FILE 9 龍神の海を守る 024

 私はいつのまにか、龍神様の海を守るために反基地運動にどっぷりと浸かり込んでしまっていた。
「あんたは、人のことをする前に、ちゃんと自分のことをしなさいよ」
 反対小屋に出かけようとする私を呼び止めてキヨさんが厳しい口調でいった。
「なに?」
「ほら、ずっと溜めたままでさ。自分のこともできていない人間が、大きなことをやろうと思っても無理さ。まずは、自分のこころを整理しなさい。
 お前は自分の意志だけで生きているわけではないよ。生かされているんだよ。この目の前にあるものすべては地球のかけらさ。
 地球の愛、恵みによって育まれている。お前も、そうなんだよ」
「でも、それと反対運動とどういう関係があるの? だって、これを止めなければ、あの海は壊されてしまうんだよ。おばあ」
「それはわかっているさ。でもね、お前は反対運動をしに来たわけじゃあないさ。いきるということは、愛を身体で学ぶことだよ。それを学んだ上で運動をしなければ、対立を生み出すだけさ。
 食べることは、命をこの身体に取り入れることだ。お前がよりよく生きることで、食べた生命たちを殺した生命たちを供養するのさ。
 外に出て風を感じなさい。草と語り合いなさい。空の青さをこころに写し取りなさい。お前自身とお話しをするわけさ。お前がね、この地球のかけらであってすべてであるということを知らないのはお前だけだよ。そのほかのものはすべてそのことを知っていて、お前が思い出すのを待っているわけさ。
 だから、こころを開けばありとあらゆることを教えてくれるわけさ。神さまは、お前のこころの中に在る。それを知りなさい。
 祈りは、こころと語ることだよ。大きなことをやろうと思わなくていいさ。まずは自分がなにものであるのかを思い出せばいい。そうすれば、おのずと道はひらかれてゆくものさ。
 全部吐き出してごらん。そのこころの中にあるものを、膿になって腐りきって、臭気を出すその前に。プツプツと発酵して、ガスを生み出しているおぞましいその記憶を」
 キヨさんにそういわれて、自分のこころを見てみると、腐りきった私の感情が垂れ落ちてきた。くさくてひどい匂いがした。羞悪なドロドロとした感情を抑えて、抑えて、殺して殺して、それでなにも知らないふりをしてきた。
「すべてをぶちまけていいんだよ、感情のそのすべてを。吐き出してごらん。いい子のふりはやめるんだ。
 悲しくて、つらくて。なにも見ないように、こころの奥底に閉じこめてきた、その記憶の扉を開いてごらん。もう大丈夫。すべてを解決できるさ。それを認めないと、越えてなんてゆけないんだから
 越えられないカベはないさぁ。どうしようもないくらいに大きくみえるカベだってさ、案外抜け道もあるもんだよ。神様は意地悪じゃない。やさしいさー。びっくりするくらいにね。
 自分に降り懸かることはすべてが学びのためだと考えてごらんよ。すべてを受け入れるわけさ。そうすれば、自然に道は平坦になる。抵抗しようとするからでこぼこになるわけさ」
「そうかなぁ?」
「そうさ。おばあは何年生きていると思う? おばあは、そう学んださ。お前はいっぱい逃げたから、問題がどんどんおおきくなったわけさ。もうだいじょうぶさぁ。前を向いて歩けばいい。
 胸張って、過去の扉をあけてみせるって自分に言い聞かせてごらん」
「キヨさん」
「そろそろ、次の場所に行く時間だよ」

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