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ドSな彼女Ⅱ 6

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「ねえねえ、剣崎君。美術部の部活動に協力してくれない?」
 同じクラスの木村留美が昼休みに僕の傍に来て言った。
  教室の自分の席で、焼きそばパンと牛乳の昼食を取った後だった。
 僕は先日、宮田と竹田が言っていた言葉を思い出して、速やかにお断りする。
「話だけでも聞いてよ。帰宅部は暇でしょ」
 しつこく食い下がる木村に、僕は塾があるからと言うと、すぐに後ろから上村加奈子の声が聞こえた。
「塾なんて行ってないじゃない。知ってるのよ」
 上村の加勢ではっきりした。
 やはりこれはドSトリオの罠に違いない。

 その場はそれ以上無理強いされることはなかった。
 しかし、その次の時間が美術だったのは、何か関連があったのだろうか。
 変な伏線を感じて嫌な予感がした。

 その美術の時間では、石膏の模型をスケッチするのが課題だった。
 教壇の前の机に置かれた高さ80センチくらいの石膏のモデルは、ダビデの全身像だ。
 がっちりした体格の裸の男が左斜めを向く形で立っている。
 全裸だから下半身には男のしるしもちゃんとある。
 女子はそれを見ながらくすくす笑ったりしていた。
「はい。変なところばっかり見てないで、きちんとスケッチしなさいよ。陰影をつけて立体的に書いていくのよ。後ろで見えにくい人は椅子だけ持って前に来て良いからね」
 美術担当の加藤妙子先生が、特に女子に向かって言う。
 加藤先生は30代前半、少し太めだけど、可愛い顔立ちの先生で、男子に人気があった。
 まだ独身だという話だ。

「でも、あれって、チンコちょっと小さいよな」
 僕の横の席の田村信二がささやいた。
 そうかな? 普通に思えるけど。
 僕が答えると、お前、自分が小さいからそう思うんだよ、と今度は周りに聞こえる声で言った。
「なに? おちんちんの大きさの話?」
 すぐに反対隣の佐々木冴子が反応した。
 周囲に笑いが広がった。
「こらこら、何言ってるの? 真面目に描かなきゃだめよ」
 加藤先生が僕の方を向いて注意する。僕が言いだしたわけじゃないのに。
「先生、剣崎君が、そのモデルのちんちんは小さすぎておかしいって言ってます」
 佐々木が言って、今度はクラス中笑いの渦になった。
 僕は言ってないです、そういう僕の反論も笑いの中にかき消されてしまう。
「剣崎君、自分のおちんちんの方が立派だって言いたいわけ?」
 先生が僕を問い詰める。
「違います、僕は言ってません」今度はちゃんと反論できた。でも、まだ先生は疑いの眼差しだ。
「美術にはリアリティが必要だと思います」
 今度は上村加奈子が発言した。
 加藤先生が加奈子の方を見る。
「何が言いたいの?」先生が加奈子に聞く。
「石膏モデルのサイズを測ってみたらいいと思います」
 加奈子の提案に、クラスがどよめいた。
 加藤先生がクスリと笑った。
「面白いわね。上村さんに任せるわ。測ってみて」
 加藤先生に言われて、加奈子が立ち上がった。手にはすでに三角定規を握っていた。

 加奈子が石膏像の前に立った。
 70センチの机の上に、80センチの高さの石膏像だから、全体の高さは加奈子の身長とほぼ同じだった。
 加奈子が少しかがむと、石膏像の股間に顔が行く。
 そして、股間の物に定規をくっつけた。
「ええと、27ミリというところですね。石膏モデルの身長が80センチで、頭身から考えて実物大の身長は170から180センチくらいかな。間を取って175センチとしたら、2.2倍くらいかな。だったら27ミリの2.2倍で、ええと、約6センチという感じです」
 加奈子の説明で、クラスの中に、小さーいという声が上がる。
「平常時で6センチなら、そんなに小さくはないと思うけど」
 加藤先生が顎に手を置いて言う。
 先生の彼氏も小さいんじゃないですか? 男子のからかう声がした。
 その言葉にムッと来たのか、先生の表情が厳しくなった。
「今言ったの誰? そんなに言うなら君の物、出して見せてごらんなさい。測ってあげるから」
 加藤先生が教室中を見渡すけど、男子はシーンと鎮まってしまう。
 誰が言ったの? 更に先生が追い打ちをかけるけど、当然反応する者はいなかった。
「剣崎君、前に来てみて」
 周囲を見回した加藤先生の眼が僕に向けられた。まさか。
「僕は言ってません……」
 小さくそう言うくらいでは、先生の勢いは止められなかった。
 教室の前に立つ僕が、下半身脱がされて、クラスメイト全員の前でおちんちんの長さを測られる。
 その想像が頭をかっと燃え上げる。ゾクリとくる想像だった。
 恐る恐る先生の前に立つと、先生は僕を回れ右させて皆の方を向かせる。
「このチョークの長さが、6センチくらいです。剣崎君、これをおしっこする時みたいに持って見なさい。どう? 大きさは」
 僕は言われた通り、チョークを股間に当てるように持っておしっこするみたいに構えてみる。
「大きさは普通だと思います」
 そういう僕の言葉に、加藤先生は満足したみたいだ。
「ほらね。剣崎君の証言で、このモデルはリアリティありだと証明されました」
 一件落着という感じで加藤先生が笑った。怒ったふりをしていたようだった。
 教室に笑顔が戻った。

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