【超短小説】年雄、暴れてやんよ

仕事帰り、年雄は珍しくタクシーに乗った。

なんだか疲れていた。

たまにはいいだろう?

タクシーで帰るような贅沢したってさ。

自転車でも電車でもない。

個室の解放感。

「あーーー!」と叫びたいくらい楽だ。

流れる夜の景色を眺めながら、ドラマの主人公になったような気分を味わう。

タクシー最高!

そう思った瞬間、年雄は運転手さんに言った。

「そこ右に曲がって下さい」

タクシーは右に曲がらず、直進した。

「あのー・・・」

「チッ」

年雄は運転手さんが舌打ちしたのを聞いた。

「あのー・・・」

「曲がりたかったら、もっと早く言って!」

年雄はドラマの主人公をやめた。

「ここで停めろ」

「え?」

「停めろ!」

年雄はタクシーを降りた。

そして、運転手さんに言った。

「俺が20歳若かったら、ここで暴れてやんよ!」

年雄は走って帰った。

浜本年雄40歳。

20歳若くても大人か・・・。

21歳にしとけばよかった。

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