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CATSが魅せるジェリクルな夜

 まだ私は5歳で、暗闇や隙間にお化けや恐怖よりもわくわくするような秘密の入り口を期待していて、犬のぬいぐるみを抱きしめながら父と手を繋いで歩くのが好きだったころ。
 ロンドンのウェストエンド、ニュー・ロンドン・シアターの赤い椅子に座る。父と母の間が定位置。オレンジ色のライトと赤い椅子が調和して、劇場の空気をリッチに美しく染めている中で、私は早く暗くなって音楽が始まるのを待っている。
 オーヴァーチュアが始まると、体が前のめりになって動けなくなる。暗闇を裂く青白いライトが劇中を走り、私をジェリクルな夜に連れて行く。
 大人になった今でも、私はCATSに魅了されている。

CATSは人生を乗せてくれる

 CATSにはこれといった物語はない。年に一度選ばれるジェリクルキャッツになるために、猫たちが自分や他の猫を紹介していく。色んな猫がいる。昼間はガムのように床に引っ付いてしまっているような太っちょ猫は、夜はネズミやゴキブリを統率して縄張りを整理している。タキシードを来た裕福な猫はメンバーズクラブに出入りしている。いたずらばかりのペアや、プレイボーイ、マジシャンもいる。お気に入りは汽車でお客さまをご案内している鉄道猫。みんなそれぞれの人生を持っている。
 一番有名な猫はグリザベラだろうか。さみしげに歌われる『メモリー』は聞いたことあるだろう。かつては美しい猫だったのに、今はボロボロだ。
 CATSは猫の話だけれど、たくさんあるそれぞれの人生の物語だ。
 だから、子どもも楽しめるし、大人もきっと猫たちに思いを乗せることができる。

愛する猫との向き合い方

 我が家には2匹の猫がいる。三毛猫と黒猫だ。この2匹、それから実家にいるサバトラの2匹。合計4匹との猫との付き合い方を、私はCATSから学んだ。


 まずは名付け。

The Naming of Cats is a difficult matter,
It isn’t just one of your holiday games

 そう、簡単ではないのだ。猫には3つの名前がいる。1つは実用的な名前。普段家族が呼ぶもの。身近で気軽で、親しみのある名前。もう1つは猫が必要としている個性的な名前。どの猫とも被らない個性的な名前。そして最後は、猫自身だけが知っている名前。人間ではとても思いつかなくて、明かされない名前。
 だから我が家の猫には2つの名前がある。いつも呼ぶ名前と、特別な名前。

 次に付き合い方。

You bow, and taking off your hat,
Address him in this form: O Cat!

 猫と初めて挨拶するときは、礼儀よくお辞儀をして、帽子を脱ぐ。それから、"O  cat!"と呼びかけるのだ。猫は犬とは違うとわきまえて、友となるためには猫を尊敬しなくてはならない。認められて初めて名前で呼べるのだ。
 さて、我が家のシェルターから来た猫は、最初は当然ながらこちらが付けた名前では反応してくれなかった。静かに見守り、お世話をし、少しずつ歩み寄ってくれるまで待たなくてはならなかった。心を許してくれて初めて、少しずつ名前を覚えてもらった。

 CATSは我が家の指標である。

美しい舞台で観るべきミュージカル

 ミュージカルは映画化されることがある。映画版が良いこともある。私は『オペラ座の怪人』が好きで、舞台はもちろん好きなのだけれど、映画版のマスカレードの絢爛さには興奮した。
 でも、CATSは断然舞台で見て欲しい。映画版は、白状すると、観ていない。予告編を観て、絶対に私の求めているCATSではないと思ったから。
 CATSは「生きる」ことの喜びと熱に溢れている。躍動するダンス、伸びていく歌声。何層にも重なるアンサンブルと客席の手拍子。すべてが1つになって「生きる」ことを賛歌する。

 さあ、猫たちに会いに行こう。彼らはしっぽを振って迎えてくれる。舞台にいる観客もCATSの世界の住人だから。

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