クソ音痴な私が楽器を20年以上も続けている理由。

中学では音楽の評価は「2」。人前で自分の恥をさらすことになるので、歌のテストは本当に苦痛だった。「お前本当に音痴だな~」とよく笑われたものだ。

そんなクソ音痴が、高校に入学すると同時に、友人に誘われ吹奏楽部に入った。動機はいたって不純だ。部員の9割が女子だったからだ。



入部して早速、一つ上の先輩が色々と案内をしてくれた。部室のこと、楽器のこと、部の活動内容のことなど、ていねいに、くわしく教えてくれた。

身長は155cmくらいの細身の体に、肩に届くか届かないかくらいの長さのストレートヘアーが良く似合う、笑顔のたえない可愛らしい先輩だった。担当楽器はトランペットだった。彼女の性格通りの楽器だなと思った。

先輩は、私にテューバという楽器をすすめてくれた。これなら、楽器の初心者でも、音楽が苦手な人でも、たぶん大丈夫だろう、と。しかも、吹奏楽の中では大切な役割をするし、なにより、今、その楽器を担当する部員がいないから、ぜひともお願いしたいとのことだった。

その楽器をすすめる本当の理由はかんたんに分かった。

上のイラストを見ても分かるように、テューバはとにかくデカい。そりゃ、女子に人気がないはずだ。まず、小さな女の子では、持つことすらできないほどだ。

そこに、当時身長174cmほどの男子部員がやってきたわけだから、そこを逃す手はない、というわけだ。

テューバは低音を出す楽器なので、曲の中での担当は主に「伴奏」となる。つまり、楽譜は四分音符ばかりのとても簡単なものばかりで、ピアノで言うとバイエルの前半レベルのものが大半である。さすがに、音楽「2」の私でも、すこし頑張れば読めるレベルの楽譜だった。

さて、問題は「楽器が吹けるかどうか」だった。私はクソ音痴なのだ。こんな私でも大丈夫なのだろうか不安でいっぱいだった。が、3日も経たないうちに、その不安は解消された。

テューバ初心者に求められる基本的な音域は、1オクターブ半くらいなのだ。簡単に説明すると、下から、「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ」の11音が出せれば、ほとんどの曲が吹けるようになっていた。

楽譜通りに、指揮者の指揮どおりに、順番に決められた音をゆっくりと大きく出す。ただこれだけで、9割の女子部員から大感謝されたのだ。

「すごい!今まで低音がいなかったから、すごい迫力のある合奏が出来たよ~。本当にありがとう~。」

私はまんざらでもなかった。というよりも、むしろ、鼻の下を伸ばしまくっていた。なにせ、「音楽」でこれまで人から褒められたことなどなかったからだ。ましてや、女子から褒められるなんてことも、まったく経験がなかった。



テューバをそれなりに吹きこなすには、練習が必要だった。吹奏楽の基本的な練習のひとつに「ロングトーン」というものがある。6秒間とか8秒間とかある一定の時間、ひたすら同じ音を同じ音量で吹き続けるのだ。それを全ての音で何度もおこなう。

ドーーーーーーーーー。レーーーーーーーー。ミーーーーーーーー。

といった具合だ。聞いている方は退屈で仕方がない練習だと思う(ま、聞く人なんていないと思うが)。

この練習、私には向いていた。ただ、同じ音を鳴らすだけだからだ。これなら私でもできる。

ただし、その音を鳴らしている間は、自分の音に「揺れ」がないか、自分の目指す音に近づけているか、音程のずれはないか(私は音痴で音程のずれなど分からないので、機械で測定していたが)を確認する。これは、「自分の音と楽器を育てていく」といった練習だからだ。


3年間、これは朝・昼・夕と欠かさなかった。少しずつ成長していく自分の音が楽しかったからだ。私は楽しんでいただけなのに、先輩や後輩たちからは、よく褒めてもらった。

「毎日本当にエライね。君がそんなに頑張るから、他の部員にもいい影響が出ているんだよ。ありがとうね」

そんな嬉しいことを言ってもらえた。私はただ、楽しんでいただけなのに、恐縮である。私はただ、それしかできないだけなのに、感謝である。


大学に入っても、吹奏楽のサークルに所属した。楽器はもちろんテューバだ。

さすがに大学ともなると、男子の割合が増え、女子の割合は7割ほどであった。それでも女子が圧倒的多数なのは間違いがなく、しかも自分の担当するテューバは、当時4回生の先輩が1人いただけだった。

また、大変な感謝を受けた。テューバを吹ける。ただこれだけのことで、こんなに好待遇を受けるなんて、ほんとやめられない。

また、高校時代の3年間の練習が功を奏したみたいで、私の楽器の音色はなかなかのもので、上級者のモノと遜色がないという評価を受けたのだ。


冬にあるアンサンブルコンテスト(少人数で出る合奏コンクール)に出ないかと、サークルの楽器が上手な人たちから誘って頂いた。

「ぼくなんかでいいのかい?」と聞くと、

「むしろお願いしたいくらいだよ。どうやったらテューバで、そんな優しい音色の伴奏ができるんだい。その伴奏でコンテストに挑戦しようよ!」

そんな嬉しいことを言われては、断る理由なんてない。

3ヶ月間、トランペット2人・トロンボーン2人・ホルン1人・ユーフォニアム1人・テューバ1人の7人で毎日練習を重ねた。私以外の6人は、音大を目指そうとしていた人や、小学校の音楽の先生を目指している人ばかりの、かなり上級者の人たちばかりだ。

私は彼ら彼女らの素晴らしい演奏を聴きながら、伴奏をするだけで良かった。伴奏なんて、コース料理のお皿のようなものだ。メインはやはり料理だ。もちろん、お皿はお皿なりに、料理に負けないように立派なお皿であろうと、努力はし続けたが。


冬、コンテスト本番。私たち7人は、コンテストで最上位の「金賞」を頂いた。私たちはみな、涙を流した。

表彰式の後、審査員から講評用紙を頂いた。吹奏楽の世界ではよくあることだが、「〇〇のところを改善すると良い」とか「〇〇が良く響いていた」などアドバイスを下さるのだ。

6人が順番に用紙をみて、最後に私に回してくれた。そこには

トランペットなどのメロディの演奏もさることながら、このアンサンブルの最大の引き立て役は、伴奏であるテューバだ。テューバという船に乗って、メロディも対旋律も安心して演奏できていたのが印象的だった。

私は産まれて初めて、嬉し涙で膝からくずれおちる経験をした。

クソ音痴の私が、音楽という世界でこんな風に言ってもらえた。もう、感動しかなかった。


こんな私でも、居場所があった。認めてくれ、評価をしてくれた。また、そういう場を与えてくれた音楽に、友に、感謝である。


だから、大人になった今でも、私はテューバを吹き続けている。あの時の感動を胸に。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

ありがとうございます喜(^^)/喜
138

のっぽコレクション

エッセイなど。
3つのマガジンに含まれています

コメント3件

初めまして。通りすがりです。
私も、背が高いからという理由で、中学生の時にTubaを始め、その魅力に取り憑かれて10年以上吹いていました。社会人になってからは時間が取れず、もう6年以上吹いていませんが…
のっぽ・じーじょさんは今も吹かれているとのことで、素敵な音色を奏でてらっしゃるんだろうなぁと思います。
勝手に親近感を感じて、陰ながら応援させて頂きます。
はるとさん、ありがとうございます!チューバ万歳🙌
羨ましいです。私は音痴の上になかなか上達しなかったので音楽にいい思い出がないです。いつかまたやりたいと願っていますが今は休止中です。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。