第1章 件名:念のために 添付ファイル:惑星のかけら 002


件名:念のために
添付ファイル:惑星のかけら

 お願いがあります。このメールの添付ファイルを、絶対に見ないでください。ただ、もし私になにかがあったとき、その時はこれをあなたに託します。
 大丈夫だったとき、といってもそれは数時間後にわかることだから。あなたは、まだこのメールを受信さえしていないかも知れない。
 その時はわらって捨てようね。
 お願いだから、バカだなって、笑ってね。私もそうなることを願ってる・・・。



芳明の風景 受信BOX 

 出発の準備を終えてノートパソコンを閉じようとしたとき、メール受信中のメッセージがまだ出たままになっているのに気がついた。送受信ボタンをクリックしたのは僕がシャワーから出てきてすぐの時だったから、もうずいぶん時間が経っているはずだ。
「受信途中でエラーをして固まってしまっているのだろうか?」
 そう思ってよく見てみると、パソコンはけなげに動き続けていた。どうやらとても大きなメールが届いてるらしい。
「念のために」
 そんな件名のメールが届いていた。
「なんだこりゃ? スパムかな?」
 と思いながらも差出人を見ると、彼女だった。
 彼女からメールが来るなんてめずらしいことだった。そもそも同じ家に住んでいる僕らには、メールを交わす必要などない。沖縄に行っていた彼女もやっと今日この家に戻ってくる。これから僕が空港に出迎えに行って、すぐに会えるというのに。
「なんだろう」
 メールを開いてみると、短いメッセージとともに大きな容量のファイルが添付されていた。
「あんなに時間がかかった原因はこの重たいファイルか。一体、なんのファイルなんだ?」
 気になりつつも、僕はそのままノートパソコンを閉じた。今から、このわけのわからないメールを送ってきたご本人を関西空港まで迎えに行かなければならないのだ。
 ノートパソコンと車のカギを持ってリビングを通り抜けようとしたとき、消し忘れていたテレビの中からアナウンサーが興奮気味に叫んでいた。
「・・・・・。緊急ニュースです」
 なにがおこったんだろう?
 僕は気になりつつも、そばにあったリモコンでテレビを消した。カーラジオで聞けばいい。緊急とはいっても、どうせたいしたことはないだろうし、僕には関係のない話しだ。
 急いで靴を履いた僕は、久々に会う彼女を迎えに行くために、軽やかな気分で車に乗り込んだ。


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