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星組 『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』ライブ配信で見た礼真琴の底力

礼真琴の進化と完成度の高さに脱帽

 星組の『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』が凄いという評判を聞いて、今日は参加している勉強会のランチ会を途中で切り上げ、かなり無理してライブ配信を見たのですが、期待は裏切られませんでした。いや〜、凄いものを見たって感じです。

 私は紅ゆずるさんのファンだったので、この10年くらい星組の公演は欠かさず見ていて、必然的にまこっちゃん(礼真琴)の舞台も見続けています。下級生の頃から上手かったけど、恐ろしく進化していて、完成度の高さに脱帽しました。

 星組はいつの間にか歌ウマの組になっていた

 もう一つ驚いたのが、星組がいつの間にか、歌ウマの生徒が多い組になっていること。今回の公演は特に歌うまの生徒さんで構成されていましたが、下級生の娘役にも歌ウマさんが多数いて、層が厚くなっていました。その筆頭が後半のヒロイン、マチルドに抜擢された詩ちづるちゃんですね。

 毎回思うのですが、ロックオペラって歌うのが難しいと思うんですよ。例えば、『うたかたの恋』のように昔の宝塚の名作の主題歌は耳に残りますし、上手い下手は別にして、自分でもカラオケで歌えるものが多いです。ところが、フランスのロックオペラはリズムも旋律も複雑で難解。1度聴いただけでは、とても歌えるようなものではありません。まこっちゃんはじめ、出演者は全員、軽々と歌いこなしていましたが、短い稽古期間でこれを覚えて自分のものにするって、相当な実力がないとできないことだと思います。

暁千星演じるジェロニモは狂言回しで重要な役

 さて、この作品の特徴はアリちゃん(暁千星)演じるジェロニモという有名な歌手で狂言回し的な役がいることです。冒頭からジェロニモが登場して、作品を回していきます。ジェロニモはジュリアンの唯一の友でもあり、理解者でもある。出番もすごく多くて、ほぼ出ずっぱりなのですが、アリちゃんはこのジェロニモを実に巧みに演じてました。ダンスは言うまでもなく、身体能力の高さが半端ないですね。

礼真琴が歌うと「陰」のジュリアンが魅力的な青年に見える

 そして、芸術家のジェロニモが「陽」なら、ジュリアンは「陰」なんですね。
主人公なのに、ナポレオンの崇拝者で誇り高く、繊細で言葉少なく、暗いんですよ。ミュージカルでなかったら、あまり魅力的に見えず、面倒くさい奴と思われるようなキャラクターです。日本で言えば、戦国時代に生まれて出世したかったのに、江戸時代に大工の息子に生まれてきて、頭は良いのだけれど、出世するには僧侶か商人か、庄屋の婿にでもなるしかないと言った立場の青年ですね。だから、鬱屈してるんです。ところが、この役柄に歌がついてきて、歌で感情を吐露すると、グッと魅力的に見えるから不思議です。しかも、まこっちゃんは演技も物凄く上手いので、世に出たいという野心と、でも愛も欲しいという、この相反する二つの感情に引き裂かれるジュリアンの苦悩がリアルに迫ってくるのです。

レナール夫人の有紗瞳は柄に合った名演

 このジュリアンが恋に落ちるのが、くらっち(有紗瞳)演じる町長レナールの妻のルイーズ、レナール夫人です。幼い子供が3人いるけれど、この時代の結婚は家柄が釣り合う同士の結婚だから、愛はない。夫婦ともそれで良いと思っています。くらっちは古典的で大人っぽい雰囲気の美人さんなので、こういう役が実に良く似合います。この公演では薄化粧なので、いつもより色っぽさが際立っていました。そして、雪組時代に「ドン・ジュアン」のエルヴィラが素晴らしかったように、レナール夫人もこれまでの集大成と言えるような、歌・演技・ダンスと三拍子揃った名演でした。

 くらっちもまこっちゃんと同じく、下級生の時から驚くほど上手い人でした。『伯爵令嬢』の悪役アンナが実に上手くて「この人、いったい何者なんだ!」と度肝を抜かれたものです。それほど上手くても別格娘役となっているのは、今の宝塚はトップ娘役にアイドル的な容姿の人を選ぶ傾向にあるのと、轟さんとか瀬尾ゆりあのような、アダルトで男っぽいタイプの男役でないと並びが悪いという事情からでしょう。とはいえ、本公演以外ではヒロインを何度も演じていますし、『王家に捧ぐ歌』のアムネリス、『鎌足』の皇極天皇の名演技は今でも目に焼き付いて離れません。宝塚の歴史に残る名娘役だと思います。

レナール町長の紫門ゆりやにハッとさせられた

 それから、私が感心したのが、夫のレナール町長を演じたのが専科の紫門ゆりやさんです。レナール町長は成金のヴァルノ(ひろ香祐)が書いた手紙で、ジュリアンとルイーズが恋仲であることを知るのですが、心の底から怒りが湧いてこないと嘆く歌を歌うんですね。表層で生きていて、深いところに感情がないのを自分で自覚しているのです。この感覚がとても現代的でシュールなんですが、それを紫門ゆりやさんが上手く表現していました。もしかしたら、キャラクターとしては、一番、印象的だったかもしれません。ルイーズはジュリアンのことを思い、自分の保身のためもあって、二人の関係を全否定して、ジュリアンにお金を持たせてパリへ旅立てるよう計らうのですが、ルナール町長は二人が恋仲だと確信していたと思います。でも、スルーする道を選ぶわけです。

 悪役で下品な成金、ヴァルノ夫妻のひろ香祐さんと小桜ほのかさんは、元々実力のある人たちなので、圧巻の演技でしたね。ヴァルノはルイーズに言いよって拒絶され、自分達にないものを持っているジュリアンに激しく嫉妬して、結果的に彼を破滅させます。でも、コミカルでどこか憎めません。

 もう一人、レナール家の女中のエリザはジュリアンに恋をして、ルイーズが仲介してくれると期待していたのに裏切られ、復讐を決意する時点で悪役になるのですが、この役を『柳生忍法帖』で新公ヒロインだった瑠璃花夏さんが演じていました。歌の得意な娘役さんですし、キャラクター的にとても合ってました。

この公演のMVPはヒロイン感満載の詩ちづる

 最後に、この公園のMVPはマチルドの詩ちづるちゃんだと思います。もう、ヒロイン感満載で、ああ、この人がトップ娘役になるんだなと思わせる存在感でした。お顔は可愛らしいのに、大人っぽくもあり、貫禄がある。歌、演技、ダンスと3拍子揃った娘役で、他の役を見てみたいと思わせるものがあります。105期は花組の星空美咲ちゃん、雪組の音彩唯ちゃん、宙組の山吹ひばりちゃんと逸材揃い。月組は103期の白河りりちゃん、104期のきよら羽龍ちゃんと歌が上手い娘役が揃っているので、ちづるちゃんを星に異動させたのでしょうが、活躍の場がグッと広がりました。次の本公演『1789 -バスティーユの恋人たち-』の新人公演のヒロイン、オランプ役はちづるちゃんかもしれませんね。

 最後の挨拶で、まこっちゃんが「映画館だとポップコーンを食べながら見れるんですか? 今度やってみたい」と言ってましたが、あまりの熱演に見る方も集中力が求めラエルので、映画館でもポップコーンを食べるのは難しいでしょう(笑。
 本当に良いものを見せてもらいました!!



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