人物

　前向今日子(33)主婦
　前向あすか（6）今日子の長女

○マンション・前向家・キッチン（夕）
　　　夕食準備中のキッチンで、前向今日子
　　　（３３）が電話をしている。味噌汁用　　
　　　の鍋でお湯を沸かしている。
今日子「もうちょっとちゃんとしなさいよね　
　あんたもうすぐ３０になるんだから」
　　　前向あすか（６）が逆立ちをして今日　　　　　　　
　　　子の方を向いている。
今日子「とりあえずお金のことはいいから、
　まず生活を立て直して」
　　　呆れた顔の今日子が電話を切って、途　　　
　　　中だったネギを切り始める。
あすか「いまの誰？」
　　　逆立ちで顔が真っ赤なあすか。　
今日子「コウイチ」
　　　あすかが壁を蹴って逆立ちをやめ、キ
　　　ッチンに駆け寄る。
あすか「えー！コウイチおじさん！変わって
　欲しかったぁー！」
今日子「どうせろくな事言わないんだから」
あすか「違う違う！今度未来に行くって言っ　
　てたからその話聞きたかったのぉー！」
今日子「ほらまたそんなデタラメ」
あすか「この前は月の裏側に行ってきたんだ
　って。知ってる？月の裏側。結構都市開発
　進んでるらしいよ」
今日子「もう！バカが感染る！そんなことよ
　り宿題したの？」
あすか「宿題はやろうがやるまいが宇宙は広
　がっているからやらなくても大丈夫だって
　言ってたよ」
　　　お湯が沸騰している。
今日子「宇宙が広がろうが無くなろうが宿題
　はやるもんなのよ！」　
あすか「お母さんも子供の頃、宿題全然やっ
　てなかったんでしょ？」
今日子「え？」
　　　ネギを切る手が止まる。
あすか「いっつもコウイチおじさんがやって
　たって。弟なのに」
今日子「ぐっ‥！」
　　　あすかが逆立ちをして得意げに今日子
　　　の方を向く
あすか「だから宿題やんなくていいと思う」
　　　包丁を持った今日子があすかの方を向
　　　く。ハッとなったあすかが逆立ちをや　　
　　　めて警戒する。
今日子「殺しますよ。あんたもコウイチも」
あすか「うぇ～ん！ごぉめんなさあぁい！」
今日子「コウイチとお母さん、どっちの言う
　事聞く？」
　　　あすかが床にひれ伏す。
あすか「お母さぁんのほぉう！」
　　　今日子がニコリと笑って包丁を置く。
今日子「そうよね。お母さんがいないと何に
　もできないもんねぇ」
あすか「コウイチおじさんもお母さんの言う
　ことだけは絶対に守れって言ってたから」
今日子「コウイチ‥」
あすか「お母さんを守るのはあすかだけだか
　らって。あすかの味方はお母さんでお母さ
　んの味方はあすかだけだから！」
　　　今日子の目から涙が溢れだす。
今日子「あすか！」
　　　あすかを抱きしめて号泣する今日子と
　　　あすか。
あすか「だからお金もう少し貸して欲しいな                                                                      　んてことも言ってたぁ！うえェ～ん！」
今日子「やっぱ殺す！」
　　　包丁を手に取る今日子。