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「家族っていいよね」を超えて 映画『ガラスの城の約束』

  映画「ガラスの城の約束」。コラムニストのジャネット・ウォールズが出版した自伝『The Glass Castle』(邦題:ガラスの城の子どもたち)を映画化したもの。

監督と主演は映画『ショートターム』でも組んだデスティン・ダニエル・クレットン監督とブリー・ラーソン。
正直、予告やポスターから醸し出される雰囲気が「家族ってやっぱり素敵」という感じがして、あまり期待していなかった。「なんだかんだあるけど、家族っていいよね」ってところに収束する話なんでしょと思っていた。

しかし。

確かに映画的に誇張された部分はあったけれど、それだけでは留まらず、後からじわじわと良さがしみてくる映画だった。

ジャネットと家族

 私も自分の家族に思いを馳せつつ観てた。私は、「家族っていい」とはどうしても言えない。散々家族の庇護を受けてきたけれど、すんなりといかない思いを抱えているから。特に父に関しては。けれど、私の甘ったれた葛藤なんて吹き飛ぶほどジャネットの半生は壮絶だった。
父のアルコール中毒、暴力的な面、子どもたちを近くにおいておきたいという両親の願い……。

 でも、これに対し周りが「あんたの家族ってサイアクだよね」と言うのは違う。ジャネットは婚約者に家族のことをあしざまに言われた時に反発する(まあ婚約者もジャネットの父に殴られたわけですが……)のだけれど、これは私も共感できる気がした。自分でも家族に対し嫌だ、おかしいと思う部分はある。でも、人に分かったようにジャッジされるのは違う。私も家族に対し思うところは色々とあるけれど、誰かに分かったみたいに同情されたり悪く言われたりしたら怒ると思う。

そう言いつつ、私はそれを母に対してしてしまったことがある。この映画を観ていて思い出したのはもう一つ、母のことだ。

正確に言うと、祖父が、つまり母の父が亡くなった時の母のこと。

母も家族との間に色々とあった。私が知っているのは多分そのごく一部。その断片的な情報と、母が祖父について語る時の口調から、私は母が祖父のことを嫌いなのだと思っていた。
私自身は祖父とほとんど交流がなく、だから祖父が亡くなったときも悲しくなかった。ちょうど母と一緒に母の実家に帰省する時で、むしろ帰省先での予定が変わることを残念にすら思っていた。

だから、母がショックを受けているのに気が付かず、母が火葬場で涙を見せたときは正直驚いた。お墓の前でも、母はいつまでも名残惜しそうに立っていたけれど、私はそんな母を急かしてしまった。
今では、その時の母の中には様々な感情が渦巻いていたと分かる。でもその時は、母の気持ちを慮ろうとはしなかった。

母とジャネットの境遇は違うところも多いけれど、この映画を観てその時のことを思い出した。誰かの気持ちは、家族であっても(家族であるからこそ)断片的な情報だけでは分からないことが絶対にある。勝手に決めつけることの恐ろしさをやっと分かったと思う。

「良い家族」 

良い父親、良い母親、良い娘。一体それは誰が決めるんだろう。どう決めるんだろう。そもそも、「良い」〇〇というのは誉め言葉なのだろうか?

私は小さい頃、「よい家族」というものがあり、それを目指さなきゃいけないと思っていた。私は「いい子」にならないといけないし、「家族は仲良く」しないといけないと思っていた。だから空気を読んで、険悪な雰囲気になればそれは和らげようとし、家族の前で出す話題は選んだ。一方で、自分が望む「良い親」のイメージを両親に押し付け、二人がそこからずれると酷い親だと言って責めた。今思うと最低だし、自分も苦しかった。

家族も、所詮異なる人間同士の集まりだ。だから考え方が衝突するのも、自分の望む通りに相手がならないのも当たり前。「他人」だとそれが受け入れられるのに、「家族」だと不安になるのはなんでだろう。

私はジャネットの両親や家族を良いとも悪いとも言わない(言えない)し、きっとジャネットの母や父や姉、兄、妹の視点から見れば物語は違ったものになるのだろう。観客が見られるのはジャネットの記憶(をさらに映画という形に落とし込んだもの)だけだ。でも、それでも私は観て良かったと思う。

「家族」は一人の人間がイメージできる範囲を超えて、より多様で複雑なものだ。
昔私が持っていた「血の繋がりがあるもの同士で仲良くしなくては」という家族イメージは、「異なる人間同士の集まり」という、よりゆるやかなものに変わった。良いかどうかは別として、気持ちが楽になったことは確かだ。

『ガラスの城の約束』を観ながらそんなことを考えた。


作品情報

『ガラスの城の約束』

監督:デスティン・ダニエル・クレットン
主演:ブリー・ラーソン
製作年:2017
製作国:アメリカ
上映時間:127分
原題:The Glass Castle
原作:ガラスの城の子どもたち
日本公開:2019年6月14日

現在、全国13館で上映中。


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