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エレナ・トンラ(Ex:Re)インタビュー

2010年代の4AD所属アーティストの中でも、ドーターは特に好きなバンドのひとつだったが、紅一点メンバーのエレナが始動させたEx:Re(エクス:レイ)というソロ・プロジェクトがまた素晴らしく、さらにファンになってしまった。
2019年1月にはレーベルのショウケース・イベントで、ディアハンターやギャング・ギャング・ダンスとともに来日を果たし、レディオヘッドの作品にも参加しているジョセフィーヌ・スティーヴンソン、4ADのハウス・エンジニア=ファビアン・プリン、その学友だというジェスロ・フォックスをバックに従え、素晴らしいライヴ・パフォーマンスも披露してくれた。
悲恋を経験したことから衝動的にアルバムを作り上げてしまったという特殊なケースであるだけに、本人はあくまで限定的なプロジェクトと考えているのが少し残念な気もするが、ここでの経験はきっと彼女の今後の活動においても大きな糧となって反映されていくに違いない。

翻訳:片岡さと美


もう1度やりたいのはやまやまだけど、また破局を経験して新しいレコードを作る心の準備はできてないから(笑)

---来日は5回目くらいになりますよね。

「そうですね、日本は何度来ても最高」

---今回はEx:Reという新しいプロジェクトでのライヴということで、ちょっと気分的にも新鮮なんじゃないですか?

「ええ。それにバックを務めてくれたメンバー3人は初めての日本なので、彼らが何かにつけて『うわぁ~!』って感動してるのを見ると、すごく新鮮な感じがして、こっちまで嬉しくなってきちゃう(笑)」

---そのバンド・メンバーについてですが、Ex:Reとしてライヴをやるにあたり、編成など色々と考えたのではないかと思います。彼らはどのようにして選ばれたのでしょう。

「まず重要だったのが、アルバムのパフォーマンスのクオリティをライヴでも維持したいということ。単にレコーディングで演奏したというだけではなく、アルバムに大きく貢献してくれたミュージシャンをライヴでも起用して、その時のフィーリングを再現することが大事だったので、そのままジョセフィーヌ(チェロ)とファビアン(ドラム)にお願いしました。2人ともすごく特徴的な演奏をするミュージシャンなので、他の人が演ると全く違うものになってしまうから、どうしても彼らには参加してもらう必要があった。もう1人、ジェスロに関しては、アルバムには参加していないのだけど、彼はファビアンの友達で、ダン・クロールっていうミュージシャンとも一緒に活動していて、そのダンはドーターのヨーロッパ・ツアーで前座を務めてくれたことがあったから、私も面識があったということで繋がりました。確か、ジェスロとファビアンはリヴァプールで同じ学校――LIPA(※リヴァプール・インスティテュート・フォー・パフォーミング・アーツ/ポール・マッカートニーが創設した音楽学校)に通っていたんですって」

---昨日のライヴでも、ファビアンのドラム・プレイは素晴らしいと思ったんですが、彼は4ADのエンジニアでもあるそうですね?

「ええ、お抱えのプロデューサー/エンジニアとして、4ADオフィスの地下にあるスタジオで仕事してますね。これまでにも色んなレコードを手がけてきていて、たとえばD.D Dumboとか、Douglas Dare、あと、Ghostpoetとも一緒にやったことがあって。エンジニアとして素晴らしいのはもちろん、見てもらった通り、ドラマーとしても途方もなく凄いんですよ」

---彼を公の舞台に連れ出したのは、あなたが初めてということになるんでしょうか。

「いや、それはないんじゃないかな。これまでにもセッション・ドラマーとして色んな人たちとツアーした経験があると思うから。だからそう、これまでにも地上に出たことはあるはず(笑)」

---Ex:Reのアルバムは、恋の終わりを経験したことから生まれた作品だと聞いていたので、パフォーマンスの内容もそれを反映したダークな感じのものになるかと思っていたんですが、意外と曲間もにこやかにしていて、全体的に楽しそうな雰囲気のライヴになっていたのが印象的でした。今はもう、Ex:Reの作品を演奏していてツラい気持ちがフラッシュバックするようなことはないんでしょうか。

「そうですね、ある経験を曲なり何なりの形にした時点で、呪縛もどんどん解けてくるというか、客観化することで深い悲しみを感じることも少なくなるっていうのはあると思う。あともちろん、バンドのメンバーたちと一緒にステージに立てること自体すごく楽しいし、昨日のような素晴らしいオーディエンスの前でプレイできること自体とてもポジティヴな場なわけで、そんな中でメソメソなんかしてたら感謝の気持ちも薄れちゃうでしょう(笑)」

---バンドとしてもしっかりまとまっていると感じられましたが、Ex:Reとしてのライヴは、今回の来日公演以前に何回くらいやってきたのですか?

「日本に来る前に全部で5回やってます。いちばん最初が11月、アルバムをリリースした週にやったショウで、ホクストン・ホールっていう小さくて綺麗なヴェニューで演奏しました。それから、ついこないだベン・ハワードと一緒にブリクストンで4公演やって、あそこは確か5000人収容だから、1回目からすると大躍進ですね(笑)」

---昨夜のライヴも素晴らしかったですし、ご自身でも十分な手応えを覚えているんじゃないかと想像するのですが、偶発的に生まれたプロジェクトだとしても、今回限りで終わりにしてしまうのは、あまりにも惜しいと感じます。Ex:Reという形態での表現を、今後もっと発展させていけるんじゃないかという感覚を持っていたりはしないんでしょうか?

「そう言ってもらえるのは嬉しいのだけれど(笑)、Ex:Reはある特定の場所と時間の記録を残したくて作ったレコードだったので、今後もし何かの形でソロをやるにしても、Ex:Reとして、ということにはならないでしょう。ただ、今回と同じメンバーで是非もう一度仕事したいとは思ってます。あと、レコーディングの過程で取り入れるのを諦めたアイディアや曲もたくさん残ってるし、Bサイド・コレクション的な形で検討し直す可能性もなくはないかも……ただ、現時点では、そう、この1枚で終了かな」

---我々が、Ex:Reのセカンド・アルバムを聴くためには、あなたに再び悲しい思いをしていただくしかないと(笑)。

「そうですね、絶対に嫌だけど(笑)」

---ライヴ活動の区切りがついたら、またドーターに戻っていく予定ですか。

「そう。実際すでに戻りつつあって、今年もEx:Reのショウをやりながら、ドーターの曲を作っていきたいと思ってます。この2つを並行してやれるのは、自分としても嬉しいですね」

---Ex:Reでの経験が、今後のドーターでの創作に反映していくことになる予感はしていますか?

「ええ。今回のプロジェクトで学んだことはたくさんあるし、プロダクション面やサウンド・デザインに重きを置いたレコーディングだったから、今後ドーターでもそういった部分を生かしていけるんじゃないかな」

---プロダクション重視というと、具体的にどういったところが、ドーターとは違っていたのでしょう?

「Ex:Reでは、まず最初に1人でスタジオへ入ってデモを作るところから始まって、その段階では、ループを基盤に曲を組み立てていました。ギターやピアノでループを作って、その上にいろんな要素を重ねていったのだけど、初期のデモ段階では、どちらかというと電子ドラムとかエレクトロニックな音作りに傾いてた感じで。それをファビアンのところに持っていって、そこから2人で全体のフィーリングを確認しながらプロデュースしていき、最終的にはほとんど1からやり直すことにしたんです。歌詞とコアな部分のメロディだけ取り出して、あとは全部アレンジし直して。だからプロダクションに関しては、ある意味2段階あったとも言えますね。そこからエレクトロニックな要素とアコースティックな要素を融合させて出来上がったのが今回のアルバムという感じ。ドーターとの違いについて言うと、Ex:Reの曲は歌詞が根幹にあって……つまり歌詞がストーリーの中核を成しているので、物語が語られている背景やその時の情景を、音やプロダクションを使って再現していく作業だった。ドーターの場合はそこまでストーリー重視じゃないというか、ひとつの物語を最初から最後まで追いかけることにそこまで重きを置いてないので、ギターで作り始めてそこから積み重ねていったりもするし。あと、Ex:Reのレコードは生演奏をより重視していて、だからファビアンのドラムも全て生だし、3人でいっせいにライヴ録音した部分もかなりある。一方でドーターの場合は、トラックを何層にも重ねていく音作りでやっていましたね」

---そうやって完成したEx:Reの作品をライヴで再現するにあたっては、どんなことを意識したり工夫したりしたのでしょうか。

「最初に話した通り、レコーディングの時と同じメンバーで臨むことが、何よりも大事だった。あと、バッキング・トラックはなるべく使わずに、できるだけ生でレコードに近い音を再現したいと思っていたのだけど、4人じゃ再現し切れない要素がかなりあるのも事実で、だからループやエレクトロニックな機材の助けを借りながら、それでも可能な限り4人の生演奏で臨場感を出すようにしました。ライヴ演奏が生み出す"遊び"の部分を大事にしたいという気持ちもあったから、クリック・ガイドも使わなかったし。ドーターとの違いでいうと――退屈な話ばかりして申し訳ないんだけど(苦笑)」

---いやいや、面白いですよ。

「ドーターのライヴではイヤーモニターをつけていて、それってドーターみたいなバンドのライヴ・セッティングではとても役に立つんだけど、Ex:Reでは普通のモニターしか使ってないんです。そのおかげでみんなが、ひとつの部屋にいる感じが増すというか。イヤーモニターを使うと距離感を感じてしまうことがあるので。だから、それもすごく重要だった。ちょっとテクニカルな話になり過ぎちゃったかしら(苦笑)」

---そんなことはないですよ。じゃあ、機械で鳴らしている同期のバック・トラックに関しても手前のモニターから返ってくる音だけで合わせてる、という感じなんですね。

「ええ。だから、ステージという空間で互いの音をしっかり聞く必要があって、そのおかげで各自の演奏をより意識するようになる。逆にイヤーモニターをつけると、ヘッドフォンをつけた時と同じで、周囲の人たちから完全に切り離された感覚に陥ってしまうんです」

---わかりました。あと、昨夜のライヴでは、メンバー全員が楽器の持ち替えを、けっこう頻繁にやっていましたね。

「曲によって、メインで使いたい楽器が違ったからなんだけど、中には私が楽器を一切持たない曲もあったりして、それはそれですごく不思議な気分だった。ドーターでは必ず何かしら弾いてるから」

---なるほど。

「でも昨日は何も楽器を持たない場面も2曲ほどあって、すごく手持ち無沙汰な気がした(笑)。ただ、楽器の持ち替えはいつやっても面白いし、実際ジョセフィンとジェスロも、セットの最中にしょっちゅう楽器を交換していて――ある曲ではジェスロがキーボードを弾いて、別の曲ではジョセフィンが鍵盤を担当して……って。そうやって常に動きを持たせるのはいいことだと思う。同じ楽器でも人によって弾き方が全然違ってくるから」

---ライヴ・バンドとしても大きなポテンシャルを感じたので、昨日1回限りでもう2度と見られないというのは本当に惜しい気がしています。もう1度くらいEx:Reとして再来日してライヴをやる機会を持ってもらえないものでしょうか。

「あははは! そうですね、昨日はオーディエンスも本当に素晴らしかったから、私ももう1度やりたいのはやまやまだし、実際、これで完全に終わりっていうわけでもないと思ってる。だからそう、是非また戻ってきたいですね(笑)。ただし、演奏するのは同じレコードの曲で! また破局を経験して新しいレコードを作る心の準備はできてないから(笑)」

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