっき、いましがたの出来事だ。 歯医者を終えた私はその足でゆうちょ銀行のATMへと行き現金を引き出し、そのまま近くの横浜銀行ATMへと行った。 ATMでの手続きを終えて一息ついた私は喉が渇いていた。そうだ、歯医者を終えてから何も水分をとっていないのだ。 私は食べないことは我慢できるが飲まないこと、渇きは我慢ができない。 ひとつのトラウマがある。 小学生のころ入っていた少年野球チームでのことだ。あのころ、まだ昭和の時代、水分をとらない、我慢

      • 洗った足をまた突っ込む

        続けること。または洗った足をまた突っ込むこと。 よく言われることだけれど、成功するための(売れるための)一番確実な方法として「成功するまで(売れるまで)続ける」という法則がある。 好きなことを仕事にして生きていくことはもちろん簡単なことではないけれど、好きなことを趣味として続けていくことも、また同じくらい大変なことだと僕は思う。とくに年齢を重ねれば重ねるほど。 大人になると仕事やプライベートなどお金や時間が必要なことがどんどんと増えてくる。そうすると例えば、それまで月に

        • 残り時間

          あとどれくらいの時間が残されているのか。 「残り時間」は状況によってさまざまな見えかたをする。例えばサッカーやバスケットのような時間が決まっている試合なんかだと、試合終盤にどんでん返しや劇的な瞬間が見られることもしばしばだ。一年間を通して戦うリーグ戦と、ワールドカップやオリンピックのようなトーナメント戦ではまた「残り時間」のもつ意味がきっと変わってくる。 たぶん多くの人が経験していると思うけれど、僕も子供のころ、好きなゲームや漫画を時間で制限されたことがある。「あともう少

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        ゼツボウと私のみちたりた暮らし/小説

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        • 超短編小説「疲れたマン」
          9本
        • 超短編小説 「途中」
          80本

        記事

          リボルバー・リリーを見て

          パンフレットを買うかどうか この判断はいつもなかなかにむずかしい。映画や舞台が好きなのでよく出かけるのだけれど、その度にけっこうな確率で迷う。結果、買わないパターンがほとんどだ。何せ読まない。 もちろん、パラパラと目を通しはするのだけれど、ゆっくりと、腰をすえて読むことはほとんどない。でも買ってしまうときがある。 最近では、サニーデイ・サービスのドキュメント映画のパンフレットを買った。読んでない。付属のCDすらまだ聞いてない。 なら買わなければいいのに、といつも思う。

          リボルバー・リリーを見て

          健康診断

          健康診断ではじめてつまずいた。 つまずく、という表現は違うかもしれないけど、いわゆる異常値が検出された。健康は自分の一番のとりえだと思っていたので少なからずショックを受けた。 といっても、ちょうどお盆と重なったこともあって、まだ再検査の予約もしていないのだがらなんとも言えないのだけれど。 これまで46年、コロナには一度かかったけれど、大きな怪我や病気をせず、まさに健康に生きてこれたのは、丈夫な身体に産んでくれて、健太郎という名前をつけてくれた両親のおかげだと思っている。

          苦手について

          苦手にもいろいろありまして。 例えば「あーむりむりむり、あたしほんと虫苦手で」とか「あの苦味がね〜、好きじゃないんだけどなんかクセになっちゃってほんとたまにね」とか。一方で「苦手なものを苦手なものとして向き合うことが自分の成長につながるんだ」なんて人もいたり。 苦手の対象がヒトなのかモノなのかコトなのかによっても変わりそうですよね。 僕自身の苦手との向きあい方は、いわゆる「来るものは拒まず、去るもの追わず」です。 意識するというほどではないけれど、できるだけ極端な意識

          苦手について

          きょろきょろ

          影響を受けやすい。 というのは自分では長所だと思っている。映画、ドラマ、漫画、本、広告、知人、有名人、、、など、僕は日々さまざまなタイミングでいろいろな角度からの影響を受けている。 周りなど我関せず、とひたすらに自分の道を歩んでいく人や、自分だけの居場所、世界みたいなものを持っている人を見かけると少しうらやましいな、なんて思ったりもする。 できるなら自分でもそういった自分の大切な世界を作りたいと思って、僕は今日もきょろきょろきょろきょろとおちつきなく周りを気にしながら生

          きょろきょろ

          蝉と蟻

          暑い夏の日 午後二時 濡れたシャツが背中に張り付く 図書館へ行くと休みだった 月曜日か 近くの公園へ 公園には誰もいない 大きな木の下でひと休みする 見上げると蝉が鳴いている 手の届く距離だ ミーンミーンミーンミーンミーン 水筒を取り出して冷たいお茶を飲む 蝉は鳴いている ずっと鳴いている ミーンミーンミーンミーンミーン 僕は蝉を見ている もう一度お茶を飲む 蝉が鳴き止んだ 風が吹くと 蝉は木から落ちた 理解するまでに時間がかかった

          赤輪院飲太郎のソムリエ三次試験

          【はじめに】 僕は昨年ソムリエ試験を受けました。 その際、三次試験の当日、会場で手軽に手順を確認するために短編小説を作りました。 あくまでソムリエ試験の勉強のかたわら、リラックスできればいいや、くらいの感覚で作ったもので、受験後の手直しもしていません。 いないとは思いますが、くれぐれも試験の参考にせず 「おかしな人がいる」 「赤輪院飲太郎って誰だよ」 「こんな人でも受かったんだ」 と、ただただ短編小説として楽しんでもらえればうれしいです。 そろそろ一次試験の季節ですね

          赤輪院飲太郎のソムリエ三次試験

          まゆげ姫とピンクのオーボエ/童話

          むかしある森の奥に小さなお城があり、そこにはまゆげ姫と呼ばれる、太くて濃いまゆげがとてもチャーミングな、かわいらしいお姫さまが暮らしていました。まゆげ姫は優しい王さまとお妃さま、そしてウサギやリス、鳥やクマやオオカミといったたくさんの森の仲間たちに囲まれて、毎日楽しく暮らしていました。 まゆげ姫には大切にしている楽器がありました。それは三歳の誕生日に王さまに買ってもらったオーボエでした。ピンク色に輝くオーボエに、まゆげ姫はすぐに夢中になりました。まゆげ姫は晴れの日も雨の日も

          まゆげ姫とピンクのオーボエ/童話

          セミヨン/童話

          これは、ぼくが小学生の頃の話だ。 ぼくにはセミヨンという、ちょっと変わった名前の友だちがいた。 ある日の休み時間、ぼくがトイレに行こうと席を立つと、セミヨンがついてきた。それまであまり話をすることはなかったので、ぼくは少しびっくりした。セミヨンは目が大きく、あいきょうのある顔をしていた。本を読んだり、よくわからない絵を描いたり、いつもひとりで静かに過ごしていることが多いので、クラスの誰かと話しているところもあまり見たことがなかった。 ぼくとセミヨンは並んでおしっこをした

          セミヨン/童話

          三センチの秘密

          人間は生まれて八〇年たつと三センチだけ浮くことができるんだ。ほんとだよ。僕はおばあちゃんが大好きで子どものころずっと一緒にいたんだけど、あるとき、浮くところを見せてくれた。次の日おばあちゃんは遠くに行っちゃったんだけどね。誰かに聞いてみな。次の日遠くに行っちゃうかもしれないけど。

          三センチの秘密

          鳩とコーヒー

          日課の散歩をしていると雨が降ってきた。すぐやみそうだったので近くのコンビニで雨宿りをしていると、コーヒーを飲みたくなり購入。外に出ると雨はもうあがっていた。コーヒーを手に近くの公園へ行くと、鳩が集まってお茶会を開いているので仲間に加えてもらう。鳩たちはチャイを飲んでいた。ポッポー

          鳩とコーヒー

          口の中の秘密(140字小説)

          口内炎がよくできる。治ったと思うとまた新しい口内炎ができるので、ほぼほぼ一年中口の中に何かができている。病院は嫌いなので行きたくない。そんな暮らしをどのくらい続けてきただろう?今、僕の口の中には得体の知れない生きもののようなものが住みついている。女性にはモテるようになったのだが。

          口の中の秘密(140字小説)

          おならと初恋(140字小説)

          かつて僕は、おならを自由に操ることができた。音、匂い、頃合い、全て自在だ。ある昼休み、僕がビートルズのイエスタデイをおならで演奏していると、隣のクラスの梨乃ちゃんが見に来ていた。僕は梨乃ちゃんのことが好きだった。その日以来、僕はおならを操ることができなくなった。そう、僕の初恋だ。

          おならと初恋(140字小説)