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滋賀酒蔵訪問記②不老泉を醸す上原酒造さん

ずっと書きたかった、上原酒造さんの訪問記。ようやっと書きます。
昨年の12月に北島酒造さんで酛すりを体験した後、ひそかに熱愛している上原酒造さんにお伺いしたのです。

私が初めて上原さんのお酒に出会った時、これまで味わったことのない濃厚で複雑な味わいに衝撃を受けたことを、今でもハッキリと覚えています。
最初にグッと甘みがくるのですが、だんだんと旨みや渋みが現れ、意外にも綺麗にさらっと消えていく。飲んでも飲んでもつかみどころがない、病み付きの感覚。
なんとも形容しがたい、もはや「不老泉の味」としか言いようがない味わいに、すっかり虜になってしまいました。

一体このお酒は、どんな人がどんなふうに造っているのだろう?
そして一体どんな想いを持って、このような味を醸しているのだろう?
そんな興味を抱いてから約3年。ついに蔵に訪れることができました。

ちなみに、上原酒造さんの日本酒の銘柄は「杣の天狗」「不老泉」の二種類。
なんと7割近くを山廃で造られており(杣の天狗は主に速醸だそうです)、将来的には全量を蔵つき天然酵母で醸すのが目標だそうです。

湖西線の安曇川駅からタクシーで約10分。
ぽつぽつと住宅のある落ち着いた町並みに、たくさんの杉玉をぶらさげた上原酒造さんは佇んでいました。
通常は1個だけのところが多いのですが、なんだか可愛らしい。
(ちなみに表の玄関にも1個ぶら下がっていた気がする…。)

到着するなり上原社長が笑顔で出迎えてくださり、私は興奮のあまり「好きです!!」と大胆告白。笑

玄関口で昨今の日本酒事情についてしばしトーク(今年は米が不作で、農家さんも蔵元さんも大変なのだそう)してから、蔵の中をご案内いただきました。

写真を撮り忘れてしまったのですが、上原さんでは自家精米をされていて、やはり委託精米と自家精米では味が数段違うそうです。
一番のポイントとしては、委託精米の場合は「枯らし」(熱を帯びたお米を室温程度まで冷ますため、お米の種類や削り方、用途に合わせて一定期間放置すること。これにより、米の水分量が変わってくる。)の期間が分からず、自家精米だと枯らしを調整できるのが良いそう。
やはり、お米がベストな状態で仕込みに入りたいのですね。

ちなみに、上原さんでは旨口の酒を目指されているとのことで、てっきり低精米(あまり米を磨かない)もされているのかと思いきや、そうではないそう。
精米歩合70%が限界だそうで、普通酒でも65%精米をされているのだとか。
しっかり精米することで、生酛のように酛すりをせずとも、山廃できちんと糖化して酒が醸せるのだそう。
あくまで精米した米のポテンシャルを活かす酒造りをされているのですね。

その後、甑を見せていただいた後に向かったのは、憧れの酒母室。
入り口だけですが、ちらっと見せていただきました。

不老泉と言えば、なんといっても蔵つき酵母!!
ここに棲みついている菌たちが、不老泉の独特な味を醸してくれているのです。
「蔵ぐせ」と言いますが、蔵に棲みつく微生物で醸すことにより、その蔵にしか出せない味になるのですよね。

通常はきょうかい酵母と言われる、日本醸造協会が頒布している優良な清酒酵母を添加するのが一般的なのですが、不老泉は純粋に蔵に棲みつく酵母だけで醸されています。これってかなり珍しい。
酵母や乳酸菌が棲みつき、安定するには何年もかかるので、一朝一夕にできることではないのです。

発酵中の酒母もちらっと見せていただきました。
変な菌を混入させないように、息を殺してそーっと覗きます。

眼福…!!

見えない菌の力で、こうしてお酒が出来上がっていくなんて、本当に凄いな〜。
この時だけは、もやしもんの如く、菌たちが見えたような気がしました。

麹室はピカピカでした。
麹の栗のような良い香りがふわ〜。

さらに驚くべきは、上原さんでは一部木桶仕込みもされているのです。
木桶はしっかりと管理しないと隙間ができて内容物が漏れてしまうので、大変なのですよね。これだけ綺麗に保たれていて、素晴らしい。

そして最後に見せていただいたのは、木槽天秤搾り。

見よ、このラスボス感!!

写真におさまりきらないくらい、想像を超えてくる大きさでした。
天秤を使って圧力をかけていくという、昔ながらのお酒の搾り方です。
(詳しくは、こちらのリンクが参考になります。)

場所を取る上にメンテナンスが大変なので、現在この手法を用いてる酒蔵さんは数えるほどしか無いそうです。
ただ、ゆっくりと自然の圧力でお酒が搾れるので、機械で搾るよりも雑味の無い味に仕上がるそう。

驚くなかれ、上原さんでは3日近くかけてゆっくりと搾っていくのだそうですよ!
(一般的には半日程度が普通だそう…)

⬇︎こんな原始的な重みのかけ方なんです。

ここで上原さんの名言が炸裂。

「酒造りは入り口と出口が大事」。

つまりは精米が入り口、搾りが出口。
この2つを大切にすることが、良い酒造りに繋がるとのことです。
う〜ん、奥が深い。

木槽のパーツは毎回分解して丁寧に洗っているそうです。
柿渋をまとったこちらのパーツ、なんだかすごく大事に扱われているのが伝わってきますよね。

と、こんな具体で私の質問責めにも全て丁寧にお答えいただき、ぐるりと蔵を一周回らせていただきました。ああ、幸せの極み。

そして最後は、お楽しみの試飲タイム。ゾクゾク。

ずらっと並べられた不老泉レンジャーたち。
試飲しながらの上原さんとのお話がとても面白かったので、今回は一つ一つの味わいのレポートを割愛させていただきますが、製造現場を見せていただいた後に飲む日本酒の美味しさはひとしでした…。

上原さんのお酒は、基本的に半年以上寝かせてから出荷されているそうで、「しぼりたて」などの商品を出すのは本当は不本意なのだそうです。笑
需要があるので一応出しているそうですが、全然オススメできないのだとか。笑
ストレートで潔くて最高です。

ここまでお話を伺い、ますます不老泉が好きになってしまいました。
造りたいお酒のイメージがハッキリとしていて、周りの考えに流されず、軸がしっかりしている。そして、良い酒を造るために手間を惜しまず、妥協がない。

しかし、上原さんはこう言います。

「自分で"こだわり"と言うのが好きじゃない。」
「自分が語らなくても、酒が語ってくれる」

ひゃー、カッコイイ!!

そんなこんなですっかり上原さんのお話と不老泉の美味しさに陶酔していたら、気付けば電車の時間がギリギリに。

駅までタクシーを呼ぶはずが、時間が無いので上原さんに車で駅まで送っていただくことに。なにからなにまで申し訳ない…!!
しかも、電車に間に合わず、少し先の駅まで送っていただいてしまいました。

しかし、その車中でゆっくりお話できたので、とても嬉しかったです。

感動したのは、上原さんと横坂杜氏の信頼関係。
(横坂杜氏については、日本酒コンシェルジュ通信の記事をご参照ください。)

夏から秋の間は千葉で米を作り、冬から春の間は上原酒造で酒造りをされている横坂杜氏は、今ではすっかり上原酒造さんの顔となっているのですが、先代の山根杜氏を引き継ぐ時のプレッシャーは、相当なものだったようです。
というのも、上原酒造の無添加山廃を作り上げた山根杜氏の功績が大きいがゆえ、その技術を引き継いで蔵つき酵母を守っていくのは、とても覚悟のいることだったそうです。
(ちなみに、上原酒造さんでは杜氏のことを「おやっさん」と呼ぶみたいです。)

そのため、山根のおやっさんの跡を継いだ一年目は、かなり緊張されていたそうで、酒ができあがるまでは気が気じゃなかったそう。
そんな横坂杜氏を見守る上原さんと横坂杜氏の間の強い信頼関係が素敵すぎて、涙が出そうになりました。

なんだか、もうストーリーが有りすぎてうまく書けないのですが、お互いを信頼し合う素晴らしい人間関係のある酒蔵さんは、本当に良い酒を醸すなあと思います。
えーと、詳しくは日本酒コンシェルジュ通信をご覧いただければお分かりいただけるかと思います!!(他力本願…笑)

お忙しいところご案内くださった上原さん、本当にありがとうございました!!
最後バタバタで写真が撮れず残念。

そんな不老泉は、今月の料理教室で使用しますので、どうぞお楽しみに〜!!

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