FILE12 愛憎(1)  38

「世界をそれほどまでに大切に思うならば、なぜ自分自身を愛さないの? 君は、もっともっと自分を愛さなければならない」
 そう話し続ける彼の言葉を聞きながら、私は星を眺めていた。今にもきらめきがふり落ちてきそうな星の輝き。こんなにも美しいきらめきを、これまで見たことがなかった。彼が言葉を発するたびに、私の目に映るその星々は輝きを増してゆくようだった。 

「僕らの世界は、無意識の暴走によって滅びてしまった。
 みんなが戦争や環境破壊をしたがっていたわけじゃない。ほとんどの人は、ただ日々を無意識に生きていただけだった。そして、自分が刹那的に生きていることさえも気づいていない人々だった」
 あなたはだれ?
 今さら、そんなことを聞くことはできなかった。私は彼を知っている。そして彼も、私をとても深く知っている。
 こんな不思議な夢を見たのは、なれない場所で眠ったせいだろうか。私たちは今、再び高知へと向かっている。夜大阪を出発したこのフェリーは、明日の朝高知港を経て、昼には足摺岬へと到着する。沖縄と高知を結ぶ不思議なラインを調べ、あの謎を解くために。

「君はどうやら龍神様に随分気に入られているみたいだね」
 いつもの通り部屋で語りあっていると、確信めいた口調で芳明が言った。
「なにそれ?」
「だってさ、考えたことないか?君のいくところって、必ず龍にまつわるなにかがあるんだよ」
「そう? なにも特別なことなんかじゃないでしょ。水があるところ、そのどこにでも龍はいるし、大地のあるところ、どこにでもヘビはいる」
「水のあるところ、どこにでも龍、か」
 なにかが彼の中でひらめいた。
「つまり、人のからだの中にも龍はいるんだよ。
 人間の身体の水分バランスが、この地球と同じなのを知っている? ちいさな身体が人間で、大きな身体が地球なんだ。同じなんだよ、水も土も木もすべての命も。だから、地球の水をきれいにしようと思えば、その血液をきれいにすることにも尽力しなければならない」
「やっぱり自然はシンプルなんだね。すべては、自分の足元からしかはじまらないか・・・。
 龍神さまは、すべての水で繋がっている神様」
「ねえ・・」
「そうだ」
私たちは同時に声を上げた。
「地図だ、地図」そしてそのままの勢いで本屋に走った。
「あった!。これだ」
 高知の詳細地図を広げて足摺岬をみると、そこにはまぎれもなく「龍宮神社」が存在した。
「これだ!」
 芳明のその一言で、私たちはふたたび足摺岬に降り立つことになった。

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