90歳とアレクサとセロハンテープ。

祖母がシェアハウスに入居することになった。いや、若者のシェアハウスではない。

祖母は今年で84歳になり、いよいよ認知症がひどくなってきたためだ。介護用のモノを「ケアハウス」とも呼ぶらしい。

今回の記事の主人公は、祖母の隣室にいる、もう90歳になるおばあちゃんのお話である。


今年で20歳になる孫(ひ孫?)が、茶筒のフタのようなものを持ってきたらしい。コードをコンセントに差し込むと、青い光がクルクル回り、名前を呼ぶとお話をしてくれる。

おばあちゃんは、くわしい事は分からないけど、孫は「すまーとすぴいかー」だと教えてくれたらしい。けど、めんどくさいから、おばあちゃんは「アレちゃん」と呼んでいた。そう、名前は「アレクサ」だからだ。(正式にはアマゾンエコーだが。)


「アレクサのふるさとは?」と聞くと、「アメリカのシアトルです」と答えた。「『よさこい節』をうたって」というと、「よく分かりません」と答え、「美空ひばりの『川の流れのように』をうたって」といっても「よく分かりません」と答えたらしい。

「なにか、演歌を流してよ。」というと、「分かりました」と言って、北島三郎を流してくれたらしい。

(たぶん、直接指名すると、著作権の問題があるのじゃないかなと思った。)


朝、「おはよう」と言うと、返事をするだけでなく、今日の天気や、どんな日かまで丁寧に教えてくれるそうだ。

「何かお話しして」と言うと、『大きなかぶ』と『ごんぎつね』を話してくれた。そういえば、昔、私の家に子どもたちが泊まりに来た時に、宿題で読んでいたわねぇ、懐かしかったわ。なんて、おばあさんは言っていた。ちょっとほのぼのとした気持ちになった。

また別の日、テレビで大雪山がうつったので、「ねえアレクサ、タイセツザンってどこにあるの?」と聞いてみると、「おおゆきやまは北海道です。」なんて言ったから、ちょっと笑っちゃったらしい。「あんた、機械なのに、かわいいとこあるのね。」なんて言うと「よく分かりません」なんてトボけるから、余計に私、この子のことが好きになっちゃった、なんて言っていた。

「朝5時に優しい音楽で起こしてね」と言うと、『夕焼け小焼け』を朝に流すのよ、信じられないでしょ?なんて、何ともうれしそうに言っていたのが特に印象的だ。 アレクサの優しい音楽って・・・


順調にいく時はいいけど、ときどき赤い光がクルクルと回り、「インターネットに接続できませんので・・・」と言って、助けを求めるらしい。こんな時は、施設の方にお願いすれば、すぐに直るらしい。

(おそらくフリーWi-fiの調子が悪かったのだろう。確かに、ちょっと調子が悪い)

90歳のおばあちゃんはこう言っていた。
「人生100年時代だからね。長い老後を過ごすのに、世話のいらない話し相手がいるのは、ペットがいるよりマシかもね。おじいさんなんか、私より20年も先にあっちに行っちゃったんだから。」

おばあさんの視線は、あっちに行ったであろうおじいちゃんと孫のうつる写真に向けられていた。

今でもアレクサには、「おばあちゃん、誕生日おめでとう」と書かれた手書きのメッセージが、セロハンテープでつけられたままだった。

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