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日本酒ペアリングにおける"酸"とは

4月の料理教室、無事に全日程が終了しました!!
おかげさまで、今月も毎日楽しいレッスンでした。

今月のテーマは「"酸"を極める」。

日本酒に含まれる酸は、主に有機酸(有機化合物のうち酸性を示すもの)、リン酸、アミノ酸など。酸は、酸っぱい味を出すだけではなく、酒の味に爽やかさやふくよかさ、旨味やコクを付与するため、日本酒の味わいにおいて非常に重要な要素です。

今回は日本酒の主要酸である「有機酸」に着目して、下記の代表的な4種類の有機酸を含む日本酒を題材にしました。

①乳酸
②コハク酸
③リンゴ酸
④クエン酸

…今回、ペアリングを考えるために酸についてかなり勉強し、一部科学的な知見も取り入れたものの、結局は感覚的な部分が多かったです。
また、同じ酸を合わせる「調和」も重要ではあるのですが、最終的には異なる酸同士を合わせることで味が完成させる方が面白いかなと思いました。

ということで、ひとつひとつ見ていきましょう!!

(1)リンゴ酸代表「飛良泉 山廃純米 マルヒNo.77」
  ×ウドとカラフル大根の苺クコの実ビネガーマリネ

冷やして美味しい冷旨酸(れいしさん)であり、日本酒に爽やかさを添えてくれる、リンゴ酸。

リンゴ酸多産性酵母「きょうかい77号酵母」が使用された飛良泉マルヒNo.77は、山廃純米酒とは思えぬ軽やかさ。りんごのようなフルーティーな香り、白ワインのような酸味(それもそのはず、リンゴ酸は白ワインの主要酸)、蜂蜜のような甘みがあります。
そして、この「きょうかい77号酵母」は、りんご系の香気成分カプロン酸エチルを多く生成する酵母でもあるので、フルーティーな香りを醸してくれるのです。

驚くべきは、日本酒度-22という数値。かなり甘口に分類される数値ですが、さほど甘くてベタベタな印象はありません。というのも、酸度が4.2と非常に高く、酸味が強い分だけ甘みを感じにくくなるのです。
ここが酸味の面白いところ。

そして、このお酒に合わせた「ウドと大根の苺クコの実ビネガーマリネ」は、とことん調和を意識したペアリング。相乗効果というよりは、似た者同士を合わせて=(イコール)になるイメージですが、それだけではなく、ウドと大根のシャキシャキ感がお酒の味にメリハリをつけてくれたりします。

苺とクコの実を漬け込んだフルーティーな純米酢が、フルーティーな香りの接点に。純米酢の酸味は主に酢酸ですが、リンゴ酸とも喧嘩しません。
マリネ液に蜂蜜を入れることで、お酒の甘みとも調和。
癖のない食材使いで、喧嘩しないペアリングに仕上げました。
心地よく、いくらでも食べられる組み合わせで、個人的に結構お気に入りです。

(2)乳酸系代表「山形正宗まろら」×真鯛の煎り酒浸し

乳酸は、ヨーグルトや乳酸発酵漬物などに含まれる酸味。日本酒の酸味のベースとなるものです。
そして、乳酸が多く含まれる日本酒といえば、天然の乳酸菌を用いた生酛系酒母のお酒なのですが、今回はマロラクティック発酵という、リンゴ酸を乳酸に変えるワインの醸造技術が応用された面白いお酒があったので、そちらをテーマ酒にしてみました。

マロラクティック発酵が施された山形正宗まろらは、ほのかにりんご系の軽快なニュアンスがありながら、乳酸のまろやかな酸味が感じられます。
温めても美味しいとのことですが、私は手のひらで温める程度の温度が美味しいかなと感じました。

元々、蔵元さんは生ハムに合う酒を目指してこのお酒を造られたそうで、生ハムに合わせるかどうか迷ったのですが、色々な食材を試した中で、もっとも真鯛の刺身に合うと感じたため、今回は真鯛の煎り酒浸しに合わせました。
煎り酒は江戸時代の調味料で、梅干しと日本酒を煮詰めて作ります。
私は大好きな四谷の萬屋おかげさんの煎り酒が大好きで、限りなくおかげさんの煎り酒に寄せた、甘みのあるレシピにしました。

梅干しの上品な酸味と、日本酒と鰹節の旨味、みりんの甘み。これらのバランスが、山形正宗まろらと調和。その上で、真鯛とお酒が出会った時に、真鯛の旨味が増幅するのが楽しめます。
ちなみに、この料理自体は和食なのですが、まろらのラベルに合わせて、ちょっと洋風の盛り付けにしました。クコの実とチャービルを散らし、これぞラベルペアリング
今月の一番人気のペアリングでした!!

(3)クエン酸代表「東鶴 BLACK」
 ×鴨と苺とルッコラのサラダ仕立て〜バルサミコソース〜

クエン酸は、英語で「citric acid」、まさにシトラス。柑橘類の主要酸です。

本来、日本酒にはさほど含まれない酸なのですが、焼酎用の白麹や泡盛用の黒麹を用いると、クエン酸の多い日本酒が作れます。
日本酒の主要な有機酸が酵母のアルコール発酵由来であるのに対して、クエン酸は麹由来の酸というのが面白い。

そして、今回の「東鶴 BLACK」は、見ての通り黒麹仕込みの日本酒です。
(ちなみに、白麹仕込みのWHITEもあります。)

白麹よりも黒麹の方が更に多くのクエン酸を生産するため、ガツンとパンチのある酸のある味になります。また、独特な香りと少し苦味もあるかなと思います。

このタイプの日本酒は、和食に合わせるのがなかなか難しく、今回の鴨と苺のサラダのように、肉や果物を使った洋のメニューに合わせやすいです。
酸味の効いたエスニック料理にも良いですね。

今回、このペアリングは最も複雑な要素を取り入れており、まず調和を意識したのが苺。苺はクエン酸を多く含む食材で、クエン酸系の日本酒と非常に相性が良いです。
ただ、同じもの同士だけでは感動が生まれないので、鴨肉の旨味を添え、合わさった時の変化を楽しめるようにしました。鴨肉はフルーツと相性が良く、特にオレンジは定番ですよね。そのため、柑橘に含まれるクエン酸の多いお酒とはやはり喧嘩しないのです。
そして、黒麹由来の苦味には、ルッコラを合わせました。
バルサミコ酢を使用し、複雑な味わいと、あとは黒という色あわせも。

料理に様々な要素が含まれているため、一皿で様々なペアリングが楽しめます。

(4)コハク酸代表「笑亀 貴魂 コハク酸 」
  ×あさりとトマトのバター醤油酒蒸し

乳酸と並んで日本酒に多く含まれるのが、コハク酸。
酸味というよりも、旨味を呈する酸です。

ただ、少量含まれていると日本酒の旨味や押し味に寄与するのですが、多すぎると苦味や渋み、えぐみに感じてしまいます。

そのため、リンゴ酸やクエン酸とは異なり、コハク酸が強調された日本酒は殆ど無く、日本酒の選定に苦心していたのですが、3年ほど前に伺った大塚の地酒屋こだまさんで、酸を表現した「貴魂」シリーズを見かけたことを思い出し、こちらをテーマ酒にいたしました。
このシリーズでは、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸と、4種類の有機酸をそれぞれ強調したお酒が網羅されており、今回のテーマ酒全て貴魂で良いくらい。笑

そして、お味としては、やはりコハク酸が多いので、旨味は強いものの、多少の渋みとえぐみを感じます。熟成酒と間違えるくらい、かなりしっかりとした味です。
正直、お酒単体のテイスティング(冷や)では苦手な方が少なからずいらっしゃいました。しかし、コハク酸は温めて美味しい酸。
お燗にして飲むと、一気に飲みやすくなります。

そして、コハク酸は貝類に含まれる有機酸なので、貝類と調和しやすく、今回はあさりでコハク酸の接点を作りながら、トマトの酸味を合わせて爽やかにまとめました。
そして実は、最大のポイントはバター
お酒のガツンとボディのある味わいを、バターの脂とコクが包み込んでくれ、全体の調和が取れるのです。これがオリーブオイルでは、お酒に負けてしまいます。

…といった形で、今回もいろいろなポイントをちりばめたペアリングをご紹介いたしました。まだまだ書ききれないくらいです。

今月も全日程満席御礼で、和気藹々と楽しいレッスンになりました。
毎月楽しみにしているとのお声や、ご自宅で作られているという報告をいただき、本当に嬉しく思います!!
来月のレッスンも楽しみです♪

5月以降のスケジュールは下記の通りです。
(空席状況は4/20時点です。)

<5月度> "地域"を合わせる
5月23日(木)19:00〜22:00(満席)
5月27日(月)19:00〜22:00(満席)
5月28日(火)19:00〜22:00(残り1席)
​5月29日(水)11:00〜14:00(残り1席)
5月29日(水)19:00〜22:00(満席)
​6月1日(土)11:00〜14:00(満席)

<特別レッスン> 郷土料理と日本酒のペアリングワークショップ
5月15日(水)19:00〜22:00​(残り1席)

<6月度> オーガニック日本酒特集
6月24日(月)19:00〜22:00
6月25日(火)19:00〜22:00
6月26日(水)19:00〜22:00
​6月27日(木)11:00〜14:00
6月27日(木)19:00〜22:00(満席)
​6月29日(土)11:00〜14:00(満席)

▼詳細はHPをご覧ください
https://www.harukamano-jozo.com/sakemariage

来月もよろしくお願いいたします♪

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