おやすみ__メリー

【睡眠導入】感動できる童話 【フリー台本】

童話の需要があるみたいなので、とりあえず投稿しておくのです。かなり長いので、朗読の際は前半・後半に分けるといいのかもしれません。作り直したい出来ですが、完結当時のまま投稿します。

規約

規約はこちらにございます。

タイトル「おやすみ、メリー」 所要時間25分

1

皆さんはご存知のことかと思いますが、皆さんの夢は現実と密接に関係しています。

その夢と現実の境目に、夢羊の牧場がひっそりと立っています。

牧場内は、L字の角をなくした2棟の茜色の牧舎と離れの小屋があります。

牧場と外界を仕切る木目の柵を抜けると、広々した芝と草むら。草むらの若々しい生臭さがどこまでも匂ってきます。

他には牧場から一キロ離れた所にある、白い柵しか見当たりません。

その白い柵周辺が、彼らの仕事場です。

夢羊達の仕事は、淡々と白い柵を飛び越えて、眠れない人達をリラックスさせて夢枕へ誘うことです。

俗に言う、眠れない時に数えます、羊が一匹、羊が二匹のお話しはどなたもご存知だと思われます。

それは彼らが日々仕事を休まず、ここで働いているおかげでした。彼らの頑張りで、みなさんは快眠できるのです。

今この牧場の牧舎から、新しい夢羊が生まれようとしています。

──おはよう、メリー──

メリーが目を覚ますと、周りにはたくさんの夢羊が彼を取り囲んでいました。

茜色の牧舎の前には、仕事の当番以外全員が中の様子を覗き込もうと押し合いへしあいしていました。

ざわざわした外の様子にメリーもドキドキしていました。

「おはよう」おどおどとメリーは仲間達に挨拶します。

それからメリーは夢羊の仕事を覚えていきます。

同時に、幼い彼と白い柵の勝負が始まりました。

2

夢羊の仕事はとてもシンプルで大変。

彼らは柵の前で列を作り、淡々と柵を飛び越えます。飛んだら、列の後ろにトコトコと戻ってきます。

ただし、シンプルとは言っても人間が夢を見ている時間はずっと、乱さず、急がず、丁寧に途切れることなく働かなければなりません。

家族もたくさんです。

メリーが生まれた時も、交代交代でメリーの面倒を見ていました。

そんな中でもメリーは人一倍小さかったのです。

小さな体だったので、メリー柵を飛び越えられませんでした。

他の夢羊達は呆れながら、彼の穴を埋めて働きます。むしろ、小さな彼が飛ばないことが日常になっていました。

柵に対して、負けっぱなしでした。

メリーは、チョコレート色のひづめで草むらに八つ当たりします。

──どうして、僕だけ飛べないんだ──

踏みつけられた草が、くねくねさせて空を仰いでいます。汁気をおびた、もっと新鮮な青の匂いが彼の鼻にツンとつっつきます。

幼い彼が好きだった匂いも、今は嫌でたまらなくなりました。

気落ちしたメリーの元に、少し上の兄モリーがやってきました。

モリーは彼を励まします。

「大丈夫だよ、メリー必ず飛び越えられるさ」

「無理だよ。モリー兄さん、僕ちっちゃいから」

「次はいけるさ」モリーは言いました。

「全然ダメだよ、モリー兄さん。後足のひづめが、柵に引っかかっちゃうんだ」

モリーはキョトンとします。

「メリー、後足が柵にぶつかるんなら、前足の方はもう飛べてるじゃないか。あとちょっとだ」

数秒考えた後で、メリーの顔がパッと輝きます。

「ほんと、兄さん?」

「ああ。メリー、行こう。もしダメでも、また挑戦すれば良い」

「そうなの?」またキョトン。

「僕は思うんだ。結果も大切だけど、もっと大切なのは、新しいことに挑戦し続けて、やり遂げることなんだ。

もちろん、辛いし楽しい道のりという訳でもないけどね。でもやってよかったと思える……きっとメリーもわかるよ、いつか」

モリーの言葉には熱がこもっていました。

モリーとの会話の後、メリーは再挑戦を決意します。

メリーは白い柵から、200m離れた地点に来ていました。

彼のの視線は、200m先の白い柵を捉えています。

兄弟達は優雅に淡々とジャンプして、隊列の1番後ろに戻っていきます。

冷や汗が額からだらだらと流れた気がしました。

大丈夫、大丈夫。

できる。僕はやれる。

メリーは自身を鼓舞し、四つ足の震えを打ち消していきます。

──結果がすべてじゃない。新しいことに挑戦し続けて、やり遂げることが大切なんだ。──

モリーの言葉を頭の中で反すうし、彼は静かにかけていきました。

仕事をしつつ、メリーの様子を伺っていた他の兄弟達は、メリーが無事飛べるようにと祈りながら、子羊一頭分のすき間をあけました。

メリーは前方の兄達の対応に感激します。前足はまっすぐ柵を見据えていました。

ドクンドクンと、心臓の鼓動は一段と早くなっていました。

しかし、ここでトラブルが発生します。

メリーは足がもつれ、転んでしまったのです。

3

極度の緊張で、足の挙動がうまく働いてくれず、彼は前のめりに一回転してしまいました。

あっと、兄弟達は声を出します。

休憩中で、夢羊小屋から見守っていたモリーは思わず駆け寄ろうとします。

メリーはよろめきつつも、立ち上がりました。そして、彼は元来た道を戻っていきます。

モリーははっとします。

──メリー、君が転んだ所からじゃスピードが乗らない。だから、十分に柵と距離をとるよう、君は元の位置に戻るんだね。もう一度挑戦する為に。──

メリーのへこたれない姿勢に、モリーは胸が熱くなりました。

彼は声を荒げてメリーを応援します。

「メリー、頑張れ!」

モリーの声に反応して、メリーの兄弟達も彼の再挑戦を知ります。

遠くにいるか弱い夢羊に、彼らもまたエールを送ります。

「メリー、必ずできるわ!」と世話焼きのマリー。

「そうだ、今回で決めちまえ!」と親分肌のミリー。

「ちゃんと飛べたらバイキングのお祝いをしましょうね!」と食いしん坊のペリー。

その他、モリーの声に起き出した他の兄弟達が応援します。

メリーは涙が出そうになるのをこらえ、スタート位置に戻ります。

あの柵に勝ってから思いきり泣こう。彼はそう思いました。

スタートラインを緩やかに助走して、徐々に芝生を蹴り上げる速度を上げていきます。

依然、緊張が残っているメリーでしたが、緊張よりも感激が上回り足は前に比べ生き生きしています。

かたや、メリーの奮闘を仕事をしつつ、ドキドキしながら兄弟達は見ています。

柵から20m程になると、彼は全力疾走でそびえ立つ柵へ戦いを挑みます。

10m前に、次に入るすき間ができました。あそこから飛ぶ。メリーはグッと目に力を入れて、すき間をにらみつけます。

3m程になって、後ろ足にグッと力を入れます。鼓動の跳ね具合は、最高潮でした。

「いけー!」と、モリーが叫びます。

同時に、メリーは一番の跳躍を、今まで飛んだことのない高さのジャンプをしました。

柵を越えた先の風景は、今まで見たことのないくらいキラキラと輝いて見えます。

前足は柵を悠々と越えますが、後ろ足が柵の上部に引っかかりそうになりました。

大丈夫、いける!

彼は本能的に体をよじり、体を横向きにし、スクリューのように回転させ……後ろ足はギリギリ柵を通り抜けます。

ですが、回転したおかげで着地に失敗し、兄弟達と逆方向へコロコロと転がってしまいました。

しいんとします。

次の瞬間、わあっと夢羊の牧場中に歓声が湧き上がりました。

メリーは、心の中で白い柵に対して勝利宣言しました。

──勝ったぞ、君に。──

メリーは意識を失う前に、兄弟達の大声援を聞きました。

4

傷だらけで、満身創痍なメリーは今まで見せたことのないくらい大きく笑い出しました。

ズギズキと身体中に痛みが走りましたけれど、彼は笑い続けました。

いつの間にか、つぶらな瞳から涙が溢れてきました。

怪我が治ったら、今度は怪我をしないで飛べるようになろう。

彼は決心しました。

だって、それが本当の一人前なのだから。

それから、長い年月がたちました。必死の努力の末、小さな夢羊は誰よりも高く飛ベるようになりました。

しかし、同じ頃ある現象が起こり始めたのです。

一部の夢羊達が目を覚まさなくなったのです。

5


はじめ、モリーを取り囲む羊達は、彼がふて寝を決め込んでいるのだろうと思い、ほおっておきました。

しかし、当番が彼の番になっても一向に顔を出してこないので、心配になった夢羊達は牧舎へ向かいます。嫌な予感が彼らの頭によぎります。

通常は疲れた体を癒してくれる牧舎が、いつもと違い寒気を感じさせました。

何人かの声がけや、体をゆさゆさ動かしてみても、1番上の長兄は遂に目を覚ましませんでした。

それにおかしな点もありました。

揺さぶった夢羊が言うには、モリーの体が冷たかったようなのです。

この事件は、瞬く間に牧場内を駆け巡りました。いまだかつてない事態に、彼らは口には出しませんでしたが……ある可能性を感じ始めました。

それはモリーが死んだ可能性についてでした。夢羊達の一部の羊は、人間の夢を覗き見できるのです。

覗き見をした羊の一頭が、モリーの状態と自分がかつて見たことがある、人間が寝たままお葬式が開かれる夢と酷似していると思っていました。

その際、寝てしまったらもう2度と目を覚まさない事も夢の知識でわかっていました。

しばらくその話しは誰にもしませんでした。下手に不安を植えつけてもよくないと考えていたからです。

その間、何も知らないメリーはせっせとモリーのお見舞いに行っていました。いつか起きてくれる、そう信じていました。

「モリー兄さん、早く元気になってね」返事が返ってこない兄にメリーは語りかけます。

一瞬、モリーが元気になる姿を思い浮かべ、自然と彼の前足を触るメリーでしたが、頼れる兄の立派な前足は氷のように冷たく、メリーはぶるっと寒気がしました。

目の前のモリーが自分の知らない何か違うものになったようで、知らない内に体が震えていました。

メリーは逃げるように、牧舎から飛び出しました。

それから、徐々にモリーと同じ状態になる羊が増えてきたので、一度全体で長い長い話し合いをしました。

牧場中心部の広場で話された内容は、辛く厳しいものでした。覗き見した羊の話しに、怖くて泣き出してしまう者もいました。

話し合いの中で、仮にどうして僕らがそうなってしまうのかという議題が出され、原因としては、アンドロイドが電気羊の夢を見始めたからではないかと兄弟で1番利口なエリーが、冷静に言いました。

「まあ言ってしまえば、この現象は淘汰と言うの。簡単に言えば、突如新しい人類みたいなのが生まれて、古い人類はどんどんいなくなるの」と、彼女は口をツンと伸ばしました。

みんなは口をポカーンと開けています。

彼女はまた抽象的な話しを再開しました。

「アンドロイドという存在が生まれたからこそ電気羊も生まれて、つまり私達もそういう風に生まれてきたのよ……思えば、後に生まれた弟や妹達はどんどん体のサイズが小さくなっていった……」

「でよ、エリー姉はなんて言いてぇんだよ?」

親分肌のミリーはエリーに噛み付きました。

「私達を成り立たせている人間の数が、少なくなっているの。その証拠に、体のサイズが1番大きく1番最初に生まれたモリーは、おそらくだけどそのあおりを受けた。大きい羊はたくさんの人がいないと眠ってしまう……ずっと目を覚まさずに。永眠してしまう」

エリーの言葉はちんぷんかんぷんで、憶測ばかりだと周りから非難を浴び、会議は中止になりました。

しかし、エリーの言葉通りに会議の3日後、ある夢羊が目をつむったままピクリともしなくなったのです。

その夢羊はエリーでした。

彼女の言葉を証明するかのように、エリーが眠った1週間もしない内に次々に兄弟達は眠りについてしまいました。

夢羊達は不安に怯えながらも、仕事を頑張っていました。

人間の夢を覗き見できる夢羊が言うに、最近人間の夢の内容が、恐ろしい機械に追われている夢ばかりで、夢の中の人間が『アンドロイドの反乱だ!!』と大声で叫んでいたようでした。

メリーはいつも通りに白い柵を飛び越えましたが、もう仲間達はほとんど残っていませんでした。

もしかして、アンドロイドが人間の数を減らしているのかな……

悪い方へ悪い方へと、メリーは考えてしまいます。

そんな時は1番上の兄が残した言葉を思い出し、必死で前向きになろうとしました。

6


この頃になると、みんな自分の運命を受け入れいつ頃眠ってしまうのかを計算し、最期の時をそれぞれ自由に過ごすようになりました。

でも、ほとんどの羊は最後の最期まで仕事を続けました。

それが彼らの生き方で、また彼らの全てでした。

残り10頭となった時には、不思議と怖い気持ちが彼らから消えていきました。

眠ってしまった彼らは別な所に行ってしまったんだ。僕らも近いうちに行くんだ。一緒になるんだ、もう怖くなくなるんだ。

そう思う理由は……眠っている夢羊達はどれも穏やかな顔をしていたからでした。

メリーは淡々と飛び続けました。

7

それからの日々はのんびりでした。戦争?が終わったのか、眠る羊達の発生ペースも鈍くなっていきました。

それでも、10頭、8頭……5頭と少しずつ眠っていき……とうとう起きている夢羊はメリーしかいない状況になってしまいました。

彼は1人で、休むことなく白い柵を飛び越えてはトコトコと柵の周りをぐるっと回り、また飛び越えてます。

メリーは疲れていました。くたびれた体を引きずって飛び続けます。

しかし、人間が眠れなくなっているなら、僕は飛び続けなくちゃならない。

メリーの覚悟は、自分の意思というよりも兄弟達の思いを受け継いだだけと本人は考えていました。

ただ、大きな変化が起こりました。

いつものようにジャンプすると、唐突にビリっと身体中に電流が走りました。

そうです、眠るために夢羊が必要だった人間が全ていなくなってしまったのです。

メリーは驚きましたが……覚悟はできていたため、なんとか平静を保つ事が出来ました。

もう自分の仕事はおしまいになった。

僕はどうしたらいいんだろう。

悩む彼に、心地よい睡魔が襲ってきます。彼は眠ろ

うとしましたが……瞳をつぶる瞬間に、……モリーが喜んだあのジャンプした日の時を思い出しました。

……もう一度、飛ぼう。

そう彼は決意しました。

8

メリーは、最後の力を振り絞ってあの時のスタート位置につきます。

助走をつけて、走り出しました。

眠気と疲れで、身体がよたよたとよろめきながら、遠くの白い柵を目指します。

あの時の記憶が蘇り、前足を高く天へ伸ばします。

いける、いける!

が、ガクンと衝撃が後ろ足から全身に伝わり、彼は柵に跳ね返されてしまい地面にたたきつけられました。

身体中が痛かったのですが、彼は笑顔でした。

──負けだ。君の勝ちだよ。──

そう彼は長年の好敵手に心の中で拍手をしました。

満足したメリーはゆっくりと目をつむります。

意識がどんどん鈍くなり、おぼろげになっていきましたが……どこかで声がしているのに気づきました。

※※※※※※※※※※

──メリー、今まで頑張ったんだね。

君の頑張りはずっと、空の上から見ていた。

最後の最期まで、君は生き抜いたんだ。

辛い事があったって、君は決して挫けたりしなかった。

失敗して転んでも、必ず立ち上がった。

それはとても、とてつもなく素晴らしいことなんだよ。

君にしかできないことだったんだ。

今度は人間じゃなく君自身が眠り、夢を見る番だ。

……おやすみ、メリー。おやすみ。──

その声がモリーなのか、ミリーなのかエリーなのかマリーなのか、はたまた白い柵なのかはわかりませんでした。

ですが、目を閉じゆっくりと意識がなくなっていく中で……暗いはずなのに、眩しい光に包まれているような気がして、おもわずメリーは微笑みました。

(了)

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