超短編小説　「途中」

2019年8月10日 08:06

同期が仕事を辞める話。（140字小説＊18）

同期が仕事を辞めるらしい。彼とはとくに親しいわけでもなく、仕事で直接の関わりがあるというわけでもなかった。たまたま同じ時期に、同じ会社に入ったというだけの関係だ。偶然、トイレで彼と一緒になった。「辞めるんだって？」「死神がきてね。あと十年だって。」死神、僕のところにも来ておくれ。
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七戸健太郎

2019年8月5日 08:53

置かれた場所でなんか咲きたくない（140字小説＊15）

たどりついたところは爆弾や武器の演習場で、陽も差さず、草木一本生えていなかった。母親からは「たどりついた場所で精一杯咲きなさい」と言われていたけど、僕はこんな場所で咲きたくなかった。だから僕は、もう一度風に乗った。山を越え、川に落ち、海に流された。気がつくと僕はまた演習場にいた。
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七戸健太郎

2019年7月28日 08:33

人間になった猫（140字小説＊14）

あるところに人間になりたい猫がいました。ある日、神様が現れて言いました。「君を人間にしてあげよう」すると、猫は人間になりました。人間になった猫は、毎日毎日働きました。やりたくない仕事をし、会いたくもない人に会い、それはそれは疲れて夜は涙を流して眠るのでした。「あー、猫になりたい」
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七戸健太郎

2019年7月27日 09:07

約束（140字小説＊13）

「来世どうする？」「俺は蝉かな」「蝉？」「うん、昔からの夢だったしね」「でも蝉って今大変っていうじゃん。生息場所とか、個数とか」「まあ、なんとかなるよ。お前は？」「うちはもう、代々決まってるから」「縄文杉？」「うん。縄文杉も今いろいろあるけどね」「会いにいくよ」「おー、約束だぞ」
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七戸健太郎

2019年7月26日 08:13

二人の王様（140字小説＊12）

声の大きな王様と声の小さな王様がいました。声の大きな王様はいつも大きな声を町中に響かせるので、人々は耳をふさぐようになり、王様の言葉は届かなくなってしまいました。声の小さな王様はあまり遠くまで声が届きません。すると、王様の言葉を聞くため、人々はお城の周りに集まるようになりました。
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七戸健太郎

2019年7月25日 07:20

令和生まれ（140字小説＊11）

聞くところによると、令和生まれの人間はまだしゃべれないらしい。それどころか歩くこともままならないようじゃないか。人間が聞いてあきれる。その点、俺たち令和生まれの猫はひと味違う。もう自力で歩き回るし、弁も立つ。先週なんか原宿のタピオカ屋に5時間並んだよ。で、なにがうまいんだ、あれ？
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七戸健太郎

2019年7月24日 08:34

結婚（140字小説＊10）

地球の人間と火星の人間が出会い、恋をしました。地球の人間は言いました。「僕と結婚しよう。地球では愛しあう二人は結婚するんだ」「おもしろそうね。結婚しましょう」二人は地球へ行き、親に挨拶をして、役所に並んで、名前を変更して、、、「なにこれ、つまんない」火星の人間は去って行きました。
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七戸健太郎

2019年7月23日 09:11

狐（140字小説＊9）

ある村で畑が荒らされた。近くを通りかかった狐が捕まった。狐は言った。「僕じゃありません。僕は畑を荒らしません。ほら、今もそこのスーパーで魚と野菜を買ってきたところです」「嘘をつけ！狐はいつも畑を荒らすじゃないか！」「狐によります。僕は荒らしません」「えーい、うるさい！この狐め！」
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七戸健太郎

2019年7月22日 08:19

賃料の高い事故物件（140字小説＊8）

あのー、安い物件探してるんですけど。ここだけの話、事故物件でもいいですよ。僕、そういうの全然気にしないので。あります？え？どうして、事故物件なのに賃料が高くなるんですか？毎晩出る？だったら安くしてくださいよ。え？毎晩、日付が変わるころ背中に覆い被さる、若い巨乳の霊。。。借ります！
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七戸健太郎

2019年7月21日 10:18

ドラえもんの道具（140字小説＊7）

ドラえもんの道具を手に入れた。噂には聞いたことがある。コロンブスのどこでもドアとか、アインシュタインの暗記パンとか。。。で、今度は僕みたいだ。今朝、目が覚めて水を飲もうと冷蔵庫を開けると、翻訳こんにゃくが入っていた。あまりうれしくないのは、僕がこんにゃくアレルギーだからだろうか。
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七戸健太郎

2019年7月20日 11:42

野球観戦（140字小説＊6）

野球観戦のいいところは、楽しみ方がたくさんあることだ。声のかぎりに応援したり、一球一球に目をこらしたり。ビールを飲んでもいいし、サンドウィッチを食べたっていい。君の自由だ。今日の僕は特等席、アンパイアの左肩の上だ。ちょっと怖いけど、なんせ迫力が違う。蝉もわるくないな、なんて思う。
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七戸健太郎

2019年7月19日 13:27

進化（140字小説＊5）

古い遺跡から男性の遺骨が発見された。推定、四十歳前後。その時代の遺骨が発見されることは珍しく、遺骨を元に当時の姿が復元された。「博士、乳首があります」「やはりそうか。二千年代初期、当時日本と呼ばれた国では、おじさんと呼ばれる種族の乳首が、とても嫌われていたと記述がある。きっと、、
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七戸健太郎

2019年7月18日 12:58

遅刻（140字小説＊4）

ある子どもが不治の病を抱えて生まれた。もってあと三日の命だろう。三日たった。子どもは死ななかった。一年が過ぎるころには病は消え、すっかり元気になった。その子は多くの人に愛され、百歳まで幸福に生きた。死ぬ間際、死神がやって来て言った。「いやー、ごめんごめん。百年も遅刻しちゃったよ」
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七戸健太郎

2019年7月17日 08:00

家に帰ったら床がない（140字小説＊3）

家に帰ったら床がなかったんです。えーと、30分くらいですかね。散歩です。犬の散歩。30分前までは確かにありました。リビングでテレビを見ていたんです。鍵は、、、かけて行きませんでした。散歩だし大丈夫かと。。。はい、もちろん知ってました。でも、まさか自分が床喰いにやられるなんて、、、
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