死なない杯で踊ろう

ファンタジーです

久々、1年ぶりに帰ってきた実家の家の周りは何もない駐車場だったところに民家が立っていたり、田んぼがあったはずのところが民家になってたり、朝晩ベビーカーにポポちゃん人形を乗せて徘徊していたおばあさんの家が新しい民家になって違う人たちが住んでいたり、
総じて、家の周りの人口密集が上がっていた。

夏の夜になれば暑さと共に我慢比べのようにひたすらカエルのリサイタルに耐える夜半も、ゴミ出しの際にエンカウントする人形を乗せたベビーカーを押して歩くおばあさんも、今年からは無くなってしまうのだろうか、

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昼間、諸々の用事を済ませるために母の車を借りて出発する。
クソ田舎ランドは車がなければ不便で仕方ない。
気合いで自転車でも済ませられなくない用事だったけれど、車は好きだから借りてしまう。

車を走らせて、すぐ左側に『売物件』の文字が見えた


そうたしか、この家は のりこちゃん

のりこちゃんの家だ

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のりこちゃんは近所に住んでいた2歳年下の女の子で、小学校の時に朝よくすれ違ったり、たまに一緒に登校していた女の子で、のりこちゃんは僕が小学六年生の時に家の近くの曲がり角でトラックに巻き込まれて死んでしまった。

親の話によると、トラックの死角にいたのりこちゃんに気付かなかった運転手が狭い道の角を曲がろうとしたところ、膨らみが足らず、内輪差によってトラックの後輪に巻き込まれてしまった、との事だった。

いつだかの夜、事故よりも前、のりこちゃんの家の前を自転車で通った。

橙色の灯りのなか、くもりガラス越しに人影が揺れる。

キャーキャー、と女の子の声と、父親らしきシルエット、お湯をかけ流す音が聞こえる、ふんわりとせっけんの香りが道路の前まで漂っていた。

その事故以来、集団登校が始まって、それより先、あの家はすっかり静かになってしまった。

それより前は夕方、夜、家の前を通れば、
何かしら賑やかしい声が、生活音が、聞こえた

あの音が、せっけんの香りが、もうその通りからは感じ取ることができなかった。

ただしんしんと胸の奥に積もるような虫と蛙の音だけが夏には響いていた。

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東京のアパートの家賃を振り込みに郵便局へ行った。また東京に戻るつもりだから、アパートはそのまま残してあるのだった。

最近、ゆうちょのイメージキャラクターが本木雅弘になった。
ちょきんぎょの事はちょリスより好きで、栗山千明じゃなくなったのが少し寂しいけれど、もっくんが拝めるのはうれしい。
なんでこの人は、いつもちょっと強めの波が撫で付けたような、へんな前髪なのに、いつもハンサムなのだろう。顔だな顔。好きな顔って最強だな。ありがたい。何回見ても無料なんだもんな、ありがたい。

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用事を済ませて駐車場を歩いて車へ向かう
青もでもグレーでも無い、白としか言えない空が一面に広がっていて不思議だった

車に乗ってエンジンをかける。
ラジオからヘンデルの『調子の良い鍛冶屋』が流れている

事故があった、道路の前を通りかかった、
近くに車を停めて、曲がり角に近付くと、角の隅に綺麗な紫色のバーベナが咲いていた。

その場で花言葉を調べた。

花言葉は「私はあなたに同情します」「後悔」
だった

自然界ですら、そういうことすんの?は?雑草すら????容赦無くない???
と、不愉快な気持ちになってしまい、その場で根こそぎバーベナたちを千切って捨ててやりたくなった。

だがしかし

花言葉なんて、人間が勝手に花に背負わせた宿命だ。
希望を、願いを、勝手に背負わされている。

本来、花言葉はロマンチックである

なんて普遍的な考え方も、僕が勝手に花言葉に背負わせた宿命そのもので、千切るべきは宿命そのものだった。

あなたは『あれ』、あなたは『それ』

ムカつく、その全ての他人から勝手に背負わされた、宿命を、根こそぎ千切ってしまいたいたかった。

生きるのに宿命なんか必要すか?

車に乗って家に帰ってきた。
むしゃくしゃしていたので踊った
カメラで動画を撮ったのを見たら、ただ暴れているだけだった、踊りには程遠かった

動き疲れて、冷蔵庫を開けるとヤクルトがあった。

ヤクルトの薄い金属の蓋に、前歯で噛み付いて、勢い良く、首を傾け上を向き、逆さまに呑もうとした
のにチョロチョロと僅かにしか、ヤクルトは垂れてこない、

生まれて間もない生き物が母親のおっぱいにむしゃぶりついて必死になってるみたいに、ちゅうちゅうとヤクルトに吸い付く、喉仏が時折上下に動く、鼻から息が漏れて、喉に、胸に、体に、甘い蜜が染み渡っていく

呑み終えて、まだ流れ続けるBOOMBOOMSATELLITESの『SINKER』を聴きながら体を動かし始める、横隔膜が震える、ドラムの打撃音と共に身体が仰け反って、天井を仰ぐ、
天井のシミが、笑っているようにも、怒っているようにも、泣いているようにも見えた、

僕はまだ死なないと思った、

追記2017.6.21 1週間ぶりに外に出たらのりこちゃんの家は綺麗さっぱり更地になっていた。
土地の買い手が見つかったに違いない。

#ブログ #エッセイ #コラム #死なない杯

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