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ぼくのスプーンと、はじめてのともだち

これは、長男がスプーンの練習を始めたころの話です。

1歳ごろの幼児の、白玉団子のような手を思い出しながら、絵本風に書いてみます。

はるくんは、もうすぐ1歳になる男の子です。

ごはんを食べるのがだいすき。元気いっぱいに、手づかみでパクパク食べます。小さなおにぎり、野菜のおやき、にんじんのスティック。

スープや納豆は、おかあさんに食べさせてもらいます。手でにぎって食べにくい食べ物だからです。

でも、はるくんは何でも自分で食べたいので、おかあさんのスプーンを運ぶのがゆっくりだと、怒ったり泣いたりします。困ったおかあさんも、泣きそうな顔になります。

ある日、おかあさんは、はるくんにスプーンを買ってくれました。スプーンの端に、ミッキーの手の形がついた、赤くてかわいいスプーンです。

はるくんは、初めての自分のスプーンに大喜び!

「たべたい!たべたい!」

早くスプーンを使ってみたくて、仕方ありません。

まだご飯の用意をしていなかったので、おかあさんは冷蔵庫から、プリンを出してくれました。はるくんの大好きなおやつです。

「はい、どうぞ。じぶんでスプーンでたべてね」

はるくんは、自分のスプーンで、プリンをすくってみました。
…ところが。

あれ?あれれ?

つるん、とスプーンの上からすべり落ちて、テーブルの上にぽとん。もう一度すくってみても、床の上に、つるりん。

何度やっても、お口にたどりつけません。

「うわーーーん!」

はるくんは、とうとう泣き出してしまいました。

大好きなプリンが、じぶんで食べられないのですもの。くやしくて、かなしくて、涙が止まりません。涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃになります。

おかあさんは、困ってしまってオロオロ。
あわてて冷蔵庫の中をさがします。

「もう泣かないで。さあ、これならどうかしら?」

おかあさんが、差し出してくれたのはヨーグルト。

小さなカップに入っていて、なんだかプリンに似ています。

はるくんは、すこし泣き止んで、スプーンをカップにつっこみました。すると、ヨーグルトはスプーンにくっついてくれました。ちょっと、こぼれてしまっても、プリンみたいに全て落ちてしまいません。

スプーンはお口まで、無事にたどりつくことができました。
おいしい味が口にひろがって、はるくんは、にっこり。

むちゅうになって、なんども、なんども、ヨーグルトをすくいました。最後に、カップの底に残ったヨーグルトは、おかあさんにお願いします。

「あつまれしてー!」

カップにこびりついたヨーグルトを、おかあさんが上手にスプーンに集めてくれました。きれいに最後まで、ヨーグルトを食べきることができました。

それからはるくんは、色んな物を自分で食べるようになりました。

カレー、シチュー、麻婆豆腐。もちろんプリンだって、上手に食べられるようになったんですよ。

でも、いちばん最初のスプーンのおともだちは、ヨーグルトさん。

いまでも大好きな、おともだちです。

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手帳と刺繍の楽しみ方について、あれこれ考えてます。楽しい時間をみなさんとシェアできる何かを、作っていきたいです!