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超短編小説 「途中」

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140字くらいの小説が入っています。よろしくお願いします。
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2019年8月の記事一覧

花の養分

花の養分

花屋に寄った。妻に花を買って帰ろうと思ったのだ。見慣れぬ黄色い花がある。「ヒマラヤの奥地に咲く希少な花です」店主が言う。「愛が養分になり、いつまでも咲き続けると言われています。愛は永遠、ですね」一年後、まだ花は咲き続けている。もっとも養分となる愛は、別の女性に対するものなのだが。
#140字小説 #掌編小説 #超短編小説 #創作小説 #ショートショート

夜中の出来事

夜中の出来事

「痛っ!」夜中、妻の声で目が覚めた。トイレに行こうとしてどこかをぶつけたようだ。「大丈夫?」体を半分起こして声をかける。「頭が。」頭?妻は小柄で、頭をぶつけるほど背は高くないはずだが。立ち上がり明かりをつけると、30センチは超えるであろう長い角が、妻の頭から真っ直ぐに生えていた。
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気がしたんだ。

気がしたんだ。

小学校の頃の話だ。通学路に小さな公園があった。公園には木が何本か生えていた。ある日、木が一本増えたような気がした。友達や公園にいた大人たちは皆「気のせいじゃないの?」と言った。別の日、今度は一本減ったような気がした。増えて、減って、増えて、減って。。。もう、誰も覚えていない話だ。
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私の部屋で、彼に

私の部屋で、彼に

私は目を閉じて、彼に服を脱がされている。ちょっと肌寒い日曜日、私の部屋。彼はいろいろと手間取っているみたい。火星の男なら私はもうとっくに裸にされ、裸になった彼と抱き合っているはず。地球の男って本当に鈍臭い。やっとボタンをはずし終えた彼。彼はため息をつき、こう言ったの。「やれやれ」
#140字小説 #掌編小説 #超短編小説 #創作小説

彼女の部屋で、僕は

彼女の部屋で、僕は

彼女は目を閉じて、何も言わずに僕に服を脱がされていた。ちょっと肌寒い日曜日、彼女の部屋。僕はいろいろと手間取っていた。彼女のワンピースを脱がせるには、33個のボタンを外し、8つのクロスワードパズルを解かなければならなかった。火星の女の子の服というものは本当にややこしくできている。
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鳴き真似が得意だった近藤君

鳴き真似が得意だった近藤君

小学生の頃、動物や昆虫の鳴き真似が得意な近藤君という友達がいた。犬や猫、蝉、鈴虫から、アマゾンにいる珍しい鳥や爬虫類まで、近藤君はとても上手に真似てみせた。ある日、近藤君は聞いたことのない鳴き声を僕にやってみせた。「それは?」「三十年後に分かるよ」そして今日、地球に火星人が来た。
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猫の国

ある夜のこと、その日は仕事が長引きいつもより帰りが遅かった。駅へと向かう道は人気がなくもの寂しい。道の脇に猫がいる。近寄ると、猫はスルスルと歩き出し、前方の車の下に潜り込んだ。覗きこむ。猫はいない。「車の下には猫の国の入り口があるんだよ。」声がして振り返ると、そこには別の猫がいた。
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憂鬱な朝

憂鬱な朝

飲みすぎた翌朝はいつも憂鬱だ。今朝は体のあちこちが痛くて、いつもよりだいぶ早く目が覚めてしまった。左肩から首のあたりが酷く痛む。右向きに体を起こし立ち上がるが、うまくバランスがとれない。自分の体でないみたいだ。ふらつきながら洗面所へ行き顔を洗う。鏡に映ったのは、知らない男だった。
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喫茶店、猫、ぬるいビール

喫茶店、猫、ぬるいビール

見知らぬ街を歩きまわるのが病的に好きだった。夏のある日、目についた喫茶店に入るとスピーカーからグレン・グールドが大音量で流れ、カウンターには猫がいた。僕はビールを注文し、本を読んだ。運ばれてきたビールは少しぬるかった。以来、僕はぬるいビールを飲むと、あの猫と喫茶店を思い出すのだ。
#140字小説 #あの夏に乾杯

黒犬シュウの物語-2/2(140字小説*29)

黒犬シュウの物語-2/2(140字小説*29)

僕の膝の上でシュウは苦しくて涙を流していた。犬の涙を僕ははじめて見た。泣きたいけど声が出ない。車は進まない。信号待ちをしてるとき、シュウは僕を見上げた。あの時のシュウの顔を、僕は今でも忘れることができない。あの日、散歩当番は僕で、ゲームの手が離せず、母が代わりに散歩に行ったのだ。(終)
#140字小説 #掌編小説 #超短編小説 #創作小説

黒犬シュウの物語-1/2(140字小説*28)

黒犬シュウの物語-1/2(140字小説*28)

シュウという名の黒犬を飼っていた。ある日、母が散歩に連れて家を出ると、角から小さな猫が飛び出してきた。母がリードを離れないように強く持ったそのとき、首輪はシュウの首を強く強く締めつけた。時刻は夕方6時。車で病院へと急ぐ。渋滞で進まない。そのときシュウは、助手席の僕の膝の上にいた。(続)
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伯父の海(140字小説*27)

伯父の海(140字小説*27)

「俺は天の川を船で渡ったことがあるんだ。」伯父は漁師で、九十歳で亡くなるその日の早朝まで船を出していた。伯父が煙になった日の夜、僕は飲みすぎた酒の酔いを醒まそうと海まで歩き、空を見上げた。するとそこには、見たこともない数の星空が広がり、ずっとずっと遠くの地平線で海と交わっていた。
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亀有公園前派出所から電話がきた(140字小説*26)

朝、日課の片足立ちをしているところで電話が鳴った。「こちら葛飾区亀有公園前派出所ですが。田中カナタさんのお電話ですか?」「はい、田中カナタです。」「お財布が届いてまして。ご連絡差し上げました。」「もしかして、寺井洋一さん?」「はい?」いけないいけない。夢と現実を混同してしまった。
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渋谷にて(140字小説*25)

渋谷にて(140字小説*25)

渋谷駅前交差点で知らぬ男に声をかけられた。少しドキッとした。僕は人から声をかけられるタイプではない。「昨日、あなたがここで拾った100円玉、私のです。」「はい?」「私のです。100円玉。」僕は昨日、ここで100円玉を拾った。怖くなって、僕はその場から駆け出した。が、囲まれていた。
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