サイモン・ハリデイ(4AD 社長)インタビュー

2019年1月に東名阪で開催された「4ADショウケース・イベント」では、ディアハンター/ギャング・ギャング・ダンス/エクス:レイの3組がそれぞれ素晴らしいステージを見せ、4ADという由緒あるレーベルが現在も活気を保ち続けていることを示していた。このイベントで転換時のDJも務めていたのが、4ADの現社長であるサイモン・ハリデイで、設立者のアイヴォ・ワッツ・ラッセルが運営から去った後、レーベルを再建した手腕は業界内でも高く評価されている。
先述したショウケースイベントの東京公演が行なわれた日にもインタビューしたのだが(そちらは『CDジャーナル』4月号に掲載)、実はここに載せたのは、2011年初頭に行なったインタビューだ。しかし、読み返してみたら、それほど古くなっておらず(※実際、2019年のインタビューでも「音楽業界を取り巻く環境が激変しようとも、いまだに従来のプロモーション手法は有効で、何より音楽に対する誠実さが最も重要」という考え方は不変だった)、彼がどういう人間かということがよくわかる内容だと思ったので、アップしてみることにしました。

翻訳:片岡さと美


いい音楽は巷に山ほどあるけど、その中から自分にとって本当に意味のあるものを見つけるのは、並大抵のことじゃない。

---マンチェスター出身だそうですが、若い頃はどんな音楽経験をして、何をきっかけにこの業界に関わるようになったんですか?

「最初は80年代初頭に、エコー&ザ・バニーメン、ニュー・オーダー、ジョイ・ディヴィジョンといった類の音楽を聴き始めたんだけれども、その後すぐにヒップホップやアメリカン・ソウル、さらにはエレクトロニック・ミュージックが好きになって、その流れでハウス・ミュージックにも興味を持つようになった。つまり、僕にとっての人格形成期だった80年代の初頭にまずギター・バンド、続いて半ばからブラック・ミュージックに夢中になり、そして90年代にはまたギター・バンドに戻ったという感じ。この業界で働くようになったきっかけは、当初マンチェスターでクラブのプロモーターの仕事をやっていて、それがすごく性に合ってね。普通の仕事をやるよりずっといいと思ったんだ。仕事なのに仕事をやってる感じがしないのが気に入ったんだよ。実際、未だに仕事って感じがしないし(笑)。それに80年代のマンチェスターは音楽的にものすごく充実していて、リバプールからもティアドロップ・エクスプローズをはじめ、素晴らしいバンドがどんどん出てきてシーン全体が活気に満ちた時代だった。現在のマンチェスターのシーンは今ひとつだけど、当時は本当にすごかったんだよ」

---80年代のマンチェスターというと、映画『24アワー・ピープル』に描かれていたような世界を、まさにあなた自身が体験したということになりますか?

「ああ、その通り。あの映画は当時の様子をかなり正確に描いていたね。日本でもあの映画は有名なのかな?」

---ちゃんと公開されましたよ。80年代半ばに黒人音楽へ興味が移ったというのは、何かきっかけがあってのことだったのでしょうか。

「ダンスだよ。もともとクラブに踊りに行くのが好きだったんだけど、踊ってていちばん楽しくて、いちばん魅力を感じたのが、アメリカのヒップホップやソウル・ミュージックだった。ああいうビート、リズムがとにかく気に入ってね――口ではうまく説明できないけど、とにかく自分にとって重要な意味のある音楽だったというか、あの手の音楽を聴くと必ず体を動かしたくなったんだ。両親がモータウンやフィラデルフィア・インターナショナルといった、60~70年代のブラック・ミュージックを好きでよく聴いていたことも、もしかしたら関係しているのかもしれない。そのせいで無意識のうちにダンス好きになって、よりファンキーでソウルフルな音楽が好きになったんじゃないかな」

---ニュー・オーダーのようなバンドが、初期の内省的な音から、どんどんダンス・ビートやハウスの要素を取り入れていく様子を、間近で体験できたのはとても刺激的だったのではないですか?

「確かに、僕自身ニュー・オーダーと同じような道を辿ってきたと言える。ニュー・オーダーというかジョイ・ディヴィジョンは当初はロック・バンドだったけど、彼らにとって最も重要なバンドのひとつになったクラフトワークとの出会いをきっかけに、自らもダンス・ミュージックに興味を持つようになった。だからそう、確かにニュー・オーダーは最初ほぼロック・バンドとしてスタートしたわけだけど、その後はビートに重きを置くようになって、80年代を通してどんどんダンサブルなバンドに変貌していったんだ――"ファイン・タイム"をはじめとした『テクニーク』に収められているような曲を作るまでにね。あのアルバムは、彼らのダンス移行期の頂点を象徴する作品だと思う」

---確かに。そして、クラブ・プロモーターの次は、しばらくワープ・レコーズで仕事をされていたそうですね。

「そう、10年ほどね」

---その後、4ADに移ったのはどういった経緯で?

「最初はワープを辞めてマネージャーの仕事をしようと思ってた。ワープでやれることはやり尽くした、と感じてたからだよ。誇りに思える実績も残せたし、今が辞め時だとね。そしたらちょうどその頃、4ADを変革したいと考えていた親会社であるベガーズ・グループのオーナーが、『レーベルを復活させられるヴィジョンを持った人間に経営を任せたい』と、僕に声をかけてくれたんだ。その数年前から4ADは、活気もなくなって下り坂の状況にあった――今から5~10年くらい前の話さ――ありがたいことに、そんなレーベルを前向きで活気のあるレーベルに戻せるのはこの僕だと、彼らは考えてくれたんだ」

---ワープでの10年はどんな時代でしたか?

「ファンタスティックな10年だったよ。あの頃ワープもちょうど、4ADと同じような過渡期を迎えてた――エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーやオウテカのレーベルというイメージから、プレフューズ73のようなアクトに重きを置いたレーベルへとシフトしつつあったんだ。で、そういう中でワープの一員になった僕は、ワープUSAの経営を任されて、アメリカに引っ越して数多くのUSバンドと契約を始めた――バトルスとかグリズリー・ベアとかフライング・ロータスとね。グレイトな10年だったよ。ここ10~15年のアメリカは、世界でも屈指の音楽を生み出し続けてきたと思うし、だからあの時期にアメリカで暮らせて本当によかったと思ってる。おかげでたくさんのグレイトなアクトと出会い、世界規模の契約ができた。それにワープ自体、素晴らしいエレクトロニック系のレーベルとして高く評価されていたし、今でもグレイトなバンドを輩出しているし……だからそう、素晴らしい10年だったよ」

---個人的に、90年代のイギリスのミュージック・シーンは、とても活気づいていたけれども、その後10年間はあまり勢いがなくて、アメリカの方がインディでいいバンドがたくさん出てきたと感じています。あなた自身、そういった動きにうまくシンクロしてキャリアを築いてこられたような気がするんですが、どうでしょうか?

「ああ、確かにラッキーだったね。幸運だったのは間違いないよ。もちろん、運は生かさないと意味がないわけだけど、ちょうどいいタイミングでしかるべき場所に居合わせたのは確かさ(笑)」

---運命的なだけじゃなくて、自分の意思で面白いものを探し続けた結果、アメリカに行くことになったとも言えますか。

「ああ、それは確かにそうだね。常に探し続けてきたと言っていいと思う。今はイギリスに戻ってロンドンで暮らしてるけど、引き続きニューヨークとロサンゼルスに大きなオフィスを構えてるし、僕自身4週間ごとにアメリカに通ってるんだ。おかげでワイフはおかんむりだけど(笑)、ディアハンターやアリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティ、ザ・ナショナルといったバンドと契約したことからもわかるように、アメリカはレーベルにとって今も重要な場所だし、あとはイギリスのバンドがもっと出てきてくれたら最高なんだけど、まだその段階ではないという感じだね。実際今のイギリスのシーンは、ジョイ・オービソン、ゾンビ、The XXといった、ダンスよりのアーティストの方が頑張ってるんじゃないかな」

---いわゆるロック・バンドがイギリスで元気がなくなってしまったのは、ここ数年CDが売れなくなって大きなムーヴメントが起こりにくくなり、新しいバンドが出てきてもなかなか長続きしないといった、音楽業界の状況も影響していると思いますか?

「僕は、イギリスのマスコミの影響が大きいと思うよ。連中は新人バンドに飛びつくのもアッという間だし、忘れるのもアッという間なんだ。ラジオ1にしても、メインストリームの音専誌にしても、新しいバンドが出てくると即座に飛びついて持てはやすから、バンドが自然に成長していく余地というのがまったくないわけ。一方のアメリカのメディアはもっと反応がゆっくりだから、バンドのほうも有名になったりする前にちゃんと地道にツアーして、演奏を上達させながら成長していくことができるし、名声云々に関係なくバンドをやっていること自体を誇りに思えるようになる。だからたとえCDが売れなくても、ツアーだけで食べていくこともできるんだ。そうやって自然なペースで状況が進展していってくれるおかげで、バンドもより自然に成長していける。ところがイギリスじゃ、バンドを巡る状況の展開があまりにも急で、音楽的に成長することも許されないし、実際ファースト・アルバムの時点でヒットしないと、メディアにもすぐ忘れ去られてしまうんだよね。僕はそれが理由だと思う」

---なるほど。ただ、インターネットが発達したことによって、NMEが毎週のように「最高の新人」を紹介し続けていたかつての状況に比べると、メディアのあり方というのも変わってきたのではないか、という気もするのですが。

「確かにインターネットの情報伝達能力はすごいものがある。アメリカのピッチフォークに載った情報が、あっという間に世界中を駆け巡るわけだから。でもインターネットではそこまでが限界で、そこから先は、やはりフィジカルな紙媒体やラジオやテレビによる、通常のオールド・ファッションなプロモーションが必要になってくるんだ。バンドを本格的に浸透させていくには、インターネット上の口コミだけに頼るわけにはいかない。やはり通常のメディアの助けが必要になる。確かにインターネットは、スタートの段階で情報をあっと言う間に広めてくれるという利点はあるけれど、バンドをしっかり軌道に乗せるには、より伝達ペースがスローなメディアの力というのも必要になってくるんだよ」

---新しいメディアが登場し、古いメディアや古い大型レーベルが変質を余儀なくされている現状において、4ADのようなスタンスのレーベルは、どういう役割を音楽シーンに対して果たしていくべきだと考えていますか?

「常套句に聞こえるかもしれないけど、とにかく常にいいアルバムを出し続けること、これに尽きると思う。そうすることでレーベルの評判も保証され、今まで通りのやり方でやっていけるんだ。確かにシーンの状況は変わりつつあるし、メジャー・レーベルの多くが赤字を抱えて変化を迫られているのも事実だけれど、現時点では4ADのビジネス・モデルはうまくいってるし、レコードも売れているし利益も上げている。つまり肝心の音楽のクオリティさえしっかりしていれば、現状でも問題なくやっていけるはずなんだ。それに、レコードの売り上げやコンサート収益が落ちたとしても、その場合はイギリスの諺にもあるように《持っている布地に合わせてコートを作る》、つまりできる範囲内で相応の投資をするしかない。レコードの売り上げがこれだけだったから、宣伝費はこのくらいに抑えよう、といった具合にね。実際4ADには優れたビジネス・モデルがあるので、ほとんど心配はしてないんだ。確かにメジャー・レーベルは、どこも企業収益の心配をしてる――株主全員に配当金を払うために、常に巨額の利益を上げる必要があるからさ。でも4ADは資本的に独立してるから、そっち方面のプレッシャーがない。ここ数年、売り上げも上昇し続けているしね。だからやっぱり、要は音楽のクオリティの問題で、いい音楽へのニーズがあることを認識し、それを提供することができれば、世界中でレコードを買ってくれる人が10万人〜20万人と出てくるんだ。そうすれば僕たちも利益を得られるし、アーティストも利益を得られるし、それを元手にアーティストは世界中をツアーして回ったりもできるし、CMや映画で曲を使ってもらうこともできるし、全員に給料を払うこともできると……現時点ではね。5年後にどうなっているかはわからないけど(笑)、4ADとしては今のところ大丈夫」

---話は変わりますが、ピクシーズやデッド・カン・ダンスの作品がSACDでリイシューされましたよね。しかもピクシーズは、おそらくニール・ヤングより早くブルーレイ・オーディオのボックス・セットを発表しました。たぶん4ADの中にものすごく音質にこだわりを持った人がいると思うのですが。

「ああ、確かに。でも僕は違うよ」

---(笑)。

「音質に対して信仰に近いこだわりを見せる人間がいるのは事実だけど、ほとんどのリスナーは車の中や自宅や職場で音楽を聴くわけで、大半はそこまで音質にこだわってないんだ。中にはこだわってる人もいるし、そういう人間が社内にいるのはいいことだとは思うけど、僕自身は大多数の人と同じで、ほとんど気にしてないよ。感動させてくれる音楽である限り、世界最高のハイファイ・サウンドでなくても構わないと思ってる。中にはブルーレイが好きという連中がいるのは事実だし、僕もいつか転向するかもしれないけど、現時点では音質にはあまり興味がないんだ」

---ブルーレイはまだまだ制作コストもかかるようですし、じゃあ現場のスタッフから「ブルー・レイでやりたい」という声が上がってきたときには、あなたとしては「しょうがないなあ」といった感じで許可を出しているんでしょうか。

「スタッフじゃなくてアーティストが言ってくるんだ。話は逸れるけど、こないだオフィスでビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』をひとりで聴いていて、実はあの傑作アルバムも、プロダクションやサウンドのクオリティはそれほど高くないってことに気づいたよ。最新のサウンド・プロダクションを誇るヒップホップのレコードを聴いた後だったから、ビートルズを聴き直して《へえ、思ってたほどハイファイじゃないんだな》ってビックリしてね。それでも素晴らしい作品には変わりないわけで、サウンドのクオリティは二の次だということがよくわかった。というわけで、ブルーレイはアーティスト側の要望なんだ」

---わかりました。さて、今の所属アーティストを見ても、そうそうたるランナップだと思うんですが、どういうふうに見つけてきて、契約へと漕ぎ着けているのでしょう?

「口では説明できない魔法のような何かが起きるんだ。それ自体がエモーションを持っていて、なおかつ、こちら側にも何かを感じさせてくれて……そう、ちょうど恋に落ちたときみたいにパッとひらめくというか、ごく自然にピンとくるものを感じる瞬間っていうのがあるんだよ。いい音楽は巷に山ほどあるけど、その中から自分にとって本当に意味のあるものを見つけるのは、並大抵のことじゃない。自分と気持ちの上で通じ合えるものを持った音楽じゃなきゃダメだし、それって言葉では説明できないものだしね。誰かを"好きになる"のと"愛する"のとでは全く別ものだ、というのにも似てるかな。うまく説明できないけど、でも実際そういうバンドに出会えたときは、その瞬間に《おっ、これは凄いな》とわかるものなんだ。そして聴きながら悲しい気分になったりハッピーな気分になったり、その両方の気分になったり、あるいは恋をしたい気分になったり、一緒に歌いたい気分になったり……とにかく感情の部分で何かしらの影響を受けることになる。しかも、今の僕の音楽センスはどうやらかなりいい線をいってるようだから、僕が何かしら影響を受けて気に入ったということは、恐らく世界中の他の多くの人たちも気に入ることになるみたいで(笑)。つまり今の僕は、自分の好みが世界中の人たちの好みとマッチしているという、とてもラッキーな状況にいるわけ」

---じゃあ最後に、現在のところ4AD以外のアーティストで、フリーだったら契約したいと思うアーティストはいますか?

「グリズリー・ベアだね。あとは……カニエ・ウェストかな(笑)」


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鈴木喜之

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