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#映画感想文 世界の終わりから 引退、隠遁

紀里谷監督が引退するらしい


ネット記事で見かけて
お通夜に参列するかのように
GW明けに慌てて観に行った

一般の映画館では、やっておらず
行ったこともない京都のミニシアター
さらに20:30開始のレイトショー
おかげで人生初の貸切一人鑑賞

紀里谷監督にしては、普通の映画

ハナちゃん=伊東蒼の表情が印象的
彼女の演技力に頼りきっている作品

夢で世界を救う異世界モノ
いつもどおり主張が強い
世界を救う!>無くなっちゃえ>救えなかったー
説明の長セリフがあちこち転々とするところもいつも通り

よくわからない点も多い
冒頭の現在をなぜ2030年に設定しているのか?
無理してソラ(トゥームレイダーのララにかけた?)を出す必要があったのか?
そもそも、SF、アクションのカテゴリで描く必要があったのか?
などなど
中途半端感があちこちにある

ただ、スポンサー商品の素材化は素晴らしい!
キットカットは食べたくなるし、男性化粧品を女性が使いたくなるんでは?

嫌われ者 紀里谷監督

監督は作品数少ないが、メディア露出は多い
岩井俊二、庵野秀明、樋口真嗣と同世代
世紀の変わり目に現れたクリエーター
他の方々は、今やビッグネームとなり還暦を迎え、自由に映画を作っている

なぜ彼だけこんなに嫌われたのか?
デビュー当時、宇多田ヒカルと結婚し、
斬新すぎたCG多用の若手監督
ということがダメだったのだろうか?

暴言も多かったようだが
1970年ごろの映画監督なんて
主張が当たり前なクリエーター達で
それに比べれば、かわいい感じだ
現れるのが遅すぎたのか?

序盤、岩井俊二が先生役でチラ出している
遅刻してきたハナに
「君の時間は相対性理論的にズレているね」
黒板にはE=mc²
やけに違和感のあるシーンだ

どうやら、現場で岩井監督が組み込んだセリフらしい
たった数秒1シーンでこれから始まる物語を語ってしまう詩的叙情的センスの良さ!
説明セリフの多い紀里谷監督に欠けているところなのかもしれない

紀里谷監督本人も自覚はあるだろう
常時補完してくれる誰かを求めず、
ひとり映画を作っている紀里谷監督の姿が目に浮かぶ
どこか胸が痛くなるようなエピソードだ

迷作「キャシャーン」

今作より、キャシャーンのほうがスキ

間違いなく、紀里谷監督の代表作で
好き嫌いのでる主張の強い映画
少し冗長ではあるけれど、
なぜか5年に1度ぐらい観たくなる
コンディションの良い時に
覚悟して2.5時間付き合う散文的映画

公開当時、原作と違う、おとしめた、
稚拙、と酷い評価だった

ロボット犬フレンダー
出てこないのも叩かれた

リアルタイムでアニメを観ていたが
幼少期よくわからないなりに
東欧のレジスタンス風な
ひとり戦う切なさや無力感が背景にあり
独特な雰囲気でスキだった

「キャシャーンがやらねば」のキャッチコピーはそうした孤独があったから成立していた

「灰とダイヤモンド」ワイダ監督
下水道を這いずり隠れ戦う世界観


不評の実写映画キャシャーンは
稚拙なCGテクノロジーベースだが
アクションはともかく
孤独なレジスタンスの雰囲気を再現できていると思う

今では当たり前になったグリーンバックで
大物大滝秀治、三橋達也をキャスティングして、
セリフは多いが違和感のない演出だ

故三橋達也さん
キャシャーンに託す老医師
公開の翌月亡くなった

樋口可南子、麻生久美子などの女優もデジタル処理を使って、美しい映像として描いている

傑作とは言わないが、
何がそんなにダメだったのか?

引退

監督を引退し、隠遁するという
岩井、庵野、樋口に世間は優しい
紀里谷へは、冷たいままの世間だったということか

坊主憎けりゃ、袈裟まで な世間に
袈裟ごと脱いで坊主を辞めるということなのかもしれない

元来、多作な監督ではないし、
映画というフォーマットも終焉が近そう
いつか全く新しいクリエイティブを
引っ提げて再登場することを期待したい



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