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偏屈王

髙見澤先生、4作目の短編小説。
『オール讀物』2024年1月号に掲載。

ざっくり言うと、主人公の偏屈ギタリストが、若い彼女との関係を維持するためにED治療をする話。
ただ、その治療が一般的な医療行為ではなく「護国神道術式目」に則っている、というところがポイント。ギターを演奏し神々に奉納することでイザナギ機能を回復させようと、偏屈王は奔走する。

作者と主人公の職業が同じであること、ブラック・ビューティーがピックアップされていることで、どうしても作者と偏屈王が重なって読まれることは予想できるだろうに、EDネタをぶち込んでくるあたり突き抜けているなと思います。若い彼女ネタもね。
最後のゲリラ豪雨の中で主人公が演奏するシーンなんか、ファンとしては目に浮かぶようです。イベントに向けて奔走する中で、斜に構えていた主人公が周囲の人間の本質や魅力に気づき、ひいては自分の価値に気づいていく。「俺はここまで生きてきて、今が最高に楽しいぞ!」というセリフ、説得力が半端じゃない。これは、読み手である私が無意識に作者と重ねているからだなと思います。

作者が既に一流ミュージシャンとしての立場を築いているため、どうしても作者の影がチラつく。文芸の世界においてこれが良いことかは分かりませんが、私は「作者自身」を効果的に投影させているなと捉えています。
愛希子の相手の都合を考えない感じも作者の匂いがするし、ドクター・アナベルなんてジジーちゃんに脳内変換されてしまいました…

さて、前作の『特撮家族』もそうですが、楽しいことを続けていくこと(時には苦難があったとしても)の価値や、本気で取り組むことで物事は楽しくなる、成功を掴むことができるということが、コメディタッチのお話の中にうまく落とし込まれていて、読後は明るい気持ちになります。
主人公は雷に撃たれていますが(笑)ちょっとちょっと、これで終わるの!?ED治ったの!?と思いながら、笑ってしまいました。

ステージに出ていく主人公の描写はカッコいい。と思ったら日本の神々が賑やかに歌い踊っていたり、メタルなドクターが和合について語っていたり。つくづく、髙見澤先生の頭の中ってどうなってるんだろうと思います。

最後に。
短編は気楽に読めてありがたいです。ギュッと集中して世界に耽ることができるので、読んでよかった!ああ楽しかった!という満足感がありました。
どうしても、長編にどっぷり浸かるのが難しい生活なので。時間は作るものだとわかってはいても、なかなか。

「護国神道術式目」シリーズができると楽しそうだなと期待しながら、次回作を待とうと思います。


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