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空想彼女毒本 #12

#12  笹本雫

笹本雫

結婚式の2次会で新婦の友人で来ていたのが初めての出会い。その後連絡先も知らなかったので会うことは無く。電車でスマホの写真を整理しているとその時撮った写真に小さく写る彼女が。名前も聞いてなかったなと顔を上げると、吊り革に掴まってる彼女が。2人同時に「あの・・・」
「ゴメンなさい。見るつもりは無かったんですけど、つい目に入ってしまって。」
「あ、いや、これ、この写真、あなたですよね?」
「はい。あの優子の結婚式ですよね?」
「そうです。晴斗との。」
「じゃ、ご一緒してたんですね。」
「私も撮ってた写真の中にステキな人が居るなぁと思ってて、誰だろうなって思ってたんです。」
「ほんとですか!?」
神様はイタズラ好きらしい。こんなイタズラせずに、あの時素直に出会わせて居てくれれば。それでもあの時出会って居なかったからこそ、こうして劇的な再会が出来たということか。あの時のあれが、この時のこれと繋がるという、その時、その時では何気ない日常でも、そのポイントが線で結ばれて連なった時、運命的な何かを感じてしまう。それは何もボクだけに限ったことでは無く、彼女の方もそう思ったらしく。
「斉藤和義のウェディングソング弾き語りしてましたよね?」
「そうです、友人代表でなんかやれって言われてて、何も出来ることないから、歌ったんです。」
「すごく良かったですよ!みんなであの人誰?誰?ってずっと話してたんですよ。」
「ホントですか?」
「ホントですよ!優子に聞いて名前は分かったんだけど、連絡するのもなぁって躊躇してたんです。」
「良かったです。あ、ボク梅田祐作って言います。」
「笹本雫って言います。あ、今日はこれからどこかお出かけですか?」
「今から、上野の森の美術館へゴッホ展を見に行こうと思ってた所なんです。」
「ええ!私も丁度行こうとしてた所なんです。」
「ホントですか?!すごい偶然ですね。」
実は優子から名前も聞いてて、SNSのアカウントも知ってた私は、彼のSNSで、今日、上野の森の美術館へ行くことは知っていた。偶然を装って彼に近づこうとしていたのはナイショの話。
「じゃ、これから一緒にどうですか?」
「もちろんです。」
まさか春斗の結婚式で気になってた雫さんと一緒にゴッホ展に行けるなんてと、浮き足立つ気持ちを悟られまいと、平静を装うが、返ってそうしていることが見透かされてしまっているんじゃ無かろうかと思うと、次の言葉が出てこなかった。
「ゴッホとゴーギャンってBL説ってあるよね?」
と、自分で言った言葉にっハッとする。昼間にしかも初対面の女性相手にする話ではなかったと思うが、すでに言葉にされた言霊の弾丸は銃口を抜け、放たれた後だった。舞い上がる硝煙に雲隠れしたくもなるが、彼女は撃たれたのも気がつかないほどに呆気に取られていた。
「そ、そうなんですか?」
当然の反応である。
「今で言うBLとして捉えると、あの2人の関係が愛おしく思えると言うか、そう云う解釈もあるなってのを読んだから。」
苦しい言い訳であるが事実である。
「言われてみれば、今風に言うBLだったのかもしれませんね。当時この言葉があれば、2人の仲ももう少し上手く行ってたのかもしれませんね。」
ボクはハッとした。そうなのだ、説明のつかない心情や、現象、あらゆる事象に、呼び名を付けることにより、概念が定義化され、それまで説明しきれていなかったことが、その一言で明確になり、心の拠り所になり得るなと。絵描きの理想郷をアルルに求めたゴッホとゴーギャンもBLだったと言われていたら、もう少し違ったのかもしれない。
「思うようにならないから、あんな絵が描けたともいえるんですけどね。」
「本当にそうだよね。」
まだ、上野に向かっている途中なのに、すでに何点もの絵画を見たかのような気持ちになる。
それから美術館を出たのはもう辺りも薄暗くなり出した頃だった。この辺は何か美味しい夕飯は無かったかな?と頭の中のGoogle MAPを開くが、何もピン留めされておらず、仕方なくスマホを取り出そうとするが、やはり彼女の手前、人と一緒に居るのにスマホを開くのは失礼だなと思い、
「夜、どうします?」
と、ボクはこの辺に何か美味しいご飯屋さんでもないかという意味で聞いたのだが、彼女は違った。
「明日も休み取ってます。」
直ぐには理解はできない言葉だった。何を言われたのか理解するのに、散々遠回りした挙句、真っ直ぐ来れば近かったなというくらい思考の回り道をして、たどり着いたのはそういう事なの?とボクを勘違いさせた。
「今、焼肉の気分なんだけど、何か他で食べたいものある?」
ここでもう一歩踏み込んでみた。焼肉を一緒に食べている男女は深い仲という俗説が本当かどうか確かめてみたくなったのだ。
「良いですね!久しく食べてないので行きましょう!」
にわかに信じがたい事なんだけど、ネットニュースか何かで見た、焼肉を一緒に食べている男女は深い仲というのは、今日、私の行動次第では俗説が定説になるんじゃないかと感じた。女の誘いを断るような男はいないという驕りも、焼肉を奢られればの話だとは思いつつ。
「じゃ、決まりですね。とは言えこの辺の事情に詳しくないので、ちょっとググりますね。」
「はい、別に食べログ3.5以上じゃなきゃ嫌とか無いんで、大丈夫です。」
食事も終わり店の外へと出ると、周りは騒がしく、夜の街と化していた。
「食べ過ぎたので少し歩きませんか?」
「はい。」
と、なんとなく歩き出し、言葉に出さずともお互いこの後どうなるのかは分かっていた。段々と賑やかだった上野駅から離れ、足は鶯谷の方へ、そして2人は朝雀の鳴き声で目を覚ました。

あとがき

ボクには結婚式の2次会で知り合った異性という存在が居ない。そもそも人の結婚式に出席した回数も少なく、陣内智則と、フジモンの1回目の披露宴に呼ばれて行った事はあるけれど、そこに来ていた新婦側の友人と、どうして知り合えようか。新婦側の友人で押切もえさんとか、あと誰見たかなぁ。まぁ無理だよね。
でもリアルな世間ではそういうシチュエーションで結ばれている人もいると思うと、住んでる世界が違うとしか言いようが無いんだけど、一方そういう人から見ればまたこちら側も住んでる世界が違うんだろうから、別世界を見てはいるんだけれど、過ごす事は出来ない。ある意味テレビや映画を見てる感覚に近いのだろうか。そうなると、見ながらお互い言いたい事を包み隠さず言ってしまったりすると、実際は別世界ではないから、争いが起こるのかもしれないね。気をつけなくちゃね。

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また、中野ブロードウェイのタコシェでも取り扱っておりますので、ぜひリアルな本を手にして頂ければと思います。
今後執筆予定の彼女らとのさわりも入っておりますのでぜひよろしくお願いします。

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