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#17 小満

先週末はとにかく暑かったけど、私は魚沼市の広い青空の下で田植えをしてきました。今日は田植えをしながら思ったことあれこれについて。

10年ぶりの田植え

中学の修学旅行「越後田舎体験」で、田植えをして以来田んぼに素足で入った。最初こそ足を取られていたものの、慣れてきたら泥の中をすいすい歩けるようになって、イネを植えること以外何も考えずに黙々と植えていた。農作業は自然に集中モードに入って行けるから不思議だ。

機械で半分ほど植えてある田んぼの続きで、間隔30×30cmに苗を4本くらいずつ植えた。機械だと18×30cm(正確な数値を記憶してないけど確かこれくらい)で植える。当然植えられる本数は機械植えの方が多くなるのだが、収量は同じか、手植えが勝る時もあるという。機械ではイネの苗を傷つけてしまうのと、手植は間隔が広い分、風通し・日当たりがよくなり、虫がつきにくく一株当たりの収量が多くなるからだそうだ。不思議に思ったけど理由を聞いたら納得。

雪国の農家の暮らし

田植えをした魚沼市横根地区では、今から約40年くらい前に耕地整備が行われて、機械が入れる棚田になったそうだ。現在は「棚田百選」や「文化的景観」、「世界農業遺産」などの制度で棚田の景観と多面的機能を保全しようという動きが高まっているから、耕地整理することはそれとは逆行しているともいえる。

ただ、耕地整理されて機械が入れるようになったからこそ米作りを続けられているという側面もある。手作業は機械の何倍もの労力が必要で継続は困難。さらに、この地域では実質農作業ができるのは5か月くらいで、農業の収入も年に1度だけ。耕地の集約・規模拡大をして法人として経営しない限りは兼業農家にならないと食べていけないそうだ。

雪がたくさん降ることはおいしいお米には必要なことだけど、冬場農家としては働けないから除雪をしている。それが豪雪地帯の農家の暮らしだ。

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カメムシの影響でコメに斑点がつくと、それだけで農協の買取価格がぐっと下がってしまうそう。そのための農薬散布は避けられないそうで、農家の方は「きっとホタルやトンボにも農薬影響は出ていると思う。」と言っていた。

よこね米

今回田植えをさせてもらったのは、東京からは車で4時間半ほどの魚沼市の集落。高齢化率は50%を超える、いわゆる”限界集落”だ。

【写真:横根地区の田んぼの風景と横根米おにぎり】

横根地区では、地域振興の一環としてこの地区で取れたお米をKomenoma『こめのま』(2016年~)というサイトを通して産地直送している。

上のページによると、横根地区の課題は、①高齢化による生産体力の不足、②販路がない(すべて農協買取で納得いく買取価格でない、他地区のコメと混ぜられて販売される)、③作業効率を上げにくい棚田であることが挙げられるそう。これらの課題解決、生産者の生産意欲向上のためにKomenomaは①誰に自分が生産したコメが食べられているのかわかる(直送)、②ほかの地区のコメと混ぜられずに横根のお米を食べてもらうこと、これらが農家の収益upにつながるといったサイクルに貢献することを目指しているそうだ。

『シングルオリジンなお米』はKomenomaのコンセプト。”シングルオリジン”とは、”一つの産地で生産された”という意味。トレーサビリティに優れていたり(簡単に言えば生産者がわかる農産物ということ)、産地の特徴が表れるといったことが言えるらしい。

さらに消費者に届いたお米と食卓の風景がInstagramで発信されている。生産者と消費者をつなぐことに積極的にSNSが活用されているのは興味深い。

そういえば何も知らなかった。稲ってどうやったら育つの…?

田植えが終わって、軽トラの荷台には田植えで余ったイネの苗。どこかほかの場所で植えるのかと思ったら”廃棄する”とのこと。それを聞いて後先何も考えずに、好奇心(?)で、真っ先に「捨てるなら持って帰る!」と言ってしまったわたし(笑)

とりあえず研究室まで運んで、バケツで育ててみよう!と思っていたんだけれど、そこで何の知識もない事に呆然としてしまった。疑問に思ったのはこんなこと。

・イネが十分に根を張れるにはどれくらいの深さが必要なのか。ペットボトルかバケツか?
・プランターになるものの調達はどうするか?
・土は何を用意すればいいのか、どこからどれくらいの量を買ってくるのか。それともその辺の土で良いのか。
・なるべく無農薬、肥料もできれば有機でやりたいところだけど、有機肥料はどこで買えるのか。
・植えるまでの間の管理方法はどうしよう…

とりあえずバケツ稲の土について調べてみると、JAのHPには「黒土:赤玉土:鹿沼土=6:3:1」が良いとあった。(ここでその理由を知りたくなってしまって土について調べたりと、きりがない)とりあえず実験的にやってみるかあ。もたもたしてるとイネが弱ってしまいそうなので、土の調達をさっそく開始したところ。

バケツ稲についてはまた今度更新出来たらなあと思っています!



わたしのポジション?

ここ1か月くらい本を読んだり文献を探したりしながら、これからの研究の構想を練っていた。その時インプットしていた情報はすべて”農家じゃない人”が書いた文章。今回農家の方からたくさん話を聞いて、少し心苦しかった。というのも研究をする立場、つまり外の人である自分は農家にはなれないし、農家の暮らしも、農業の知識も何年も農業をしている人に比べたら乏しい。そんな立場の自分が、環境に良くないから、景観が悪くなるから機械が入れない棚田も手作業でやればいいとか無農薬栽培した方がいいなど、現時点では稼ぐことと逆行するようなことを安易には言えないと思ったから。

けれど研究者の立場でしかできないことも必ずあるはず。”わたしのポジションでできること”をはっきり意識できるように、勉強もしつつ、フィールドにも出かけて行くことも続けたい。

それから、わたしは一消費者でもある。以前の投稿↓でも書いたように、消費者の立場からできること、つまり自分の「食べるものを選ぶ」ことを通して自分自身のポジション表明をしていきたいと思っている。

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本の紹介

中学の総合の時間に「あなた農業をテーマにしたらいいよ!」とアドバイスをくれた先生がいて、ほかの学生より明らかに目をかけてくれた。中学生ながら農業高校の先生のところに土の構造を聞きに行ったり、二年も続けて学年代表で農業のことをプレゼンをできたのもこの先生のおかげだと思う。(14歳の時に「水田とその周りの人と暮らしへの影響」というテーマで調べ学習をした。それを角度は違うけれど今やろうとしているんだから不思議だなあ。)

その先生が紹介していた本が『奇跡のリンゴ』という本。

何年かぶりに読み返してみると、目に付く所が全く違っていて、今回は最後の茂木さんの文章がとても気になった。kindle版には掲載されていなかったので、一部茂木さんのサイトから引用します。

『奇跡のリンゴ』(石川 拓治 著, NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班監修、幻冬舎)に載せていただいた私の文章「木の上に広がる青空」の一部をここに掲載する。全文は『奇跡のリンゴ』でお読み下さい。
「木の上に広がる青空」
茂木健一郎

 大きなものに出会った時は、なぜ、すがすがしい気持ちがするのだろう。
 NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』の収録のスタジオで、木村秋則さんにお目にかかったその日。住み慣れた「文明」というものを覆っていた厚い天蓋が外れ、広がるどこまでも深い青空が露わになった。今まで気付かなかった生命の可能性がきらめいていた。その雄大な風景の真ん中に、小柄な木村さんの姿があった。木村さんとお話したことは、今でも私の心の深いところにくっきりと刻み込まれている。
(中略)
 不可能とも言われた無農薬、無肥料でのリンゴ栽培。その実現に向けて苦闘してきた木村秋則さんの人生は、まるで一編のドラマを見るようである。
 品種改良されて実が大きく甘くなったリンゴの木は、病虫害に弱い。農薬を使用しないことで、虫が大発生し、葉が病気になって落ちる。季節外れに咲いてしまう花。翌年はもう花芽が出ない。周囲の通常のやり方で農薬を使ったリンゴ畑が順調に実をつけているのに対して、木村さんの畑だけ惨状を呈す。「かまどけし」と言われた所以である。
 木村さんは、手をこまねいて見ていたわけでは決してない。真空管を使って、コンピュータを作ろうとする。そんな創意工夫の木村さん。いつも何かをしていないと気が済まない。あれやこれやと試してみる。周囲の人が感化されてしまうほどに、明るく前向き。そんな木村さんでも容易には越えられないほど、「無農薬・無肥料」のリンゴ栽培という壁は高かった。
 木村さんはとうとう追い詰められた。死を決意して登っていった山中で、リンゴの木の幻を見る。そして気付く。山の中では誰も農薬を散布などしないのに、木々の葉は青々と繁っている。その秘密が、木の下のふかふかと土にあることに気付いた時、木村さんの長い苦労はやっと報われた。夢中で山を駆け下りていった。死に場所を求めて山に登っていったことなど、すっかり忘れていた。
 山の中の豊かな生物相。その中で育まれた土。ふかふかの土の中に張り巡らされた木々の根。自然から与えられた環境の中で、植物たちは農薬も肥料もなくすくすくと育っている。大自然の中の生命力の由来するところに関わる木村さんの発見。それは、まさに「コペルニクス的転換」であった。その深い意味、理屈の全貌がわかるためには、人類は何十年、あるいは百年以上の時間を要するのではないか。
 農薬を散布するということは、すなわち、畑の生態系を力づくで押さえつけるということである。そのようにして「無菌状態」にすれば、リンゴは確実に稔る。人為的なコントロールも可能である。人工的に管理された閉鎖空間で「大量生産」するという工業製品と同じようなアプローチで、近代における農業の道は開かれてきた。その恩恵は、確かにあった。
 農薬や肥料を投入して「管理」する農業は確実に高い収量を上げることを可能にする一方で、環境に大きな負荷をかけてきた。
農薬の散布によって本来存在した生態系を破壊されるだけではない。継続して肥料を投入することで、土壌が本来持っていた力は失われる。自立する自然のかわりに、常に「点滴」をしなければ維持できない病気の状態が現れる。その中で育つ作物が、本来の生命力を発揮できるはずもない。そのような状況は、当然、作物の味にも反映される。
(中略)
 薬漬けの無菌状態で、栄養剤を補給されている。それは、私たち文明人自身の姿ではないのか。木村さんが発見した、「りんご本来の力」を引き出すノウハウは、私たちの生き方にもまっすぐにつながる。果たして、私たちは自らの内なる生命力をよみがえらせることができるのか? 情報化の中で、ともすればやせ衰えていく私たちの生きる力。木村さんのりんごが私たちに突きつける課題は大きい。
 木村さんの「奇跡のりんご」から「りんごの恵み」を引き出すことができるのか。これからの私たちの精進にかかっている。木村秋則さんのりんごの木の上に広がる青空は深く、大きい。(出典:http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2008/12/post-5107.html)

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新潟から帰ってきて特に考えているのは、研究の内容自体はもちろんだけど、自分がどうやって農業と関わるかということ。今回新潟に行ってみて、行かなかったら気づかなかった事がたくさんあった。と同時に広い空の下で体を動かして、ご飯を食べて、満天の星空を見て、すがすがしくもほっとした気持ちになるのはやっぱりそれが人間の生活の原点だからなのかな、とも考えた。農業って奥深い。

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なんだかまとまりもなく、長い投稿になってしまいました。さいごまで読んでくれた皆さん、もしちょっとでも面白そうな地域があったら是非情報をください!「日本の様々な農業の姿をこの目で見てみたい!」これは研究とか関係なく、ただのわたしの好奇心ですが…

それではまた!

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