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雪組『Lilacの夢路』『ジュエル・ド・パリ!!』辛口感想

 宝塚歌劇団雪組の『Lilac(ライラック)の夢路』と『ジュエル・ド・パリ!!』を80代の宝塚オールドファンの叔母と見てきました。観劇から3日ほど経っているのですが、明日が千秋楽なので、備忘録として感想を書いておきたいと思います。

このポスターの写真好きです

『Lilacの夢路』は衣装、装置、照明が素晴らしかった

 タイトルに辛口と書いたのですが、まず良かったところから。『Lilac(ライラック)の夢路』、衣装(加藤真美先生)、装置(國包洋子先生)、照明(佐渡孝治先生)の色合いが美しく、宝塚らしい華やかさがあって、本当に美しい舞台でした。ドイツが舞台だと、かなりの割合でナチスドイツの話が多くて暗くなりがちなのですが、今回は19世紀初頭のプロイセン王国のユンカー(騎士領所有の貴族)、ドロイゼン家の5兄弟が協力して鉄道産業を発展させる物語です。貴族屋敷は豪華でライラックの咲き乱れるお庭は美しく、宝塚らしい夢あふれる舞台ではありました。

 それに何と言っても、5兄弟がイケメン揃いでカッコいい!!
 そして、夢白あやちゃんが透明感があって美しい。
 美人が横に並ぶと、男役トップスターが素敵に見える。

謝先生ならではのダンス場面が多くて満足

 もうひとつ良かったのは、作・演出の謝珠栄先生は振付家でもあるので、冒頭からダンス場面が多く、鉄工場の場面もダンスで表現されていて、ダンスが得意なトップスターの彩風咲奈(咲ちゃん)、3番手の和希そら(そらくん)、4番手の縣千くん(あがた)と、ダンスが得意なスターが持ち味を遺憾なく発揮していたことです。

 なので、『Lilac(ライラック)の夢路』大好き!!とおっしゃる方がいるのもわかりますし、「これぞ宝塚という作品を見た!」と大満足のファンがいるのも承知しています。ですが、80代の叔母をして「なんだか平板ねぇ。詰め込みすぎ」と言わせてしまう脚本は、やはり問題なのではないでしょうか。特にビジネスライターの私としては、後半からどんどんご都合主義というか、「あり得ないだろ!!」とツッコミ満載の要素がたくさんあって、せっかくのハッピーエンドを楽しめなかったのです。

テーマを盛り込みすぎて、話が散漫に

 謝先生はドイツの鉄道の歴史と阪急電鉄を創業した小林一三先生を重ね合わせ、ドロイゼン家の長男ハインドリッヒが度重なる困難を兄弟と力を合わせて乗り越えつつ、ドイツに鉄道を走らせる感動物語にしたかったのだと思います。それだけでも壮大なテーマなのに、そこに恋人になるエリーゼの「女性の自立」や、ハインドリヒの父の子を産みながら、異民族ゆえに魔女にされ、命を落とした美穂圭子さん演じるアーシャが象徴する「魔女狩り」(ドイツの魔女裁判では根拠もなく多くの女性が処刑された)まで盛り込まれ、しかも話の繋がりが悪いので、何が言いたい作品なのか、今ひとつわからりませんでした。

困難の乗り越え方が安易でリアリティが感じられない

 ここで、ハインドリヒがエリーゼをエリーゼを選ぶかディートリンデを選ぶかで苦悩した挙句、兄弟や多くの人を巻き込んだ鉄道事業を頓挫させられないと、愛のない結婚を選ぶのなら、まだ話として納得するのです。ところが、ハインドリヒはディートリンデに興味がなく、彼女を愛しているのは次男で地方行政の官僚のフランツ(朝美綧)なんですね。しかも、ディートリンデはハインドリヒが好きでもないのに、自分に興味を示さず、誇りを傷つけられた腹いせに、親戚のヴェーバー大佐(久城あす)を雇って、ハインドリヒとエリーゼの命を狙わせるという仰天の行動に出るのです。そんなことをしたら、ドン引きして百年の恋も冷めると思いますが、それでもフランツはディートリンデを愛し続けるというのも意味不明。可愛らしい野々花ひまりちゃんはそんな性悪女には見えないのに、あんまりな設定です。

 ここで一番の驚きは、足りない資金の調達の仕方です。印刷会社の社長、ホフマン(真那春人)から融資を受けてもまだ足りない。それを聞いて一肌脱いだのがエリーゼです。ヴァイオリンの腕は一流なのに、女性というだけで楽団に雇ってもらえなかったエリーゼは、ハインドリヒの勧めで鉄のアクセサリーづくりをスタートさせていました。なんとかハインドリヒを助けたいと考えた彼女は、ディートリンデに相談を持ちかけ、(反省した?)ディートリンデはエリーゼの作ったアクセサリーを全て買い上げたのです。その資金を鉄道会社に投資したエリーゼは、なんと鉄道会社に株主にという展開。

手作りアクセサリーで鉄道事業の資金難は救えない

 最後の場面でエリーゼとディートリンデが黒い鉄のネッククレスを首から下げているのですが、株主になれるくらいのアクセサリーって、どれくらいの量なんだと思いますよね。大量に販売するなら、手作りではムリ。工場がいるでしょう。それなら、工場建設と職人を雇うのに、エリーゼこそ銀行から資金を借りなければできないことです。それに、真っ黒い鉄のアクセサリーをつけたい女性がそんなにいますかね。鉄、重くないですか? 黒いのも不気味で、街中の女性がそれを首から下げていたら、何かの宗教団体かと思いますよ。

 そもそも、資金を調達したいなら、フランツがディートリンデに頼み、父親のフンボルトを説得して、銀行に融資してもらうのが一番手っ取り早いはず。次男と結婚したって貴族の親戚にはなれるし、しかも次男は行政に勤めているのだから、政府ともパイプができてフンボルトにも旨味があります。なのに、なぜ最初からそういうルートで話が進まなかったのでしょう。

 その他にも、魔女狩りで殺されたアーシャの息子が実はエリーゼの紹介で鉄工所で働いているアントン(縣千)だったというのも出来すぎた話で、「ああ、その為に5男のヨーゼフを病弱な設定にして、途中で殺しちゃったんだな」と、白けてしまうんですよね。

夢人の歌声は美しいが、正体不明の時間が長すぎる

 余談ですが、アーシャを演じる美穂圭子さんの歌は素晴らしくて、叔母も「飛び抜けて歌が上手い」と感心していました。美穂さんを筆頭に、「夢人」という役名のついた歌ウマ娘役4人、姫華ゆきの、希良々うみ、有栖妃華、音彩唯の5人は冒頭から随所に登場し、美しい歌声を聴かせてくれるのですが、かなり最後の方にならないと、彼女たちが消された魔女だったことは分かりません。4人とも演技も上手いのに、もう少し演技力が活かせる役にできなかったのかなぁと、ちょっぴり残念な気持ちが残りました。

冒険するなら若手の演出家にチャンスを与えて欲しい

 失礼を千も承知で言うのですが、謝先生は演出と振付に専念されたら良いのではないでしょうか。演出するなら、オリジナルではなく、きちんとした原作のあるものを脚色した方が良いかと多います。鉄道なら、110周年にかけて小林一三先生の生涯をミュージカル化しても良かったし、5兄弟を描くなら、「ロスチャイルド家の5兄弟」の方を見たかった。歴史的事実を描くなら、ご都合主義の展開はないし、学ぶことも多々あると思うので。

 宝塚は劇団四季と違って、年に何本もオリジナルの新作を出す稀有な劇団で、全ては傑作ということはあり得ないでしょう。それは承知のうえで言うのですが、どうせ冒険をするなら、若手の演出家に任せてみてはどうかと思うのです。破綻のある作品でも、どこかにキラッと光る感性が見えたりしたら、それはそれでファンとしては嬉しいことなので。

『ジュエル・ド・パリ!!』のロケットは最高に可愛かった!!

このレビューも衣装と装置が美しかった

久々の宝塚の王道レビューで衣装がキレイ

 藤井大介先生の『ジュエル・ド・パリ!!』も衣装と舞台装置が美しいレビューでした。そして、主題歌が覚えやすくて良かっと思います。これぞ宝塚の王道という感じのレビューでした。

和希そらくんのダンスはキレッキレ

 印象に残ったのは、和希そらくんのキレッキレのダンスと歌の上手さ。朝美絢も歌はとっても上手ですけどね。それから、ラインダンスイエローの衣装が可愛かったこと!! そして、赤い衣装のデュエットダンスも良かった。咲ちゃんとあやちゃんは思った以上にお似合いで、二人の視線が「この人と組めて幸せ」と言っているように見えました。

楽曲の選考はやや再考の余地ありか

 ただ、叔母は長年宝塚を見ている人なので、「最後はまた愛の宝石なの。なんだから、聞いたことがある曲ばかりよね。もうちょっと、新しい曲の場面が見たかった」という辛口コメントが。シニアのオールドファンだからと言って、懐古調のゆったりした作品が好きとは限らないのです。

死に物狂いの生徒たちにオリジナルの名作を

 宝塚は110年近く続く歴史のある劇団だから、名作も名曲もたくさんあります。歌舞伎のようにそれを繰り返し上演したり、ショーで使うのは良いし、大切なことだと思います。ですが、オリジナルで再演に値するような名作と出会いたいという気持ちもあるのです。歴史の証人というのでしょうか。そうでなければ、ライブ配信を見ていれば、お財布も傷まないのですから。

 宝塚の生徒は本当にどの組も死に物狂いで演じているなと思います。それが胸を打つから、凡作と評判でも足を運ぶし、平日のマチネでも満席になるのです。歌舞伎と違って、必ず卒業することが前提のタカラジェンヌたちが、「この作品に出会えて良かった!!」と思えるような作品に1作でも多く巡り合えることを祈ってやみません。





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