人的資本に関する情報開示とはなにか?(基礎編)

本記事でわかること

①「人的資本に関する情報開示とはなにか?」がわかる
②「なぜ人的資本経営が話題になっているのか?」がわかる
③「具体的にどう向き合うべきなのか?」がわかる

前回、といっても1年以上前に中学生でもわかるレベルの言葉でESGや人的資本について簡単にまとめました。そのまま1年前に8割くらい書いたまま放置されていたものが見つかったので、ちょっと修正して投稿することといたしました。

前回のこちらの記事を読んだ上でご覧いただけると、かなりまとまりよく理解していただけると思います!

①復習:人的資本に関する情報開示とはなにか?

読んでくださいと思っても99割の皆さんはそんなに暇じゃないと思うので、超必須の人的資本という言葉が重要である背景だけ解説します。

黒字100億の会社と赤字100億の会社なら、黒字100億の会社に投資したいと思うのが普通ですね。こういったわかりやすいお金の部分で企業の価値を測る指標を「財務情報」といいます。一方、財務情報だけで企業価値を判断するのは早計ともいえる。なぜなら同じくらい利益を上げている会社でも、レベルの低い人しかいない会社と、素晴らしい人材ばかりの会社なら、企業価値はまた変わってくるはずだからです。同じくらい利益を上げている会社でも、素晴らしい人材が揃っている会社はこれからも安定して利益を出し続けてくれそうですし、一方で、レベルの低い人しかいない人は今たまたま上手くいっているだけの可能性がありそうで不安ですよね。

こういった、お金の部分(財務情報)だけではなくて、中身の人とかにも注目しなきゃいけないよね、だから人に関する情報も公開していこうね、というのが今回のテーマ「人的資本に関する情報開示」というものになります。(人以外も含めた広い概念として、財務情報の対義語として「非財務情報」といいます。非財務情報には、環境に配慮しているか、ちゃんと世の中のルールを守っているかなどもありますが、人的資本の文脈では人の情報に着目します。)人的資本経営は突然降って出た怪しい言葉に感じられるかもしれませんが、よくよく理解すると至極当然で本質的な考え方であると言えそうですね。

②なぜ人的資本経営が話題になっているのか?

経営戦略としての人的資本開示

HRテクノロジーコンソーシアムさんが出している上記の本にて、このあたりはかなりきれいにまとめられていました。

背景①:無形資産に対する金融市場の認識の変化
背景②:人事領域へのクラウドテクノロジーの流入
背景③:働き手を取り巻くメガトレンド
本当の背景:岸田政権下で強く推進されたから

背景①:無形資産に対する金融市場の認識の変化

きっかけは、国連のアナン事務総長が出した、PRI (Principle of Responsible Investment)=「責任投資原則」になります。内容としては、投資するときには儲かってるかどうかだけじゃなくて、ESGに配慮した良い企業かどうかを考えて投資しようね、というものです。

欧米の投資家の思考は有形資産だけでなく、無形資産重視に変わってきています。具体的なイメージとしては、「昔は現金とか土地とかいっぱい持っているか?が企業の価値の元になっていると考えていたけど、お金持っているとかよりもどんな企業文化なのか?どんな著作権持っているか?どんな人がいるのか?というお金で測りづらいものを投資判断として重視する」ように変わったということです。(25年間で無形資産を重視する傾向は17→90%へ変化)

背景②:人事領域へのクラウドテクノロジーの流入

人の価値を測りましょう、といえど、全部手書きの紙の書類でやろうとしてもそんなことはできるわけがありません。そうです、人的資本経営を行うためには、テクノロジーの進化が不可欠なのです。

実際、HCMクラウドサービス(Human Capital Management)が2010年以降世界中で広がってきたことを背景として、2018年12月にはISO30414という人的資本マネジメント領域における世界初の国際標準規格が生まれました。

ISOというのは、どの国でも共通するルールとかを作っている機関です。
どこの国に行っても、「あ、ここが喫煙所か」とわからせてくれている有り難い機関です。しかしこのISOは「喫煙所とトイレの場所を教えてくれる屋さん」としての機能は本来持ってる力のほんの一部であり、「人的資本の世界共通の指針を作ってくれる屋さん」でもあります。ISO30414とは、人的資本マネジメント領域における世界共通の基準です。他にもISO9000というナンバーでは品質に関する基準を作ってたり、ISO14000では環境に関する基準を示してたりします。

ISOについて詳しく知りたい方は、下記の記事なども大変勉強になるので、ぜひご参考にしてください。

背景③:働き手を取り巻くメガトレンド

働き手の価値観が変わった、というのも大きな影響があります。
「人生100年時代」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。
リンダ・グラットン氏の「LIFE SHIFT」で書かれているように、より良く生きていくためには、単純な労働者ではダメである、自分らしく働く必要がある、と考える若者が増えています。副業や起業・フリーランスという働き方が広まる中で、多様な人々を活かせるようになることが企業には求められるようになっています。

本当の背景:岸田政権が強く推進したから?

色々書きましたが、ぶっちゃけこれだろうなあと思います。国から強制されたからやらなきゃ、と問題になったというのが実態でしょう。やった方がいいというだけでは、これだけ短期間で話題になり、そして取り組まれることもないでしょう。

やらされから話題になっているものではありますが、開示自体は本質的で素晴らしいことではあるはずです。これに対して「やっつけ開示」をするのか「戦略開示」をするのかはまったく大きな結果になることでしょう。どうせやらなければいけないのであれば、やらされ仕事ではなく、意味がある仕事に昇華させていくべきだと思われます。

③「具体的にどう向き合うべきなのか?」がわかる

人的資本の情報開示と言いつつ、じゃあ具体的に何したらいいのか?大きく2つに分けてお伝えします。

人的資本の情報開示は大きく2種類あり、
「①独自性のある情報開示」
「②比較可能性を意識した情報開示」
に分けられます。

かなり面白いのが、①独自性のある情報開示、馴染みある言葉に変えるとユニークな情報開示をしてね、ってことを言われていることです。

②は当然です。A社とB社、どっちが良いですか?と比較される場合、片方の会社だけ売上を書いて、片方の会社は売上を書かない、みたいなことがあれば困ります。利益に関してA社だけ書いて、B社は書かない、みたいなことやられると投資判断ができません。だから、普通に考えたら比較できる情報を書くべきですよね。比較可能性のある人的資本の情報開示では、離職率50%で1年に半分の社員が辞めるどブラック企業と離職10%で9割の社員は残るっていう一般的な企業ということを可視化して比較できるようにするわけです。

比較可能性のある情報開示について、他の例としてどんなものを開示して欲しいかということは以下のワードなどが有名です。人材育成、従業員エンゲージメント、流動性、ダイバーシティ、健康・安全、コンプライアンス・労働慣行。


本題はここからです。①ユニークな情報開示をしてください、というのが普通に考えたら変なのです。投資を目的にするなら、普通はどっちの企業がいいかなあ、と比較できるようにするはずです。でも、政府は独自性のある情報開示も大事にしてね、と言ってます。人的資本の一番の権威と言えば、伊藤邦雄先生になると思いますが、伊藤先生のセミナーを見に行った際もここは強調されていて面白かったです。

独自性の項目については、他社との比較は考えなくていいよ、と非財務情報可視化研究会から強調までされてますね。

自社の戦略やストーリーにあった、ユニークな試みを公開してくれということが望まれているみたいですね。採用周りの仕事を私がしているからか、将来的にこれは情報の非対称性が高い採用とかで有効になってくるのではないかなと感じています。

例えば、丸井グループさんは、役員にどんな性格の人がいるかという役員の多様性を出していました。大和ハウス工業さんは男性の育児取得率を出していますね。大和ハウス工業さんは、住宅メーカーですが、ホワイトアピールをすることが目的ではなく、男性社員に育児をとって戻ってきてもらうことで、より良いアイデアが出てくる効果を狙ってるみたいです。これは非常に面白いですね。

義務化をされていない中小企業においても人的資本の情報開示は他人事ではありません。中の情報がちゃんとわかる企業と、そうでない企業だと候補者にとってどちらが魅力的になるかは明らかです。ビジネスにおいても、ちゃんと開示している企業とそうでない企業ではどちらのほうが取引先として信頼できるか、ということも変わってきます。投資家としてもどちらに投資するかという判断をする際に開示されている企業の方が投資もしやすいでしょう。今後多くの企業にとって情報開示が企業成長の限りとなる可能性は高いと想定されます。

私自身ももっと人的資本の情報開示について勉強していきたいと思うので、ぜひ、興味のある方はXなどで一緒に議論しましょう!また、最新の情報を調べて投稿してみたいと思います!

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