「小田急刺傷事件」に思うこと

小田急の電車で乗客が刺傷された事件について、ニュースを見たときにまず初めに私が思ったことは、日本でも、韓国江南駅殺人事件のような事件が起きてしまったな・・・でした。フェミニズム本や様々な媒体で、この江南駅殺人事件が多くの女性が自らの経験した女性嫌悪の危険を語り出すきっかけとなったこと、また、韓国におけるフェミニズムへの意識が変わった大きな契機であると書かれています。

「私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない」で、著者のイ・ミンギョン氏は冒頭このように書いています。(以下引用)

この本は、2016年5月17日、ソウルの繁華街・江南で起きた殺人事件を契機に書かれたものです。ある男性が女子トイレに忍びこみ、無作為に選んだ女性を殺害。その後、日頃から女性を憎んでいたことを告白しました。事件を受けて多くの女性が「被害女性がただ女性だというだけで殺された」と、韓国社会にはびこる女性への暴力を問題視し、一方、多くの男性が「被害者の性別は問題ではない、事件が女性蔑視による殺人ではない」と主張して大きな議論となりました。
本を書く直接のきっかけがそうした過去の、しかも韓国で起きた事件ですので、今の日本を生きるみなさんには少し遠く感じられるかもしれません。ですが、過激だとか極端だとか言われるのをおそれて女性が言いたいことを言えないという状況は、時間や場所を超えどこでも起きることです。
あなたには、自分を守る義務がある。自分を守ることは口を開き、声を上げることから始まるのだと。

この本には、随分勇気づけられました。声をあげることの重要さ、同時に、お話にならない人に説明する義務、また彼らのよくわからない理論を、理論として理解してあげる義務はないことを学びました。

これまでは、気の遠くなるような、聞き飽きた、おじさん等から言われる言葉に、この本をもって自分や、せいぜい半径5m以内の人たちを、鼓舞していければ良いと思っていました。ただ、日本で、私が今住む東京で、「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思った。誰でもよかった。」と、江南駅殺人事件と同様の供述をする犯人による、電車内で刃物を振り回した事件が起き、報道の仕方やTwitterの意見を見て、あれ?韓国みたいに意識革命が起きそうにないな、と居ても立っても居られなくなりnoteを書いてみることにしました。

少し昔話をします。中学高校生の時、私たちの間で、痴漢は日常茶飯事でした。私も、そこまで混雑しない路線で10分位の通学でしたが、痴漢された回数は数回では済まないと思います。とても怖かったけれど、笑い話にしてわたしたちの中だけで話していました。痴漢をされて朝泣いている女の子がいると、「痴漢くらいで泣くなんて・・・」と思ったことを覚えています。最初の頃は先生や、大人に話していたかもしれません。ただ、返ってくる言葉は、「スカートが短いからよ」「魅力的だからよ」「気のせいって思ったほうが気が楽だよ」とかそんな内容でした。また、同時期「それでもボクはやってない」という映画とあわせて、「痴漢冤罪」が話題になるようになりました。痴漢されている怖さに加えて、冤罪だったらどうしよう?という自分自身への問いかけで声を上げにくくなったこと、声を上げることができたとしても、証拠はあるの?という第三者からの疑いを持たれる怖さを持つようになってしまいました。社会的に、痴漢は絶対駄目、痴漢犯は捕まえるべき、という通念はもちろんありますが、そこには注意書きがあって、「君が痴漢されたと僕が確信を持てたならね」と書いてあるように思います。

これは、異なる文化圏で育った友人と痴漢や性犯罪について議論するときいつも感じることですが、日本は、これらを悪だと認識しているものの、同時に許容しているように思います。加害者を捕まえる努力をするのではなく、被害者に、未然に防ぐよう努力させる。痴漢や性犯罪は事故のようなものであることだからしょうがない、ただあなたが遭う確率を下げるために、自衛をしなさい(夜道歩くな、露出を控えめに)、という意識があるように思います。こういった事件に、フェミニストが声を上げると、「何を当たり前のことを言ってるんだ、そりゃ痴漢や性犯罪は悪いことに決まってるだろ、おかしいやつがおかしいことをしたんだ、しょうがない」となぜか議論を止めさせるようなコメントが湧いてきます。もっと言うと、「被害者が誘ったらしい」とか、「加害者は男性派遣社員で社会的弱者だった」とか、被害者に落ち度があったと言いたいようなコメントや、加害者の生き辛さをアピールするような記事が流れてきます。枕詞で、痴漢や性犯罪は悪いこと~とつけて。

こんな社会で、安心できますか?社会が、このような犯罪を許容せず、何かあったら誰かが守ってくれるという意識があれば、随分と変わるのではないでしょうか。少なくとも、高校生だった私の周りに、痴漢に本気で怒っている人や、見つけたら絶対に捕まえると言ってくれる人がいたら、わたしは勇気をもって電車の中でも、声を上げれたのではないかと思います。

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今回の小田急刺傷事件は、フェミサイドと呼ばれる、女性を標的にした殺人、憎悪犯罪で、女性に対するヘイトクライムです。無差別犯罪で、たまたま女性が被害者、アンラッキーだったってことではないのです。これもまた、「幸せそうだったからだよ」と、被害者に自衛を求めますか?「女性を狙った犯罪なんて、駄目に決まってるだろ、おかしいやつがおかしいことをしただけの事件」と声を上げる女性を黙らせ議論を止めますか?

コロナ下で多くの人が不満や不安、ストレスを抱えていますが、そのしわ寄せは、弱い者、差別される者に向けられ、ひとたび始まるとエスカレートする危険があります。たとえば、米国で蔓延したアジア系へのヘイトクライム、暴力がその例です。歯止めをかけることが必要です。
今回の事件の真相を徹底究明するとともに、連鎖を防ぎ、女性を標的にしたフェミサイド行為を二度と繰り返さないよう、社会が強い抗議の声を上げる必要があります。

https://news.yahoo.co.jp/byline/itokazuko/20210807-00252079 より引用

小田急線で刺されたのは、仕事で疲れてNetflixを見ながら電車に乗る、私だったかもしれないのです。声を上げる女性の登場で韓国社会は急激に変化しました。怖い!でも何でもよいんです。一緒に声を上げませんか。





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