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過剰なまでの情熱を 「愛と銃弾」800字レビュー

 映画「愛と銃弾」ほぼ800字レビュー

 イタリアの教会前。「ヴィンチェンツォが死亡しました」とレポーターが報道している。泣き崩れる女性。首を垂れる人々。しかし棺桶の中の死体は歌う。「俺は何で殺されたんだ?」


「ヴィンチェンツォって誰だ?」

 衝撃的な幕開けだ。しかしメインは亡くなった彼でも、マフィアのボスであるヴィンチェンツォでもなく、ひょんなことから事件に巻き込まれるファティマと、ヴィンチェンツォを裏切ってまで彼女を守る男チーロ。彼らの逃亡劇を歌にのせて描く。つまり、マフィアの抗争と恋とミュージカルが一緒になった何とも盛沢山の映画なのだ。

 一見王道のロマンス映画にも見えるし、陳腐で過剰なまでに情熱的に感じられる。けれど、それすら含めて「楽しい」。徹底したエンターテインメントだ。そもそも、ミュージカルのシーンからしてどこか可笑しい。再会した恋人たちが歌うのは分かるが、銃を手に向き合った敵同士やスリに財布を盗まれた観光客までが突如歌い出す(歌っている場合か、とツッコミたくなるけど歌う)。悪役は悪役としての矜持を、恋人は想いを最大限に訴える。
 

 それぞれの思いを切々と歌う登場人物たちもまた強烈な人ばかりだ。一人でマフィア組織を全壊できるほどの強さをもつチーロ、ボスなのに「もう引退したーい」と嘆いているヴィンチェンツォ、彼よりよっぽど肝が据わっており、重度の映画オタクの妻マリア。彼らの思惑が交錯し最後まで緊張が抜けない。セリフと歌も情熱的だ。「兄弟のように愛してる」「愛を殺せはしない」……etc。文字にすると恥ずかしいが、観ているこちらとしては既にアクションや歌でテンションが上がっているので、むしろカッコイイ。「ボヘミアン」じゃないが胸アツ!である。とはいえ情熱だけでは闘いは終わらず、結局一番まともなファティマのやり方が一番上手くいく、ように見える。しかし、笑ってしまうほど明快なオチがあるのでお楽しみに。

「愛と銃弾」
監督:マネッティ・ブラザーズ
主演:ジャンパオロ・モレッリ、セレーナ・ロッシ
製作国:イタリア
上映時間:134分
日本公開:2019年1月19日(横浜シネマリンにて3月8日まで上映中)


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