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守備の崩壊なのか、攻撃の未熟さなのか。〈柏レイソル戦レビュー〉

試合情報

J2リーグ第34節 柏レイソルvs東京ヴェルディ @日立柏サッカー場
15:00 KICKOFF 前半2-0/後半1-0 合計3-0
〈得点者〉
【レイソル】
オルンガ(30分、38分)、クリスティアーノ(80分)
【東京V】
なし
〈交代〉
【レイソル】
(75分)マテウス・サヴィオ→ジュニオール・サントス
(80分)オルンガ→細谷
【東京V】
(63分)河野→若狭/クレビーニョ→平
(71分)内田→李

スターティングメンバーと基本フォーメーションはこちら↓

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現実を突きつけられる連敗

今節の相手は柏レイソル。J2では反則級の戦力を要するチームだ。前半戦はチームの成熟度の隙を突いて勝ったものの、今節は0-3と完敗。カウンターとセットプレーでの守備場面が多くなり連敗となった。
ヴェルディはケガ人多発でメンバー変更を余儀なくされた。3トップを総入れ替えしたなかでの攻撃に注目であったが今節は不発となった。
柏は前節からのメンバー変更はなし。前線3枚の外国人に加え江坂の個も加わり、さらには後半戦からは守備も安定し今節も完封。
ヴェルディとしては、相手のブロック形成後の崩しを90分間継続できないことや、ボールロスト時の配置の悪さからの被カウンターなど長らく抱えていた課題を利用され連敗。この辺りに触れつつも、被カウンターとボールロストについて特別トピックとして扱おうと思う。
それでは攻撃と守備、被カウンター&ボールロスト分析の3部構成で振り返りたいと思う。

攻撃

まずヴェルディの基本的なビルドアップに関して触れる。

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配置はいつも通りの形。柏は守備時は江坂とオルンガどちらかがボールホルダーへのプレス&アンカーのカバーシャドウ。もう一人はアンカーに寄ることで完全に理仁を消しサイド誘導するという狙いが見えていた。またSBに誘導したのち、柏SHの選手がヴェルディIHをカバーシャドウしながらプレスし、WGに柏SBが出ていくことで容易な前進をさせない守備を遂行していた。
そこでヴェルディは同サイドで長い時間ボール保持した際の解決策3つと、サイドチェンジからの前進の解決策2つを実行し始める。まず前者の解決策3つから紹介する。

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まず唯一この中で再現性をもって前進できていたのがIHのサイド流れである。上図でいうとSHのクリスティアーノがSBにプレスをかけるのを合図にIHがサイドに流れボールを前進させるものだ。そこからはWGにボールを預けての前進、自分でボールを運んでの前進、CFが寄ってきてライン間で受ける前進ができていた(特に前半)。下のGIFも同シーンのもの。

柏レイソル戦前進

他にはIHが純粋に相手中盤ラインの前に落ちてくるシーンも多くあったが、相手中盤ラインを動かすもののなかなか縦パスにはつながらず、重心が下がる原因にもなってしまった。
そして3つ目としてはIHがバックステップで柏CHを引き付けて柏のCH-CH間に河野が下りて受けるものだ。このシーンも幾度かあったのだが、やはりCFの選手が前を向く意識の低さなのかチームとしての決まりなのか分からないが、フリーでも前を向かず前進のチャンスを逃していた。また河野が下りすぎるシーンもあり、そのあたりの癖は直していってほしいなと思う。

そしてサイドチェンジの利用からの前進2つを紹介したい。

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まず1つ目として、逆サイドのCBにボールを運び、柏のスライドが完了する前にIHに楔を打ち込むものだ。このパターンはかなり再現性をもって前進できており、ポケット侵入のチャンスも作っており良い前進方法となっていた。これはヴェルディがサイドに人数をかけるからこそのものでもあるので、これからも使える前進方法ではないかと考える。
2つ目としてはシンプルなサイドチェンジである。特に理仁から新井のパターンが多く見られた。新井からもう一度中にパスをつなぎ、柏を左右に揺さぶることで左右に間延びして空いた中央からクレビーニョのシュートなどのチャンスは作れていた。ただ攻撃の上で侵入したいポケットには行けず、もう少しポジショニングの調整が必要だろう。

最後はヴェルディ右サイドのアイソレーションについて。

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小池へのロングボールは何度もあったが、チャンネルランをするタイミングが合わないシーンが多かったことや、サヴィオのカバーも早く上手くアイソレーションを生かすことができなかった。
前述した新井へのロングボールもそうだが、なぜサイドチェンジに対応されてしまうかというと、柏の守備はカバーシャドウを多用しかつ精度が高いため、少ない人数で広いエリアの守備を実行することができる(1人で2人以上を守れる)。なので4-4-2ブロックが過剰にコンパクトになりすぎず、サイドチェンジにも余裕をもって対応できていた。これはヴェルディの守備と真逆であるので、また後程触れたいと思う。
というような具合でなかなかチャンスを生み出すことができなかった。相手のブロックを崩すための工夫はまだまだ必要だろう。IHへの楔は増えてきたので、いかにポケットに侵入していくかを考えなければならない。この試合でも河野が動きすぎてポケットにランニングしている選手がいるにも関わらずそのスペースに動いてしまったり、元からポケットを埋めてしまったりしていたので、チームとして狙うエリアの共有と味方選手の認知も課題だろう。

守備

柏レイソルの主な前進は下図のような形である。

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基本的にCBからサイド深くの選手にパスをすることで簡単に前進を実現させていた。ヴェルディの守備の難点としては、4-4-2のファーストディフェンスを担う2トップの制限の緩さと全体としての低強度のプレスにある。ヴェルディとしては中継の19:00付近でリポーターの人が言っていたのだが「理仁選手に縦パスを通させるなという指示がありました(大体こんな感じ)」というリポートがあった。つまりヴェルディとしては縦パスを通させたくないものの、前線の制限が少ないため物理的に選手間の距離を縮めてパスコースを消すほかなく、過剰にコンパクトな4-4-2ブロックを敷く羽目になってしまった。それはすなわちサイドの選手への距離が遠くなるということだ。これが原因となりサイド深くに簡単に前進されてセットプレーを献上してしまったり、クロスを上げさせる原因となった。もちろん柏のサイドプレーヤーは質的優位があるので1v1はヴェルディにとって負のスパイラルを生み出していた。
また柏はもう1つ攻撃時の形を持っていたそれが下図である。

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もう1つは柏左サイドでのプレーから右サイドの高い位置を取った瀬川への展開である。このシーン、そこまで多くはなかったが柏が効果的に押し込む形であった。理由としては瀬川のマークに行く優先順位が高い選手はヴェルディ左SHの森田である。森田より奥の高さでボールを受けられた時中盤から前の6枚が1つのパスで背走することになり一気に自陣深くまで押し込まれる原因になっていた。これによりボール奪取の位置が低くなり、次に紹介する図のポジティブトランジションへの移行の不利さにつながる。

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これが自陣深くまで押し込まれた際の図である。柏はDFラインが攻撃に積極的に参加せずともシンプルな形でフィニッシュにたどり着けるため、ネガティブトランジションでの優位性を保ったまま攻撃ができる。実際ヴェルディのロングカウンターに向かえそうなシーンでも柏は4枚以上守備に揃えることができ、シュートまで運ばれた被カウンターはなかった。
また、押し込まれて縦に圧縮させられる為、強度の高い即時奪回ができる柏にとっては好都合だっただろう。前の2枚には預けられない。前に蹴ってもマークが激しくすぐ取られてしまうし近くの選手に出すしかないが、そこにも近くに柏の選手がいる状態。なので柏に即時奪回されるシーンが多かったのも印象深い。
つまり、守備時の前線からの制限の緩さがそのあとのすべての不利につながっているため、ファーストディフェンスのオーガナイズは必須になると考えられる。もちろん攻撃の時点で触れた柏の前線からの守備のうまさを見習うことも必要だろう。

被カウンター&ボールロスト分析

今節は被カウンターとボールロストについても分析していきたいと思う。

まず1つ目の分析対象であるカウンターの定義として

1.敵陣でのヴェルディボール保持からのボールロスト
2.ボール奪取後15秒以内にPA付近に侵入しシュートまたはクロスをすること

この2つを今回の分析で用いるカウンターと定義し全8シーンをピックアップした。なぜこの定義なのかに関しては、ヴェルディのボール保持からネガティブトランジションのつながりに関しての検証をメインとしているためである。では全8シーンの図を一気に紹介する。またボールロストのポイントはバツ印の地点である。

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この8つの中の殆どのシーンに関して共通しているのは、確実に江坂をカウンタートリガーとしていることだ。それは同時にヴェルディが江坂の監視を怠っていることも示している。江坂の監視は基本的に近くのアンカー、つまり理仁の役割であると考える。もしくはその場を離れたら他の中盤の選手がバランスを取るべきだろう。もちろんオルンガは2人でのマークが必要なためCBが出ていくには少しリスキーである。
つまり理仁のポジショニングもしくはIHの選手のポジショニングが現時点では大きな原因になっていると考えられるだろう。後ろの状況を加味せずに前に出ていったり、出ていった選手がいてもIHがバランスを取らなかったりすることで、ヴェルディのフィールドプレイヤー10人の中央にぽっかりスペースが空きそこにいる選手を使われることや、そのスペースに前進されることで被カウンターの場面となっていた。そういったカウンターが上記の全8シーンのほとんどを占めている。
また被カウンター時、CB2人はオルンガにつき、両SBはクリスティアーノやサヴィオに引っ張られるためボールホルダーにアプローチしてディレイするプレイヤーがヴェルディは存在せず、簡単に自陣深くまで侵入される原因となったと考えられる。攻撃のためでしかないポジショニングや、もはや前がかりすぎて攻撃のためにもならないポジショニングを取ってしまうことでボールホルダーの判断も難易度が高くなり、またボールを受ける選手も後ろへのパスコースがなくロストしやすくなり被カウンターを招いていた。
また全カウンターにおいて必ず全力で相手DFラインを押し下げる選手がおり、ボール奪取からのリアクションも早いため効果的なカウンターを何度も成功させていた。ヴェルディはそのような選手がなかなかおらず、相手がディレイしやすいカウンターだったのでシュートまで行けるカウンターが発動できなかった。もちろん柏の帰陣も早くディレイをできていたのも素晴らしかったといわざるをえない。ヴェルディがボール奪取する位置が低いのも関係しているだろう。

また今節のトランジションが発生した各チームのボールロスト地点のデータをもとに分析したい。

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これがヴェルディのボールロストマップだ。このマップのボールロストの定義は

チームのプレーから相手に奪われ、相手チームが2タッチ以上のキープまたはパスを1本以上つないだシーンに関してをボールロスト

と定義している。先程も述べたがトランジションが発生していることを具体的なシチュエーションにして、カウントした。

まず上のヴェルディのボールロストマップに関して考えてみる。特徴としては、試合全体のボールロスト回数が柏に比べて12回多いこと、またゾーン2でのロスト回数が17回と多いことだ。ショートパス主体のため基本的にプレーが切れにくい。なので今回のボールロストの定義に当てはまるプレーがかなり多かった。その中でもゾーン2でのボールロストはかなり目立った。低い位置でのロストが多いということは前進のフェーズでボールを失う場面が多いことやカウンターの芽を摘まれていることが推測できる。ここでボールを失うことはヴェルディというチームにおいて致命的であり注目すべきデータだろう。また柏の守備が前線からハマるシーンが多くあったことで無理やりCFへのロングボールを蹴らされボールを失うシーンもあった。
またゾーン3でのロストに関しては、サイドチェンジなどでその高さまで前進しつつもなかなかPA内への侵入ができずボールを失うシーンが多いことを推測できる。今の課題であるゾーン3での崩しの課題が顕著に出たといっていいだろう。
またこれだけボールロストが多い上に攻撃時のバランスが悪いことが重なると、ボールを失うゾーンがどこであれ被カウンターのリスクは当然高まる。この状態を鑑みても、ボール保持時のポジショニングがいかに今のヴェルディに重要か分かっていただけるだろう。

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対する柏レイソルはヴェルディよりも総ボールロストは少なく、ゾーン3でのボールロストが多いという結果となった。これに関しては柏の攻撃方法に起因する。前述のヴェルディの守備のトピックのところで触れた簡単にサイド深くまで侵入できたという事、また柏の攻撃の特徴であるロングボールを使ったシンプルな攻撃により、クロス、シュートやロングボールの処理でボールがラインを割りやすい状況になりトランジションが発生するボールロストが少ないのである。トランジションが発生したとしてもほぼ確実に敵陣深くであるため陣形を整える時間があり被カウンターの機会が必然的に非常に少ない構造となっていた。これはシンプルな攻撃であってもゴールをもぎ取ることができる柏だからこそでもあるが非常に理にかなっていた。

まとめ

今節のレビューいかがだっただろうか。今節の振り返りをしつつ、起きた事象をもとにヴェルディの課題についても最後の「被カウンター&ボールロスト分析」で少し検証した(この分析で使った図はご自由に使ってもらって構いません)。上記は筆者の見解になるが、読んでいただいた皆さんにもこのデータをもとに自分なりにぜひ考えてみてほしい。筆者が見いだせなかった事実も必ずあると思うので。ここで考えたことをもとに柏戦を見直してみたり、次節の試合を見てみたりするとヴェルディの試合をさらに深く見れるかもしれない。おそらく来期も永井監督が継続すると考えられるので、このサッカーを多角的な視点から理解してみることをお勧めする。
またチームは連敗中。直近3試合でヴェルディの現実を突きつけられたが、成長を期待しながら応援していきたいと思う。それではまた次の記事でお会いしましょう

最後までお読みいただきありがとうございました!

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