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#6 日本人が海外で勝てない理由



高3の夏に渡米してから4年経った今、少しずつではあるが日本と北米の違いが分かったような気がする。この文章は決して日本人が劣っているという事を伝えたいのではなく、日本人が異国の地で結果を出すには今まで日本で培ってきた経験が通用しない場面があるということだ。



空気を読む

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“空気が読める”ことは日本人の才能の一つである。その場の雰囲気から状況を推察し、自分が何をするべきなのか、何をするべきではないのか、相手にとって何をして欲しくて、何をして欲しくないのかを憶測で判断できることが日本人の良さでもある。思いやりを重視する文化のある日本で、相手の事を考えて行動するのは日本人の重要な国民性の一つだ。しかし一方でアメリカ人は基本的に“空気が読めない”選手、人が多い。悪い言い方をすれば自己中心的、しかし良い意味で捉えると”確立された自分ある”、自己管理が徹底されているという事だ。彼らは周りに合わせない強さを持っている。そしてそれは自分の中にある圧倒的な自信から来ることが多い。象徴的な例としてアメリカでスキルはあるが試合で結果が出せない選手は皮肉を込めてプラクティスプレイヤーと呼ばれる。その名の通り、練習でしか自分のスキルを発揮できない選手の事だ。僕はそのような選手を何人も見てきたし、自分自身もそうなっていた事もあるかもしれない。そしてその差は“自信”から来る。結果を出せる選手はそれを持っている。持っているというより備わっているという言い方の方が適切かもしれない。競争が激しいスポーツの世界で優しさは時に命取りになる。なぜ彼らは自信を持っているのかはアメリカに来た途端すぐに分かった。日本と圧倒的に違うのはスポーツにおいての競争率の差だった。アメリカでは年代ごとに細かくカテゴリー分けされているチームやリーグが多い。例えば中学生以下でもU6, U10, U12など年齢ごとに細かくリーグが分けられておりチーム内でもAAA, AA, Aなど各選手のレベルごとに分けられている。中学生や高校生になっても学校のチーム以外にU16やU18, U20(ジュニアリーグ)などのクラブチームに所属している選手が多く、そこでプレーしながら大学やプロからのスカウトを待つ。大学(NCAA)といえども大学側からのスカウトやオファーがなければ大学でスポーツをする事は難しいと言える。北米の選手は小さい頃から自然と競い合いながらスポーツをしている。上手い選手は上の年代のレベルに呼ばれ更にレベルを上げる一方で、下のレベルでプレーし続けホッケーを辞めていく選手も多い、ピラミッドのような構造になっている。しかしこのシステムは理にかなっていると私は思う。日本のように年功序列という考えはなく、年下でも上手い選手は上のリーグに上がってくる実力主義の世界だ。僕は日本にいる頃は小学校から高校まで特に競争する事なくプレーしてきたので最初はアメリカのシステムに戸惑った。何回もトライアウトに落ち、チームからリリースされた事もある(事実上のクビ)。競争率の高いアメリカではそれは特別なことでなく普通のことなのだ。だからこそ自分の武器を知り、何か1つ抜きん出た存在になる為には、時に空気を読まない=自分を確立する事が大切なんだと思う。




見えない努力=美学

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基本的に日本人は最後まで努力し続ける事、見えない努力は美しい事だと教えられる事が多いがそれは通用しない。1日何時間も練習したり、試合前に練習を詰め込んだり、最後まで努力した者が勝つという考え方をする選手が多い。大事なのは質であり、正しい場所で正しい努力をする事。アメリカ人は基本的に試合前日は何もしない選手が多い。これは単に怠けている訳ではなく自分の体を理解している、そして今まで練習してきた自分に圧倒的な自信を持っているからだ。そして今している練習は次の試合で効果を出すのではなく、数年後の自分に繋がるというビジョンをしっかりと持っている。また、見える努力も大切だという事も忘れてはいけない。見える努力は結果を出した時にそれを裏付ける理由になる。その理由がコーチやチームメイトからの信頼を生み出す。見えない努力が美学であり、見える努力がカッコ悪いというのは自己満足であり、それを勘違いしている人が多い。見えない努力を否定しているわけではなく、見えない努力の方が美学だと思うことが間違っている。




本当に勝たなければ意味がないのか

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勝たなければ意味がない。勝つことが全て。よく日本で聞く言葉だ。日本は基本的にチームの為に貢献することが一流のプレイヤーだとされるが、様々な地域や国から集められた選手がいきなりこのチームの為に頑張りますというのは可笑しなことだと思う。チームの為にプレーするというは結果論であり、そこがスタートになってはいけない。一人一人がその瞬間に自分が出来る最高のパフォーマンスをする。根底には自分の為にプレーする意思がなくてはならない。アメリカではそれが普通だが日本で”自分の為にプレーします”というのはタブーで自分勝手とか、チームワークを乱していると言われる事が多いように感じる。大事なのは個人スキル、その中でチームとして共通の認識、目標があること。それが結果的にチームの為になり、勝利を生み出す。最初からチームの為にプレーをしますというのは何か曖昧で、無責任とも言える。日本のチームでアイスホッケーをしている選手がアメリカに行きたいと意思を指導者に伝えるとネガティブに捉えられる事が少なくない。どうしても枠からはみ出る人間は批判されることが多い。何故なら日本のスポーツの根底に勝利至上主義、チーム優先の考え方が多いからだ。勿論スポーツをする上で試合に勝つ事は優先されるべき事であるし、そこが選手やチームにとっての目的であるのは間違いない。しかし勝利に囚われすぎて育成という分野を疎かにしているのもまた事実である。代表的な例として挙げられるのが一発勝負のトーナメント式の試合だ。アイスホッケーでは高校で主に大きな大会が2つ、8月の全国選抜と1月のインターハイ。この大会を目指して殆どのチームは練習し続ける。チームによって試合数も違い、試合によって質も違う、1回戦で負けてしまったチームがその1試合の為に半年も練習し続けるのは非効率的だ。一方アメリカのジュニアリーグはどのチームも大体年間通して50試合は保証され、そこから強いチームはプレーオフへ向かう。練習にも限界があり、スポーツ選手は試合を通して成長する。育成面で見た時にどちらが効率が良いかは歴然だ。私は決してトーナメントを無くすべきだと言っているわけではない。一発勝負のトーナメントに挑む想いや、そこから生まれる感動も知っている。だがそれでは広がり続ける差は埋まらない。
勤勉な日本人は頭で理解し論理的に考えることができる選手が多い。頭の中に情報を詰め込み、試合を組み立て、システム通りにプレーできる。しかしそれを感覚として持っている選手は圧倒的に少ない。だから不測の事態に弱い。それは圧倒的な経験(試合)不足から来る。直感や感覚は曖昧と思われがちだが、何百回、何千回と練習、試合をした身体に染み付いている感覚は時に論理に勝ることもある。



おまけ

チームメイトとの接し方

アメリカ人はパーティー好きな選手が多いと日本で良く聞くが割と事実だと思う。勝った試合の日(翌日試合がなければ)は必ずと言ってい良い程チームで集まる事が多い。正直私はあまり好きじゃない。どちらかと言えば行きたくはない。試合当日は疲れているので早く帰って、シャワーを浴びて、ご飯を食べて、ストレッチして、試合のビデオを見ながらゆっくりとしていたい。特にシーズン中はただでさえセンシティブになっている事が多いので、スピーカーで大音量の音楽を流して、踊りながら、お酒を飲むのは疲れるし、面倒臭い(※全員がそうな訳ではありません)。恐らくシーズン中は特にインドアになっているのだと思う。しかし結論からいうと、そのような集まりには参加した方が良いということ。アメリカでは繋がりをすごく大切にする。チームメイトとの時間を共有することはアメリカ文化の一つだ。私は2年目のジュニア時代、全く集まりに参加しなかった。そうすると何となく距離が生まれるのも感じた。3年目、大学からは参加するようになった(本当は行きたくない)。チームメイトも私がパーティーを好きなキャラではないことを知っているので、行くだけで割と盛り上がり歓迎してくれる。「こいつこんなこと考えていたのか」「割と自分のことも気にして見てくれてる」、そこで何人かと話しながら共に時間を過ごすと新たな発見があったりするのも事実。大学のキャプテンとはあまり言葉を交わしたことはなく、苦手なイメージを持っていたが、話した時にこう言われた。「お前がいつも朝練しているのを知っている、腐らず、我慢して、今していることを続ければ必ず出番が来る。」割と見てくれているんだなと思ったし、キャプテンだなと思った。話してみて、その人の真意を聞いてみて、初めて分かることもある。

たった1時間その場にいるだけでも良い、無理しない程度でも良いから、顔を出して少しでも時間を共有することが大切であるし、自分がいやすい環境を作ることも良いパフォーマンスにつながると思う。(でもやっぱり行きたくない)



自由の国アメリカは決して自由ではない。特にスポーツをする上でアメリカほど競争率が高く、システムに縛られ、狭く苦しい場所はない。だからこそ北米のアスリートはその狭く苦しい道の先に見えるアメリカンドリームを目指して歩き続ける。目指している誰もが行けるわけではないからこそ、挑戦することに意味があるのだと思う。




※ここにある経験は私が肌で感じた事であって、これが海外の全てではありませんが参考にして頂ければ嬉しいです。




最後まで読んで頂きありがとうございます。今回は湖畔で黄昏れるアーサー君と共に締めさせていただきます。

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それでは! See you later #6




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