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Manuel Gagneux (ZEAL & ARDOR)インタビュー

ブラック・メタル × ブラック・ミュージック+α=Zeal & Ardor。そのセカンド・アルバム『Stranger Fruits』は、2018年に出たレコードの中でも、最も刺激的な作品のひとつだったと言い切れる。デビュー・アルバム『Devil is Fine』も十分に面白かったが、まだ巨大掲示板での思いつき一発ネタの域で終わるかどうか見極めがつきかねる感じも残していた。しかし、その後ツアーを重ね、ライヴでの経験を積むうちに、このプロジェクトの張本人であるManuel Gagneuxの才能は本格的に覚醒したのだろう。さらには、北欧の悪魔主義者たちが標榜したペイガニズムと、かつてアメリカで黒人奴隷が音楽に託した精神性は、まったく異質なもののようでいながら、どこか共通する部分があったーーそのポイントを真面目に掘り下げ、自身の表現に確信を持ったことも大きいと思う。
4月の時点で、すでにプロフェッツ・オブ・レイジのサポート・アクトに起用していたトム・モレロも、彼らのことを大絶賛していた。日本のメディアでは今のところほとんどフォローされていないが、口コミだけで確実に浸透している手応えを感じる。まだまだ刺激的なロックを求めているという人は、ぜひチェックしてみてください。


ニューヨークで何かやったとしても、それがすでに存在しているものだったら、間違いなく自分より上手くやってる人がいる。だからこそ、人とは違ったやり方を考えようとするんだ。

---あなたはスイス生まれで、お父さんは生物学者、お母さんがアメリカ人ジャズ・シンガーだったそうですが、どういう音楽環境で育ったのでしょう?

「ラッキーなことに、僕らが暮らしていたアパートメントにはいつもピアノがあったんだ。僕らは自分なりのやり方で自由に音楽を探求できた。スズキ・メソッドのバイオリン教室も似たような感じだね。遊び心に満ちた取り組み方なら、好奇心の副産物として上達することができる。両親は僕にサックスのレッスンを受けさせたけど、それは楽しめなかった。人が選んだ楽器だったからだろうな。だから僕はギターを弾き、自分で歌うようになったんだ」

---自分自身で音楽をやりはじめたのは、どのようなことがきっかけで?

「前述したような理由から楽しむことはできなかったわけだけど、最初に手にしたのはアルト・サックスだった。単音楽器の制限があることを、早い時期に感じたっていうのも大きいかもしれない」


---当時は、どのような音楽を特に愛好していたのでしょう? 人生で最も大きな影響を受けたアーティストや作品をあげるとしたら誰になるでしょうか?

「荒々しくて奇妙な音楽に強く興味を惹かれてたよ。初めて買ったCDはオフスプリングの『アメリカーナ』だった。その後、アイアン・メイデン、Mr. バングル、フランク・ザッパ、メルツバウが好きになり、さらにエイフェックス・ツインやブラック・サン・エンパイアといったエレクトロニック・アーティストをたくさん、そしてブライアン・イーノなんかもよく聴くようになったね」

---バーズムやダークスローンといったブラック・メタルのバンドを聴くようになったきっかけは? そういうタイプのバンドに在籍していたこともあるそうですが、どういう感じでやっていたのでしょうか。

「友だちがブラック・メタルのアーティストたちを教えてくれたんだ。あっという間に夢中になったよ。楽しい経験だった。僕らは15歳で、やたらとふてぶてしかった。コープスペイントはやったことなかったな。僕の肌の色ではかなり陽気な感じになっただろうって気がするよ」

---よく訊かれることだと思いますが、Zeal & Ardorとして、ブラック・メタルと古いブルーズやゴスペルのような音楽を融合させるアイディアを、一体どのようにして思いつき、形にしていったのでしょう。

「それは、ふたばちゃんねる以降に作られたウェブサイト=4chanで始まったんだ。ヒマだったから、そこで、何か音楽のジャンルをあげてみてくれないかと持ちかけてみたんだよ。そこから2つ選んで、20分くらいで曲をひとつ作るから、ってさ。するとある日《ブラック・メタル》と《ブラック・ミュージック》があがったんだ。面白いアイデアだと思ったよ。それで、そのスタイルで曲を書き続けたってわけ」

---Zeal & Ardorの特異な音楽は、どのようにして作り上げられていくのでしょう。あなた一人きりで、コンピューターでリズムを打ち込み、そこにメタル・ギターや、奴隷のチャントなどを重ねていくような感じですか?

「そう、曲は一人で作っている。全ての要素を自分自身で作り上げ、それを洗練させたり対比させたりしながら組み合わせていくんだ。そうして出来たピースを、他のピースとつなぎ合わせて楽曲を完成させる」


---あなたがBirdmaskという名義で発表した音源を聴いて、ブラックメタルの要素がまったく無いことに驚きました。あなた自身の本来の音楽性はこちらであって、Zeal & Ardorは、Alan Lomaxのフィールド・レコーディングを研究したりしながら作業を進めるような、コンセプト先行のプロジェクトということなのでしょうか?

「そう、その通り! Birdmaskもまだ稼働してるけど、ときどき飽きちゃうんだよ。今はZeal & Ardorもあってやりたいことを選べるし、おかげで退屈しない。いろんなプロジェクトを手がけているからね」

---Zeal & Ardorの音楽を作り始めて、最も刺激的だった経験はなんですか?

「3回目のコンサートを行なったのが、Roadburnというフェスだったんだけど、すごくワクワクしたよ。とてもキュレーションの良いフェスティバルで、そこでプレイできるのは非常に名誉なことだったからね。ただ、演奏を始めた時にサウンドシステムがストップしてしまって、僕らはパニック寸前に陥った。すると突然、観客が声を合わせて僕らの歌を歌ってくれたんだ。潜在的な悪夢が最も大切な瞬間に変貌を遂げた瞬間だったよ。信じられない出来事だった」

---ブラック・メタルの底流にある反キリスト/ペイガニズムに基づいた悪魔信仰と、アメリカの黒人奴隷たちによるゴスペルやブルーズには、完全に異質なものでありながら、どこか共通性があるようにも思えます。あなた自身の見解はどのようなものでしょうか?

「僕もそう思う。どちらもある意味、反逆を表現している音楽だ。それに、感情的な比重が大きく、あからさまではないが悪魔に言及しているしね」

---歌詞を書くときには、そうした「抑圧されてきた境遇に置かれた者」の精神性を、どのくらい意識しますか?

「そのことについては、たくさん本を読んだよ。でも、僕がそのスピリットを感じる、なんて言ったら嘘になるだろう。スイスで育って、そういったことからは遠く離れていたからね。けれども、敬意を持ってそのようなテーマを扱うことは、僕にとって大切なことなんだ」

---現在はニューヨークに住んでいるそうですが、アメリカの大都市での生活は、あなたの音楽表現になんらかの影響を及ぼしたと感じていますか?

「大都市で暮らしていると、オリジナリティの必要性に迫られるんだ。ニューヨークで何かやったとしても、それがすでに存在しているものだったら、間違いなく自分より上手くやってる人がいる。だからこそ、人とは違ったやり方を考えようとするんだ。それはいいことだよね」

---セカンド・アルバム『Stranger Fruits』は、当初のコンセプトがいっそう深められながら、さらに大きなスケールで展開していて素晴らしかったです。ただの思いつきで行なわれた色物ではないことを証明しましたね。収録時間も大幅に増えましたが、2枚目を制作するにあたって、どんなアルバムを作ろうと考えていましたか?

「狙っていたのは、アルバム全体とシングル曲の両方で機能する作品を作ることだった。ファースト・レコードは、その当時手元にあった曲を寄せ集めただけだったけど、今回はテーマや雰囲気に沿ったものを組み合わせたいと思ったんだ。あわせて、今の時代を反映させた何かを取り入れたいともね。でも、あからさまなやり方ではないから、気づきたい人が気づいてくれればいい」

---"Don't You Dare"のように、以前からライヴで演奏されていたような曲も収録されていますが、セカンド・アルバムの収録曲は、以前から書き溜めてあったものも多いのでしょうか。最近になって新たに書いたナンバーと比べて、書き方が変わってきたようなところがありますか?

「ライティングのプロセスは変化していないし、それは僕にとって大事なことだ。好きな音楽を作っている限り、そこには誠実さがあると思う。だから人々の期待についてはあまり考えないことにしたんだ。『Stranger Fruit』には以前書いた曲もいくつかあるから、ライヴで演奏できる曲は十分あった。でもセカンド・レコードのことも念頭においていたよ」

---今年の4月、来日公演を行なったプロフェッツ・オブ・レイジのトム・モレロにインタビューしたのですが、すでにサポート・アクトに起用した、あなたたちのことを大絶賛していました。彼らとのツアーはどのような経験だったか、感想を聞かせてください。

「トムは本当に親切な人だ。サポート・アクトを務めたのはとても名誉なことだったし、僕らにとって素晴らしい経験になったよ。彼らのパフォーマンスを見られただけでもご褒美だったね」

---WEBで動画などを見ると、あなたのバックに、ベースとドラム、ギターに加え、男性バック・ヴォーカルが2人という編成でライヴを行なっていますね。一人で作り上げたZeal & Ardorの音楽をライヴで再現するにあたって、どのようなことに気をつけましたか?

「一緒にステージに立っているメンバーは全員が友人だ。だから楽曲をライヴ・パフォーマンスに返還するのは簡単だったよ。みんなすぐにこの音楽のことを理解して、それぞれが持っているスキルやエネルギーを注入してくれた。僕が一人でやるよりも良いものにしてくれたよ」

---新作『Stranger Fruits』では、そうしたバンド演奏によるライヴ経験が、より反映されていると思いますか?

「今思うと、このメンバーで演奏できる曲を書いたんだろうって気がする。無意識だったけどね」

---新作リリース後は、またツアーを展開する予定だと思いますが、どのようなステージにしようと考えていますか?

「今年はこれからずっとツアーだ。大変だろうけど楽しみだね。みんなとても気合が入っているよ」

---さらに長いスパンで将来を展望したとき、どのような音楽活動を続けていきたいですか? Birdmaskとしての活動は、今後も並行して続けていくのでしょうか。

「Birdmaskは今後もずっと続けていくつもりだ。ふたつのプロジェクトのコントラストが互いに良い効果をもたらしている。将来的にはどうなるかわからないけど、一歩ずつ進んでいきたい」

---あなたとは違う形で、ブラック・メタルを進化させている、ブラックゲイズとか、ブラックンロールなどと呼ばれるようなバンドについて、どう評価していますか? デフヘヴン、クヴァラータク、オランシ・パズズーなどの作品を、もし聴いていたら感想を教えてください。

「クヴァラータク、オランシ・パズズー、ゴースト・バスは、すごく好きだ。僕はエスタブリッシュされたサウンドをさらに押し広げていくことが大事だと思っているし、これらのバンドはそういうことを実践しているよね」

---日本でも、Zeal & Ardorのライヴが観られることになるのを楽しみにしています。日本という国について思うことがあれば、何か一言お願いします。

「日本でプレイしたいよ! 日本は世界全体にも、僕の人生にも多大な文化的影響を与えている国だ。なにがなんでも演奏しに行く機会を逃したくはないね」


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