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劇団二進数「脇役人生の転機」

一-誰もが主人公になれるけど、それは必ずしも輝かしい人生とは限らない。

あらすじを見て、どんな輝かしい人が出てくるのか?と想いを巡らせていた。ところがどっこい、この作品に出てくる人間は、全員が全員、息苦しさを抱えていた。

それでも、たぶん、人間切りとられ方次第と思う。どんな素晴らしい人でも、一歩間違えれば脇役へ成り下がるし、その逆も然り。


夜、酒、赤の他人。ディープさが露見するための3要素が揃った場所。
それが、Bar "脇役人生"だった。

会話のリズム感とテンポが良く、当たり前に聞き心地が良い。舞台上だけど舞台上でないような会話感、狙ったラフ感こそが、劇団二進数の特色だと思っている。客演であるあさひ役の稲石果音は、その独特さに溶けこんでいて、それ自体、大変なポテンシャルを感じさせる。龍騎とのシーンは、構築が大変だっただろうなと思う。これまで劇団員の出演が主だった二進数に、あたらしい風を吹かせた女優だった。

個人的には、名付け親である元木という人間についてもっと触れたい!と思った。名付け親じゃなかったら、土下座する。一方で、脇役という語の如く、多くを語らないのもまた味があり、(物理的にも髪でできた)影があり、人間の怖さを感じさせる役者であった。樋口本人の人間性について、さらに興味が湧く演技だった。開演前にカウンターに立っている樋口の姿は、バーテンダー以外の何者でもなかった。是非バーテンダーになって欲しい。

売れっ子俳優、龍騎を演じた松尾樹は、分かりやすく芝居を引っ掻き回すポジションだった。時代劇シーンから、泥酔、本性まで、非常に目立つ行動を続けながらも、人間性を感じさせることを忘れない役者だと感じた。エネルギーが必要な役だった。業界のパワハラに目をつけた脚本家のオリジナリティもさることながら、松尾のリアリティ溢れるパワハラ回顧嗚咽シーンの演技も、見応えがあった。

逆に、それらに振り回されるのが、主(脇)役の川崎。演じた小川直優太には親しみを持ちやすく、(私自身の「いま」も関与して)人として共感できる部分が多かった。いわゆる主人公ポジション、平凡な人間として舞台に存在するのがとても上手なのだと思う。それも、ただ平凡な訳でなく、ユーモアは上乗せしてくるので、見ていて絶対に飽きない主人公だった。無理して追わせる芝居で無い、またそれは彼だけでないのは承知の上で、強いて言えば、川崎の動向にもう少し惹かれたかった。彼の歩みにもさらに共感していきたかった。

劇中で一番心に刺さったのは、実はジンの言葉だった。川崎と同じように、ジンに気持ち悪さを感じながら見ていて、その本音をまさしく言い当てられる場面は、もうなんというか脚本家がキモいとしか言いようが無かった。(褒めています。)そのキモさを掻き立てているのは、間違いなく永井大創の演技。こういう変な人いるよね、からのギャップが良かった。色々な意味で怖かった。言葉で真正面からさされたのは、久しぶりだった。そして、劇中で一番イキイキしている気がした。

総じて、本当に面白かった。笑いとメッセージ性のバランスがちょうど良かった。長すぎず、短すぎずで、とても見やすかった。そして芝居を支える、舞台や小道具、衣裳の物量からも、本気度が伝わってきた。宣伝物も含め、共通の世界があるから、「変な人たち」が役として舞台に馴染んでいると思った。音響と照明は、好みにドンピシャリだったので、語ると長くなる。人間の気持ち悪い部分を掻き立ててくれる舞台効果だった。

なんとなく、自らの進み方について、芝居で表したような感覚もあった。脚本家は、人生と将来と他人について、人一倍感性を働かせながら生きているのだと思った。そんな感性が欲しい。

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