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さようなら、税理士試験

税理士試験、好きですか? いい思い出はありますか?
長い期間をかけて税理士試験に取り組んできましたが、この度撤退することにしました。
これまでの経緯について、自分の備忘あるいは同じような立場の方に少しでも参考になればと思い、整理してみようと思います。


初めまして、税理士試験

税理士になりたい

2014年03月(僕が25歳のとき)。5年間務めた上場企業を辞め、税理士になるための取り組みを始めました。
この少し前に簿記の勉強を始め、2014年02月に日商簿記2級に合格しています。
仕事を辞めた理由は、このまま続けていても局所的なスキルしか身につかず、将来的につぶしがきかない人間となってしまい、生きるための金を稼げなくなるのではないかという恐れでした。
税理士を目指すことにした理由は、金持ちになりたかったからです。当時無知だった僕は、税理士=金持ちという単純な思い込みでこの道を歩み始めたのです。
過去の経験から、ある程度のことであれば「努力すれば乗り越えられる」と感じていた僕は、安易にこの選択をしてしまいます。
全く後悔はしていませんが、かといって今の自分ではできない選択だと思います。

マイナスからのスタート

税理士試験に限らず多くの国家資格は、受験資格というものがあります。
概ね大学卒業程度以上の学歴が必要です。
税理士試験もその例にもれず、学歴が必要でした。高等専門学校卒の僕は要件を満たすことができず、別の要件である「日商簿記1級」を目指すことになります。
しかしながら、独学で臨んでいた僕はなかなか合格できずに苦しむことになります。2級の試験は年3回あるものの、1級の試験は年に2回しかありません。苦しんだ僕はもうひとつの選択肢である「全経簿記上級」も並行して準備することにしました。
いずれの試験も内容や範囲が重複しているので負担はそれほど増えませんでしたが、やはりスタート地点にも立てていないという焦りは相当きついものでした。
2015年08月に全経簿記上級に合格したものの、その時点で税理士試験を受けられるのは来年から、という状況になってしまいました。

相性が悪かった

今思えば、当時の僕の性格と税理士試験は相性が悪かったのだと思います。というのも、僕はいわゆる「完璧主義者」で、細かい部分が気になることでなかなか勉強を進められなかったり、当初考えていたスケジュールで合格できないことに異常なストレスを感じたりと、とにかく余裕というか余白がない人間だったからです。
今でこそ「人生なんてどうでもいい、どうせ死ぬまでの暇つぶし~」くらいに考えていますが、当時は「僕が生まれた理由はなんだ? この人生でなにを成し遂げるのか?」みたいな温度感で本気で悩んでいましたから。
こういうメンタルの弱さや余裕のなさと、私生活での金銭的余裕のなさ、仕事面での時間的余裕のなさが重なって、とにかく僕という人間は税理士試験に蝕まれていきます。

ありがとう、税理士試験

生活がくるしい

税理士業界は、低賃金かつ長時間労働です。今でこそありがたいことに貯金できるほどのお給料を頂ける職場にいますが、当初この業界に入ったときは基本給13.4万という信じられない金額でした。
これに加え年末調整や確定申告の時期は終電は当たり前、ひどいときは徹夜してでも終わらない場合もあり、働く環境としては劣悪です。
最近は労働者優位の社会になってきましたから、ある程度は改善されているとは思うものの、税理士平均年齢60歳超の業界ですから、多くの事務所がすぐには変われないことも事実だと思います。
これから転職して税理士に、と考えている方は、是非この部分についてよく考えて頂き、そしてそれでも転職を選ぶ場合には、事務所選びを慎重に行ってほしいと思います。
そんな苦しい状況の中でなんとか勉強を続け、2018年08月にひとつめの合格として財務諸表論に合格することができました。
この時点で、税理士を目指し始めてから既に4年が経過していました。
(受験履歴)
2016年:簿記論、財務諸表論受験。合格なし。
2017年:簿記論、財務諸表論受験。合格なし。
2018年:簿記論、財務諸表論受験。財務諸表論合格。

時間がない

今の職場は、税理士業務だけでなく他の事業も行っています。僕も、税理士補助ともうひとつの事業の両方に従事しているので、同年代と比べても平均程度のお給料を頂けています。
そのような状況でしたので金銭的な面での苦しさは減っていったのですが、とにかく仕事が忙しく勉強時間を確保するのが難しいという悩みがありました。仕事が終わってから専門学校へ通ったり、朝3時に起きて出勤までは勉強するなど、かなり極端な生活を送っていたため、妻に迷惑をかけてしまうことが多くなってしまいました。
この点についても、これから税理士を目指す方には注意して頂きたい点です。生活するためにはお金が必要で、お給料がいくらなのかというのはとても大切なことです。しかし、勉強時間を確保するという意味において、残業がないことが最低ラインになると思います。このバランスが取れている(平均賃金+残業なし)税理士事務所はほとんどないのではないかと思えるほど劣悪な業界ですので、実務経験を積むため税理士事務所に入社するというのは、試験に合格した後でもいいかと思います。
苦しい中でもなんとか時間をひねり出し勉強を続け、2020年08月に2つめの合格として簿記論に合格することができました。
この時点で、税理士を目指し始めてから既に6年が経過していました。
(受験履歴)
2019年:簿記論受験。合格なし。
2020年:簿記論、法人税法受験。簿記論合格。

焦り

始めに書いたように、僕は完璧主義者というやっかいな性格を抱えていましたので、とにかくずっと焦っていました。
早い人では2年で官報合格まで到達しているのに、その足元にも及んでいない自分の不甲斐なさ。
日々の仕事に追われ、勉強時間を確保できずになかなか合格レベルに達することができない自分のダメさ。
時間が経てば経つほど、他の税理士受験生に比べて劣っている自分の立場が浮き彫りになり、精神的にどんどん追い詰められていきました。
冗談ではなく、毎日「死にたい」と考えていました。明日目が覚めなければどんなに楽だろうか、と。そんなに辛ければ、勉強をやめるなり、転職するなりすればいいと今は思うのですが、当時の自分にはそんな余裕もなく、朝3時に起きて始業まで勉強するという無茶な生活を続けていました。
這うように勉強習慣を維持してきた僕は、2021年08月に3つめの合格として法人税法に合格することができました。
この時点で、税理士を目指し始めてから既に7年が経過していました。
(受験履歴)
2021年:法人税法受験。法人税法合格。

さようなら、税理士試験

とにかく相性が悪かった

3科目合格した時点で、大学院進学という選択肢が見えてきます。
税理士試験は科目合格制であり、5科目合格(=官報合格)することで税理士になることができます。一方で、既定の年数国税庁で勤務することや、弁護士の方などが登録することで税理士になることもできます。
そして、近年この選択肢をとる人が増えてきていますが、大学院で論文を書き、それを国税庁に認めてもらい2科目免除してもらうことができるのです。この方法をとるなら、5科目合格せずとも3科目+大学院進学で税理士になることができます。
大学院進学はほぼ確実に2科目ゲットできるというメリットがある一方、デメリットもあります。それは学費がかかるということと、試験と同様に勉強時間の確保が必須であるということです。
僕はこの、学費がかかるという部分がどうしても容認できず、官報合格にこだわっていました。また、始めに書いたように高等専門学校卒である(=大学卒ではない)ため、大学院進学にはハードルがあると考えていたのです。
そうして時間だけが過ぎ、繁忙期が終わった2023年06月ごろのことでした。
これまで張りつめていた糸が、ぷっつりと切れてしまったのです。
(受験履歴)
2022年:消費税法、国税徴収法受験。合格なし。
2023年:消費税法、国税徴収法受験。合格なし。

自分にとっての幸せ

税理士を目指し始めてから既に9年が経過していました。
仕事と勉強のバランスが取れず、他の税理士試験受験生から置いていかれる焦りだけが大きくなっていく日々の中で、あるとき思ったのです。
自分にとっての幸せはなにか? と。
仕事に追われ、先の見えない勉強の日々に身を置き、やりたいことも我慢して、しかし結果が出せず悶々とする毎日が……毎朝死にたいと思いながら目覚め、明日は目が覚めませんようにと祈りながら眠りにつく毎日が、自分にとっての幸せなのか?
自分から自分への問いかけに、僕は答えることができませんでした。
そして決めました。
自分にとって楽しい選択肢を選ぼうと。
年に1回しか実施されず、しかも受験したところで合格するかどうかわからない、そんな税理士試験に人生をかけるのはやめることにしました。
2023年07月から大学院入試の準備を始め、2023年11月には合格して大学院入学を決めました。そこから先は手続きを踏んでいけば税理士になれます。
また、合格するまではやらない、と我慢していたゲームを始めました。少しだけお金をかけてPCのスペックを上げ、毎日楽しくプレイしています。
毎週金曜日にはできるだけ楽しい予定を入れるようにしました。ラーメンを食べに行く、スーパー銭湯に行く、映画を観に行く……別に大層な娯楽ではありませんが、これまで勉強していない罪悪感を感じながら行っていたことも、今では思い切り楽しめるようになりました。
気分を前向きにしてくれるサプリを飲むようにしました。ずっと思考にモヤがかかっていましたが、少し頭の中がすっきりして、些細なことを深刻に考える癖が現れなくなってきました。

大したことのない人生

人間なんて、生まれて、生きて、死ぬ、ただそれだけです。
多くの人がそこに意義や意味を見出そうとしますが、大層なものを無理やり見出そうとすることが幸せかというと、僕はそうは思いません。
人間誰でも、やりたいことや好きなことをすればいいのです。それを否定する権利も肯定する権利も、誰にもないのですから。
社会的に高尚とされる活動をしたければ、そうすればいい。価値がないとされる活動だとしてもそれが好きならば、どんどん取り組めばいい。
楽しく過ごせる方法があるのなら、それが一番いいに決まっています。
今ではこのように考え、自分が楽しいと思える選択肢を選べるようになりました。
メンタル的にかなり弱かった僕ですが、やはり時間をかけることでしかこの問題は解決できませんでした。そもそも、解決したと思っているだけで、実はそうでないのかもしれませんけど。
そして、これから大学院生活が始まりますが、これまでの先が見えない中で苦しむような状況にはならないと思います。また、あまりにも辛すぎたら立ち止まって別の選択肢を考えることもあるでしょう。とにかく「ちゃんとしなければ」という思い込みを捨て、フラットな目線で取り組んでいきたいと思います。
その先税理士になったとしても、きっと僕の人生は他人から見ても大したことのないものになるでしょう。
それでも、自分が楽しむことだけは忘れないようにしたいと思います。

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