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DXにマッキンゼーは要らない

先日、大学の学科の後輩と久しぶりに再会をした。
彼の仕事の話が、ぼくの仕事観にも示唆を与えてくれる興味深いものだったので書き残しておく。

ぼくらは学生時代に「森林科学科」というところに所属していて、森林について生態・政策・産業など様々な観点から学んでいた。
卒業後、ぼくは森林とは全く関係のない仕事に就いたのだけれど、彼は転職を経つつ、現在は小さな(ほぼ家族経営の)製材所で働いているとのことだった。

製材とは、山で伐採された木の丸太をカットして角材や板材に加工する仕事です。 原木市場などで丸太を仕入れ、丸太の皮をむき、カットして角材や板材にしていきます。

奈良の木のこと|製材の仕事

彼の働く製材所は、主に大径材と呼ばれ大きな丸太を一次加工しており、直径2mを超えるものを扱うこともままあるらしい。
そのような大径材は日本国内で採れることはほぼなく、多くは海外から輸入されてくる。
(国内でそれだけの大径材が採れることもゼロではないが、たとえば台風などで倒れた御神木や屋久杉など、極めて希少である)
大径材の製材に対応できる機械はもとより、技術が残っている製材所自体も、国内では数える程になっているらしい。

彼の勤める製材所では、実際の製材作業はもっぱら齢八十を超えるおじいちゃんが担っており、いわゆる職人技となっているとのこと。
マニュアル整備や技術継承の重要性はありつつも、一本数百万円の価格の丸太をおいそれと練習で製材させてもらえるはずもない。
丸太の購入者は「チーク材がほしい」や「黒檀がほしい」といった樹種で購入しているというより、丸太の直径や長さ、木目などを見たうえで「その丸太がほしい」という、いわば一本釣りをしているわけで、失敗したときの替えがきかないのである。
では彼はどんな仕事をしているかというと、製材の一連の流れを見直しているとのことだった。

知らずしらずのうちに、DX

たとえば、輸入された丸太はすぐに製材するとは限らず、場合によっては年単位で保管されることになる。
どうやって保管しているかというと、なんとそのまま海の中に沈めておくらしい。
海の中に沈めておく分には腐食したり虫に食われたりすることもないとのこと。
そしてその丸太は、これまで紙の帳簿に「購入者:◯◯株式会社|樹種:チーク材|直径:1.5m|輸入元:マレーシア」などと記入し管理されていた。
日々無数の丸太が流通し、ともすると見た目も区別がつきづらいものを年単位で保管しているので、ミスが起き得るのは容易に想像がつく。
実際過去には、A社が購入し製材を依頼していた丸太を、誤ってB社のものとして製材してしまった、というようなトラブルもあったらしい。

そこで彼がやったことは、紙の帳簿の廃止とスプレッドシートの導入だった。
さらに耐水性のあるプリント用紙にQRコードを印刷し丸太にくくりつけ、対応するスプレッドシートのデータに紐づくようにしたとのことだった。

それ以外にも、大径材を加工する機械はそのサイズも規格外で、数メートルの直径の丸太を製材するためには、それ以上の大きさの帯鋸(おびのこ:チェーンソーのように鋸がベルト状になったもの)が必要になる。
丸太に対してどのような角度・強度で帯鋸を入れていくかがまさに職人技らしく、鋸の角度の調整には細心の注意を要する。
そのため製材する際は、その都度、鋸の入り方を見に行き、操作盤に戻って操作をし、しばらくすると操作を一時停止して、また鋸の入り方を見に行ってという作業を繰り返していた。
それでは効率が悪いと考えた彼は、帯鋸側にGoProを設置し、操作盤側にiPadを設置し、操作盤側から鋸の入りを確認することができるようにしたとのこと。

その話を聞いてとても感心したぼくは「すごい、まさにDXだね」と言ったのだが、当の彼は「でぃーえっくす…ってなんですか?」という反応だった。

DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」のこと。言葉の定義は、「データとデジタル技術を活用し、ビジネスにおける激しい変化への対応、業務や企業文化の変革、競争の優位性を持つこと」となります。

SATORI|DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味や定義をわかりやすく解説

DXという言葉を知らない…!?決してバカにしているのではなく、DXという言葉を知らない彼が、誰に頼まれたわけでもなく(もちろんDX人材で採用されたわけではない)、結果的ど真ん中のDXを実践していることに衝撃を受けた。
「キミのやっていることはDXという業務に該当して、我が国の民間企業から官公庁にいたるまで、最重要の課題のひとつとして取り組んでいて、めちゃくちゃ価値があることだよ」と伝えたのだけれど、いまいちピンときていない様子だった。
彼はシンプルに木が好きで、希少な丸太が正しく、あるべき加工・流通がなされてほしいという思いから、そのような業務を実践しているようだった。

意識を高くもたず、現場の課題を拾う

DXというカタカタ用語のカッコいい響きと、ぼくがいわゆるスタートアップ界隈に身を置いているせいもあってか、ついつい仕事を頭でっかちに捉えてしまいがちである。
『マッキンゼー式DX術』みたいなNewspicksのハウツー記事っぽいもの一読してわかった気になってしまいかねない。
そんな意識の高いムーブをしなくとも、課題の多くはすでに現場にあり、それに気づくことができるかどうかが、実はめちゃくちゃ大切で、本質的なことじゃないか……?

『DXにマッキンゼーは要らない』という挑戦的なタイトルを付けたけど、もちろんマッキンゼーのようなコンサルが有効な、大企業や数億円規模の事業もあると思う。
一方で中小企業や成長過程にあるスタートアップ企業に必要なのは「マッキンゼー式」フレームワークを学びつつも、現場に無数にある課題を決してないがしろにせず、拾っていくことなのかもしれない。

そんなことを考えさせられた久々の再会だった。

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